| 駅前で待ち合わせをしていた。 は携帯を確認する。 先ほど電車が事故で遅れていると言うメールが入っていた。 物凄く謝られていては苦笑した。彼は何ひとつ悪くないのに、そんなに謝る必要は無い。 そんな内容のメールを返したら、今度は文字とハートの絵文字の割合が2:8くらいのものが返って来てで目が痛くなったので返信しなかった。 「カーノジョ」 知らない人に声を掛けられた。 先ほどから道を聞かれたり、アンケートへの協力を求められたり、署名活動に引き込まれそうになったり、何たらという宗教の勧誘を受けている。 今度は何だろう... (てか、面倒...) 溜息を吐いて声をかけてきた人物を見上げた。 やっぱり知らない人だ。 待ち人は来ないのに、どうでもいい人たちばかりがやってくる。 「ひとり?」 「待ち合わせです」 「でも、全然じゃん。さっきからずっとここに立ってるでしょ?」 「ここが待ち合わせ場所だからです」 「来ないよー」 「来ます」 彼が来ないとか絶対にありえない。言いきれる。風邪を引いて熱が40度くらいあっても絶対に這ってでも来る。 「けなげだねー、振られたんでしょ?慰めてあげるから」 そう言って男がの腕を掴んだ。 は彼を見上げて、視線を少しずらして表情を柔らかくする。 「お疲れ」 「へ?」 「その手、離してくれねーっスか。その子はオレのもんだから」 振り返った男は彼を見上げた。 長身、整った顔。そして、切れ長の瞳で睨まれている。 「あ、よ、良かったねー」 そう言って男は逃げていった。 「ちゃん、ホントゴメン!オレが遅れたからやな思いさせたっスよね...」 眉を下げて彼が言う。 は笑った。 「だから、メールでも返したでしょ。黄瀬くんのせいじゃないんだからって。これで寝坊とかだったら帰ってるから、気にしないで」 笑顔で言われて黄瀬は「絶対寝坊しない...!」とこれまた心に深く刻み付けておいた。 「けど、ウソじゃなくて。『オレの』って言えるのって凄く嬉しいっス!」 弾んだ声で黄瀬が言う。 「でもわたしは『もの』じゃないよ」 幸せに浸って口にした言葉を真正面から否定されて黄瀬は苦笑した。 「ナンパ酷かったっスか?」 指を絡ませて手をつなぎ歩き始める。 「んー、ナンパはさっきの人だけかな?宗教の勧誘とか、署名活動とか色々とお声をかけていただきましたが」 苦笑してが言う。 「どっかの店に入っててくれて良かったんスよー。連絡くれてたら迎えに行ったし」 「だって、すぐに動くかもって思うじゃない」 (そういえば増えたなぁ...) は思い出す。 「どうしたんスか?」 ふとを見下ろせばなにやら思案しているようだ。 「や、最近ナンパなるのも増えたなーって。みんな暇なのかね」 「あー。そりゃ、ちゃんどんどん可愛くなってるスもん。オレ、本当は違う学校とか嫌なんスよー」 拗ねたように黄瀬が言う。 「そう..なの?」 自信なさげにが問うと 「そうっスよ!!」 黄瀬がしっかり頷いた。 「ホントかなー...」 「何で信じてくれないんスかー」 黄瀬が拗ねた。 「だってね。女の子って恋をしたら可愛くなるって聞いたことがあるけど、わたし、全然わかんないんだもん」 「...へ?」 黄瀬がきょとんとを見下ろした。 「ちゃんと可愛くなってるのかな...」 彼女の呟きが耳に入り、堪らず「ああー!」と黄瀬はその場にしゃがみこむ。 「ど、どうしたの?調子悪い??」 慌ててもしゃがみこんで黄瀬の顔を覗きこむ。 「もう、ちゃんのばか!」 そう言って黄瀬は目の前のにキスをした。 「こら!」 ポカリとは黄瀬を叩いた。往来でするなと何度も言っている。 「今のはちゃんが悪いんスよ」 「何で」 黄瀬が立ち上がり、も立ち上がった。 「ちゃんは、ちょっと素直じゃなくて意地悪なのが丁度良いのに」 「は?前から思ってたけど、やっぱり黄瀬くんってマゾ?」 が眉間に皺を寄せて問う。 「何スか、それ!」 「黒子くんと話をしてたんだけどね」 「ストップ!ダメっスよ」 拗ねたように黄瀬がの唇に人差し指を当てて言葉を止めた。 「なに?」 