| 入学式の日から7日間くらい学校をサボって旅行に出ようと思い、それを実行した。 まずは奈良で悠久の時に思いを馳せ、次は京都。 特に行きたい神社仏閣は考えていなかったが、さて、何処に行こうと考えていると「遅かったな」と声を掛けられて思わず「げっ」と呟く。 すっかり失念していた。 「君。入学式にいないからどうしたのかと思ったよ。洛山はこっちだ」 半ば、というかはっきりと強引に連れて行かれた。 学校の敷地内に足を踏み入れ、おそらく体育館へと向かっているようである。 「あら、征ちゃん。その子は?」 (征ちゃん?!) 頬に手を当てている長身、実渕玲央が驚いたような声を上げる。 彼はバッシュを持っている。やっぱりこの先には体育館、しかもバスケ部専用とかになっているのがあるのだ、きっと。 「僕のものだ」 「いやいや...!」 赤司の言葉を彼女は即行否定する。 「あなた、見たことあるわー...帝光の子?」 「はい。帝光でマネージャーをしてました。です。実渕玲央さんですよね、SGの。お久しぶりです」 そう言ってぺこりと頭を下げる。 「あら、覚えていてくれたのね。ありがとう。それで、どうして?学校は...」 そう。現在平日の放課後。 はっきり言って、学生がウロウロしている時間としてはかなりおかしい。 勿論、学校がこっちならありだろうが、それにしては少し様子がおかしい。 「サボって旅行です」 「ウチに編入しに来たんだろう?」 「ちーがーうー」 いー、と歯を剥いてが言う。 そんな彼女に赤司は目を眇めた。 そんな2人のやり取りに実渕は目を細める。 バスケ推薦で入学が決まった赤司は中学を卒業してすぐにバスケ部の練習に参加した。入学前だが、バスケ推薦を受けて入学が決まっている者にはこういったことは珍しいことではない。 そして、練習に参加して実質1ヶ月程度だが、彼は既に部員の殆どから認められている。 この学校のバスケ部には、無冠の五将と呼ばれている選手が実渕を含めて3人在籍しているが、彼らすら赤司のことを認めている。 赤司を認めないといっているのは、実力の無い選手ばかりだ。そう遠くない未来に淘汰されていなくなるだろう。 そんな赤司が『僕のもの』即ち、『お気に入り』と言っている子を連れてきている。興味がないはずがない。 何より、彼女は入学して間もない学校をサボって旅行するような変わり者だ。 「このままバスケ部の練習、見ていかない?」 「いや、そこまでしちゃうと逃げ切れそうにないので」 やんわり、というかかなりはっきり断られた。 「行くぞ」 そんなの意思を無視して赤司は彼女の手を引いて歩き出す。 「目立つ、目立つー」 「大人しくついてくれば、手は離すけど?」 (手を離した隙に逃げるんじゃないのかしら?) 実渕が思ったが、手を離してもらった彼女は逃げなかった。 練習が終わり、「じゃーねー」と手を振ったの手を引いて赤司は寮に向かった。 「帰らせてー」 「どうせまだ東京には帰らないんだろう?」 指摘されては言葉を飲む。その通りだ。 「バスケ推薦で入学した生徒の寮はここなんだ」 「うわっ腹立つくらい立派ですこと」 歴史のある学校だから寮も古いのだろうと思っていたが、案外そうでもない。 オートロック式になっており、中には食堂やサロンがある。殆どホテルのようなものだ。 「バスケ推薦の人はみんなここ?」 「勿論、一軍に限るみたいだけどね。一定期間一軍に上がれなかったら強制退去」 「うわー...」 かなり厳しい現実が待っているようだ。 食堂に案内されて奇異の視線を向けられる。先ほど、なぜか体育館にいた部外者がさらに食堂にいるのだ。このバスケ部一軍限定の寮の中の食堂に。 「赤司くん」 「他の寮よりは美味しいんだ。まあ、君の作るものに比べるとやはり劣るけどな」 「いやいや、そろそろお暇したいです」 「させると思うのか?」 真顔で返された。 「これをなんというかご存知?」 真顔でが問うと、 「監禁だろう?いや、少しの自由は認めるから軟禁だな」 やはり真顔で返された。 は盛大な溜息を吐き、取り敢えず、食事を摂ることにした。 赤司の言ったとおり、この寮の食事は美味しかった。 食事が終わって赤司に連れて行かれたのは、彼の部屋だった。 「わー、何か。赤司くんっぽい部屋」 きょろきょろと部屋の中を見渡す。 「あ!」 突然が声を上げた。 「どうしたんだい?」 「ホテルに帰らなきゃ」 「だから、帰さないといっているだろう」 「だって、わたしが帰らなきゃ絶対に怪しまれるよ?」 犯罪に巻き込まれたかもしれないとホテル側が心配するかもしれない。 「ホテルに電話をすればいいだろう?」 これは無理だと観念したは、ホテルに電話をした。 「じゃあな、君。おやすみ」 そう言って赤司は部屋を出て行こうとした。 