夕映え





空が高くなり、日が短いと感じはじめる。

全国大会の二連覇を成し遂げ、二学期が始まった。


練習試合申し込みの帰り道、は空を見上げる。

今回、赤司と共にが出向いた。

大抵桃井だけで行ったりしているのだが、あいにく桃井は別の用事を監督から指示されており、だけでは多少心許ないと言って赤司が着いてきたのだ。

一緒に行きたいと騒いだ者達も居たが、「だめだ」という赤司の一言で引き下がった。

はどういう形で練習試合を申し込んでいるのか全く知らなかったので、赤司と共に赴いて勉強し、今後こう言うことがあれば彼女一人で乗り込むことができるうようにという意味での付き添いだ。

勿論、練習が終わった後のことのため、申し込みが終わって帰るのは夕方になった。


日が傾き、空が朱に染まり始めていた。

「こけるよ、君」

声をかけられて彼女は上を向いたまま視線を滑らせた。

「うん、そうかも」

「なら、前を見て歩くといい」

そう言われて空を見上げるのをやめた。彼の言うとおりに前を向いて歩く。

「何か面白いものが見えたのかい?」

「ううん、秋になったね。空が高いよ」

「そうだね」

(半年か...)

自分がこの学校に転校してきてまだそれだけなのだ。

(もっと長い時間一緒にいたような気がしていたのに...)

はすごく不思議だった。

時間の流れに違いがある。それは、聞いたことがある。本で読んだことがある。家族と一緒にいるときは、そういうのを感じたことがある。

ただ、学校に通っていて感じたのは初めてだった。

人はそのとき感じた気持ち、感情で時間の感覚がずれる。

つまり、おそらくにとって、そこは居心地のいい場所なのだろう。

「まだ半年なんだね」

ふと、隣を歩く赤司が呟く。

「ん?」

君がうちの部に入って」

「あー、だまし討ち的に入らされた...」

「何を言っているのかな?俺は君に頼まれて、助けてあげただけじゃないか」

クツクツと少し愉快そうに笑いながら赤司が言った。

「あー、はいはい。ま、赤司くんが言うように、おそらく最善だっただろうしね」

は肩を竦めて言う。


電車のシートに座り、窓の外をぼーっと見ていた。

こてりと肩に重みが掛かった。

「...これまた珍しい」

目の前の窓ガラスに自分と隣に座る赤司の姿が映っている。

少しだけ顔を動かして、至近距離にある赤司の顔を見た。

赤司はいつも静かだ。怒っても静かだ。

「激しい」という単語から遠いところにいる人のようで、だからこそ、怖いのだろう。

感情が見えないから。何を考えているのかわからないから。

暫く赤司に肩を貸し、降りる駅のひとつ手前で

「あーかーしーくん」

と脚を揺すった。

何処を揺すっていいのかさっぱり分からなかったから。

「ん...」

声を漏らして赤司ははっと離れた。

「おはよう」

「...おはよう」

(あら、冷静)

もうちょっと慌てふためいてくれるかなと思ったのに、とはちょっとだけ残念に思っていた。

(俺が寝るだと?!)

しかし、実のところ、赤司はかなり動揺していた。

電車の中で寝てしまうこととか、しかも、に頭を預けて寝ていたとか...

君」

「なに?」

「すまなかったな、重かっただろう」

赤司の言葉には笑った。

「肩くらい、たまになら貸してあげますよ。日ごろお世話になってるお礼にね」

『たまになら』を付けたのは牽制だ。

友人達は自分の考えを超えることを考えているので、正直、予防線を引いておかなくては怖いのだ。

(赤司くんは、その予防線もひょいと越えてきそうで尚怖いんだけどねー)

「そうか」と赤司は返したきり黙りこんだ。

どうしたのだろうか、と顔を覗き込もうとしたら赤司はすっくと立ち上がる。

「さ、降りよう」

電車が降りる駅に停車した。

見上げた赤司は、夕日を背に受けてその表情が見えない。

差し伸べられた手を取って立ち上がる。

「あれ?」

「どうしたんだい?」

首を傾げたに赤司が問う。

「ううん、何でもない」

(ご機嫌、なのかな...?)

はっきりと表情を見たわけではない。ただ、伝わる雰囲気がそんな感じだった。

(やはり、君はトクベツだね)

彼女に対して随分と気を許してしまっている自分が可笑しくて、赤司はそんなことを思った。


「遅い時間になってしまったね。家のほうは大丈夫かい?」

腕時計を見ながら赤司が問う。は夕飯当番だと聞いたことがある。

「大丈夫、今日は休みの日だから、お父さんが作ってくれる」

「...だったら、もう少し時間があるのか。どこか寄って帰るか?」

赤司の言葉には眉を上げた。

「珍しい。赤司くんって凄く時間を大切にすると思ってた」

「時間は大切だが、先ほどの礼はしておきたいからね」

「日ごろお世話になっているお礼って、言ったじゃない」

「じゃあ、これからの貸しを作るためならどうだろう」

(本気で言ってるのかなー...)

赤司はそう言う意味でも読みづらい。

「...『お礼』でお願いします」

の言葉に赤司は満足げに頷いた。









桜風
12.10.22


ブラウザバックでお戻りください