「オレと一緒にいるのに、他の男の名前を出すとか、酷いっスよー」 は困ったように笑って「ごめんなさい」と言い、その話を終わらせた。 「ところで、今日は何時にスタジオ?」 試験期間中なので黄瀬はバイトを入れられたのだ。 まあ、入らなくてもとデートができる数少ない機会なので絶対に東京に戻ってきていたが... お互い地区予選の間はまだライバル校とはならない。だから、デートしても気にならないのだ。 唯一、神奈川の学校に進学してよかったと思うところである。 「9時っス」 「9時から撮影スタートで、ということは..8時には解散か」 が腕時計を見ながら言う。 「うう..その通りっス」 あまり遅くまで女の子が外にいるのは危ないと思うが、出来るだけ一緒にいたいし、という葛藤がある。 「それで、どうする?」 「あ、お願いがあるんスけど。ちょっとちゃんに見立ててもらいたいんス」 「何を?」 「オレの、アクセ」 にこりと微笑んで彼は御用達のショップに向かった。 「どうしたの、突然」 アクセサリーを目の前にしてが黄瀬を見上げた。 「今日の撮影で小物はプライベートのを使うことになってるんスよ。それが今回のコンセプトで」 「ふーん...たくさん持ってるでしょ。黄瀬くんってお洒落さんだし」 「うーん、持ってることは持ってるスけど、違うんス。オレは、ちゃんに選んでもらったのを身に着けたいんスよー。雑誌を見た人みーんなに自慢っス!」 黄瀬が言う。 「ふーん」 「反応薄っ!」 「誰もわかんないよ」 「オレの自己満足だからいいんスよ」 「で、どんな衣装なの?」 「まだわかんないんスけど。秋物の撮影っスから」 「もう!?」 が思わず声を上げた。 黄瀬は苦笑する。 「暑いんスよー。まあ、スタジオ撮りならまだ冷房効かせてくれるけど、ロケとか、辛いんスわ」 「だろうねー...そうか、秋か......」 そう言っては真剣に目の前のアクセサリーに視線を向けた。 手にとっては何かを考えてまた戻す。 黄瀬はそんな彼女の横顔を眺めて幸せに浸っていた。 「これは?」 突然が黄瀬に向かって差し出してきた。 ピアスだった。 「あ、それは思わなかったスね」 そう言ってそれを受け取ってレジに向かっていく。 「え、それでいいの?」 慌ててが追いかける。 「一目惚れっス」 にこりと微笑んだ黄瀬を見送ったはくるりと背を向け、 「アレにすればよかった...」 しょんぼりと呟いた。 「お待たせ」 レジでの精算を済ませてショップを後にする。 「店員さんに『彼女ですかー』って聞かれたっス」 嬉しそうに黄瀬が言う。 は少し照れて笑った。 ファミレスに入って食事をすることにした。 時計を見るともう8時になる。 「黄瀬くん」とが促した。 「もっとちゃんと一緒にいたいっス」 拗ねたように黄瀬が言う。 「今はムリ。というか、お仕事頑張って。そして、赤点取らないように勉強も頑張って」 「オレ、凄く大変なんスねー」 苦笑して黄瀬が言う。 「赤点取ったら当分デートはお預けね」 「酷いっス!ちゃんはオレとデートできなくても平気なんスか?!」 「平気じゃないよ。だから、勉強も頑張って」 「勉強頑張ったらご褒美が欲しいっス!」 「よしよしと頭を撫でてあげよう」 「それだけじゃ嫌っス!」 一応それは受け取るらしい。 「何がいいの?」 が問う。 「キスして欲しいっス!」 何か、似たような会話をしたことがあるような気がする。は苦笑した。 少し考えて「いいよ」とが言う。 「口っスよ!ほっぺとかおでこじゃなくて」 先に釘を刺された。それをしようと思ったのに... は困ったように笑って、頷いた。 「ホントっスか!?」 「まあ、赤点はベンチ関係ないから」 の言葉に黄瀬も思い出した。 「指先もダメっスよ」 「全教科、赤点回避だからね」 も念を押す。 「オレの本気、ちゃんに見せるっスよ!」 「...ご褒美無くても本気見せてよ」 が肩を落とし、黄瀬は笑った。 |
桜風
13.2.6
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