アフター・グラデーション





放課後、部活が終わって更衣室で携帯を確認しては眉を上げた。

急いで着替えて学校を後にする。


結構な速さで自転車を漕いでいたはブレーキを握った。

キキーッと自転車にあるまじき音を立ててドリフトしながら止まる。

の家の門の前に彼は佇んでいた。

君。僕に会いたくて急ぐのはとても可愛いと思うけど、危ないのは感心しない」

その通りであるが、本人の口から言われると何だか違和感がある。何より、その自信満々なところは如何なものだろうか...

「赤司くんを待たせすぎて拗ねてはいけないのと思いましたのでー」

はそう返しながら門を開けて入っていく。

「どうぞ」と振り返って言うと同時に唇を塞がれた。

「ちょ!」

抗議の声を上げるは言葉を失った。

まっすぐに見つめる赤司の瞳に捕らわれてしまったのだ。

「遠距離恋愛なるものを楽しんでみようと言ったのは誰だい?」

「わたしです」

の答えに赤司は鷹揚に頷く。

「そうだね。僕はいつでもキスできるところに君がいないということに抗議した」

「でしたねー」

「だから、僕なりに遠距離恋愛を楽しむことにしたんだよ」

『譲歩しただろう?』といわんばかりの発言に

「ちなみに、具体的にどのように楽しむのでしょうか...」

が問う。

「一緒にいられる短い時間で、どれだけキスができるかと思ってね」

(...わー)

は遠い目をした。

赤司は冗談で言ってるわけではない。

つまり、本気の本気だ。

「というか、ご近所の目を気にしてください」

「それは君が気にすることで、僕が気にすることじゃないよね」

そう言ってまたキスをする。

「唇が腫れる...」

の呟きに赤司はクスリと笑った。


の家に入り、彼女は赤司をリビングに残して制服を着替えてきた。

「何飲む?」

「そうだな、緑茶」

「あら、本場に住んでるんだからー...玲央さんが上手に淹れてくれそうだし」

クスクスと笑うに「君」と不機嫌な赤司の声が届く。

「なに?」

「僕といるときに、他の男の名前を出してはダメだよ」

優しい声音には最後通告という響きを感じた。

「えーと、玲央さんも?」

「玲央も男だ。そして、君。今、言ったばかりだけど?」

玲央はどうしても『お姐さん』な感覚でいるので、違和感があるが、赤司の機嫌が悪くなりそうなのでは「ごめんなさい」と謝罪はしておいた。

「ところで、赤司くんは何でこっちに帰ってきたの?」

「明日が学校の創立記念日で休みだからね」

「今日の部活は?」

「今日明日は出来ないんだ。まあ、フィジカルトレーニングだけはできるから、それはやってきたけどね」

「明日も?夕方くらいから学校は空くんじゃないの?」

明日が創立記念日なら、式典はあるだろうが、それは夕方まで続くようなものではないだろう。

「式典だとかで部活は出来ないけど、自主練はできるから戻ったらロードワークとフィジカルトレーニングはする」

「変な時期に創立したのねー」

誠凛高校の創立記念日は11月の終わりだ。

「てことは、去年。場合によってはわたしは赤司くんに捕まらずに済んだのか」

が呟くと

「去年だったら大人しく寮にいたから、結果は変わらないよ」

と赤司が言う。

「じゃあ、何で今年は戻ってきたの?」

「それを僕に聞くのかい?」

湯飲みを持って赤司が座っているソファにがやってきて、目の前のテーブルに自分の湯飲みと合わせて置いた。

「ん?ダメだった??」

聞いてはいけない質問だったかとが問い返すと赤司は溜息を吐き、の腕を引いて自分の膝の上に載せてキスをする。

「え、と」

「さっき言ったじゃないか。遠距離恋愛なるものを僕なりに楽しもうと思っているってね」

そう言ってまたキスをした。

君がいるから、会いに帰って来たに決まっているだろう?態々言わせるなんて、君はとんだ小悪魔だね」

またまたキス。

「えーと、お茶が冷める」

が言うと

「淹れてもらっておいて少しだけ気が引けるけど。君とキスしているほうが良いんだ」

苦笑して赤司が言う。

そしてまたキスをしそうになった赤司の唇をは人差し指で押さえて止めた。

君」

邪魔をされて少し機嫌悪く赤司が名を呼ぶ。

「ところで、今日。夕飯はどうするの?」

そんな赤司を気にせずにが問う。

君のお母さんは何時に帰ってくるんだい?」

食事の時間は母親が帰ってきてからになるのだろうと思って赤司が確認した。

「今日は遅くなるって言ってたから、夕飯の準備は要らないの。だから、外でも大丈夫だけど」

「買い物は?」

「これからになるね」

「じゃあ、これから行こう」

そう言ってを膝から降ろした。

「お茶は?」

湯気が立たない程度に冷めてしまった湯のみを指差してが言う。

「...飲んでから行こう」

さすがに、これを置いて出て行けば、が拗ねてしまう可能性があると気付いた赤司は湯飲みに手を伸ばした。

「お茶請けあるけど?」

からかうようにが言う。

「...いただこう」

その後、買い物に出かけるまで思いのほか時間の掛かった赤司だった。









桜風
13.2.6


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