「え、赤司くん?!」 (置いてけぼりですか?!) 「...なんだ、一緒に寝て欲しいのかい?可愛がってあげるよ」 「いや、ノーセンキュー。てか、何でこのバスケ部しかも男子の寮に泊めるの」 「君は僕のものだからだよ」 真顔で返された。 は盛大な溜息をつき、じっと赤司を見た。 「...いいよ、明日付き合ってあげよう」 クスリと笑って赤司はドアを閉めようとする。 「あ、ちょい待って」 「何だい?」 「この近くのコンビニは何処?」 赤司はきょとんとした。 「中に売店があるけど?」 「じゃあ、その売店に女性ものの下着があるのかしら?お風呂くらい入ってもバチは当たらないでしょう?」 男子寮の売店に置いてあったらそれはそれで問題だと思う。 赤司は一瞬言葉につまり、「そうだったね」と頷いた。 外出届を出して早急に2人で近所のコンビニへ行き、買い物を済ませて戻る。一応門限があるのだ。 「あと、寝るときはこれを着ればいいよ」 そう言って、赤司はTシャツとハーフパンツを用意してくれた。 「夜は少し冷えるから温かくして寝るんだよ」 赤司はに対してのみ、かなり面倒見がいい。 翌朝、いつもどおりの時間に起きてベッドの上でボーっとしていると赤司が部屋の中に入ってきた。 「おはよう、君。まだ眠そうだね」 「...走ってきたの?」 「ああ、君はもう少し寝てていいよ。僕がシャワーを浴び終わったら食堂にいこう」 そういわれてはぽてりとベッドの上に寝転んだ。 シャワーを浴び終わった赤司が部屋に戻るとが二度寝をしている。 頬を撫でると彼女はくすぐったそうに肩を竦めた。 「君、朝食に行こう。起きないと襲うよ」 ぱちりとは目を覚ます。 「何か、わたしの身に危険が迫っていたような...」 起き抜けの声でそういわれて赤司は苦笑した。 その後、食事を済ませて2人は部屋に戻る。 赤司は調達してきた碁盤をの前に置いた。 「さて、確認しよう。僕が負けたら、今回君がこの学校に編入するのは諦めよう。つまり、僕が勝ったら君はウチの生徒だ。速やかに」 「わたしが勝ったら、この軟禁を解くことプラス明日、観光案内して」 「そんなの、ウチに編入した後でもいいじゃないか」 赤司の言葉には半眼になる。 「さ、始めましょう」 盤上の石を見て赤司は息を吐いた。 「ないな。投了です」 そう言って頭を下げた。 その言葉を合図にはそのまま後ろに倒れた。疲れと安心で眠ったらしい。 時計を見ると、既に夕方の4時だ。8時間近く飲まず食わずで碁を打っていたことになる。 学校はこれに付き合ってサボったが、部活は今からでも間に合いそうだ。 を抱き上げてベッドに寝かす。 「本当に、僕は君に甘いな...」 の前髪を上げてそこに唇を落とす。 部活に必要な荷物だけを持って学校へと向かった。 が目を覚ますと人の顔が目の前にあって「わあ」と思わず声を上げる。 「あら、失礼しちゃう」 にこりと微笑んで実渕が言う。 「あ、実渕さん。ごめんなさい」 「『玲央さん』」 「...はい?」 「玲央さんって呼んでね。私もちゃんが気に入っちゃった。明日の観光案内、征ちゃんとご一緒させてもらうわ。甘味処は基本押さえるつもりだけど、他にどんなところに行きたい?」 気を失う寸前、赤司の「投了だ」という声が聞こえた。 (赤司くんと本気勝負をするのは、本当に疲れる...) 過去、2度本気で勝負をしなくてはいけなくなった。これまではチェスとオセロだ。 やはり、ほぼ監禁状態で、自由を勝ち取るためにはやらざるを得なくなったのだ。 勿論、今回と同じ結果だったため、こうしてのほほんと入学式から数日サボっての旅行を計画できていたのだが。 「えーと。赤司くんがすっごく嫌そうな顔をするところがいいです」 意趣返しのつもりでが言うと、実渕は笑う。 「いいわよー。あ、これ。食べちゃいなさい。征ちゃんが『君の好きなものだ』って言ってたからお使いしてきたの」 「わ、ごめんなさい。ありがとうございます!いくらですか?」 「そんな野暮なことを聞かないのっ。あと、今日もまだ動けないだろうからホテルに連絡しなさいって、征ちゃんが」 (誰のせいだと...) そう思いつつもは携帯でホテルに連絡を入れた。 「ね、ちゃん。良かったら番号の交換しない?」 「あー、番号はイヤです。いつでも掴まるのが非常に億劫で。アドレスならいいですよ」 「あら、女の子は長電話が好きだって良くいうけど。いいわよ、アドレスだけでも」 そうしてアドレスの交換を行い、実渕は赤司の部屋を出て行った。 翌日の京都観光で、実渕はのリクエストどおり赤司が嫌そうな顔をする観光地に案内してくれた。 中々楽しい思い出が作れた。 |
桜風
12.10.7
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