| 練習が終わり、部室に戻ってロッカーに仕舞っているバッグの中の携帯を確認する。 「なんや...」 (今日は早いんかぁ...) そんなことを思いながら今吉は携帯を再びバッグに戻した。 「どうしたんですか?」 今吉の様子を見た若松が声をかける。 「や、何でもないわ」 そう言ってそそくさと着替えている今吉を見て、珍しく練習に参加していた青峰が「女か」という。 「青峰さん!」 桜井が慌てて窘めるように彼の名を呼ぶが 「ええねん。よおわかったな」 と桜井を制して今吉が答える。 「え?!」 部室に複数の驚きの声が上がった。 「何や、どないしたんや?」 不思議そうに今吉は周囲を見渡した。 皆はなんでもない、といいたそうに背を向けた。 「あんたの彼女ってどんな妖怪だ?」 「人間や」 (怖いもの知らずって素晴らしい...!) 部室内の部員たちは青峰の言葉を止めず、むしろ耳を欹ててその会話を聞いていた。 「おっぱいでかい?」 (そこかよ!他に聞くことあるだろ!!) 全員が心の中で盛大に突っ込んだ。 「んー、どうやろなぁ...」 本気で考えている様子の今吉に「どんくらいよ」と青峰が問う。 「せやなー。て、いうか。青峰の言うところの大きいってどれくらいや?」 「堀北マイちゃん」 「...知らんなぁ」 「だから、この子だって!」 そう言ってロッカーにしまっていた堀北マイがグラビアをしている雑誌を取り出して見せた。 「サイズは?」 「えーと」 今吉が問うと、青峰が雑誌の内容を確認し始めた。スリーサイズがどこかに書いてあったはず、と。 「あ、あの。今吉さん?」 普通、彼女のバストサイズを他人にさらそうとするだろうか、とさすがに止めたほうがいいのかと若松が真っ赤になりながら今吉の名を呼ぶ。 「何や?」 「え、と。約束があるなら早く行った方が...」 「あー、せやな」 「んで、大きいのかよ」 「こんぐらいや」 そう言って両手で何かを包む込み様な形を作った。 「マイちゃんほどじゃねーかもな」 「かも知れんなー。グラビアできそうか、言うたらそうでもないしな」 「大したことねーなー」 「やかましい」 そう言って笑った今吉は「ほな、お先なー」と言って部室を出て行った。 「あ、今吉さん」 ドアを開けたところにマネージャーの桃井が立っていた。 「聞き耳立てるんは、良くないんちゃうか?」 ニヤニヤと笑って今吉は足を止めることなく彼女に声をかけた。 「わざとじゃありません!」 「そーかー。ほな、お先ー」 そう言いながら歩いて遠ざかる今吉に「お疲れ様でしたー」と桃井は声をかけた。 それに応えるように軽く手を挙げ、廊下を曲がったところで走り出した。 (今何時や?!) 腕時計を見て、そして小さく舌打ちをする。 今吉は寮生活をしているため、門限というものがある。 そのため、遅くまで外出していられない。 普段、彼女は忙しいため夜は電話くらいで済ませ、偶の休みに少し時間を取ると言ったところだ。 それに対して文句が出ないのは、彼女が大人だからか。それとも... 時々そんなことを考え、しかしこれを口にしたら彼女は凄く傷つくだろうと分かっている。 だから言えない。 男の意地もあるし。 電車に乗って、ひとつ隣の駅で降りて、そして彼女がメールで指定した場所に行ってみた。 「ジブン、突然すぎやで」 挨拶代わりに文句を一つ。 「何飲む?」 「...飲むより食べたいわ」 今吉の文句に言葉を返さずに彼女はメニュー表を今吉に渡す。 指定されたのは駅前のファミレスだ。 今の時間、そこそこ混んでいる。 駅も通う高校の最寄から隣なので、目撃されてもおかしくないのだが、今までそう言った話を振られたことがない。 「部活?」 「せや」 「楽しい?」 「まあまあ、かな」 「楽しいのねぇ。良かったねー。んで、何食べるの?」 「ハンバーグ定食」 そう言ってテーブルに設置してあるボタンを押して店員を呼んだ。 注文を済ませて水を飲んで一息つく。 「んー」 そう言いながら目の前の自分の彼女の胸を観察し始める。 「何?」 「いや、B..か?」 「あたし脱いだらすごいのよ。D寄りのC」 何に対しての『B』かを察した彼女は言う。 「ほんまか?!」 「先生の言葉を信じなさい」 指差して言う彼女に「紗キは、今はワシの先生ちゃうやろ」と今吉が苦々しげに言う。 「ま、そうよね。あたしだって、自分の生徒に手を出すとか、怖すぎてできない。この不況の世の中」 肩を竦めていう彼女に「へいへい」と適当に相槌を打ちつつ、ハンバーグ定食を待った。 |
桜風
14.5.26
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