| と今吉知り合ったのは、2年前。 教職に就きたいと考えていた彼女は、大学の教育学部に進学し、そして、母校に戻って教育実習を行った。 たった2週間。 その短い期間で、なりふり構わず、ということに縁遠い今吉が何故か彼女に執着してしまった。 (何でやったんかなぁ...) 今でもそれがわからない。 では、今、彼女に対する恋心がないのかと問われれば否定する。 「何?冷めちゃうよ」 コーヒーのお替りをした彼女はカップに口をつける。 「ワシ、のどこに惚れたんかな、て思うて」 『冷める』と指摘されて今吉は箸を動かしながらそう言う。 「全部」 ふふん、と笑って彼女が言う。 「自分でいうか?」 呆れたように、でも愉快そうに今吉が言う。 「いいじゃない。それとも、わかんないから別れてみる?」 「それは、あかんな」 の提案を即蹴った。 「あら。あたしってば、思った以上に愛されているのねー」 そう言って彼女が笑う。 「やかましい」 そう返した今吉の表情は、普段学校では見られないものだった。 「進路は?」 「いきなりやなー。まあ、ぼちぼち」 「推薦?」 「来ぃひんわ」 「そうなの?」 不思議そうにが首を傾げる。 「毎年全国に行っとるとかそういうんじゃないとあかんやろ。どれだけ高校バスケやっとるのがおると思っとんや。まあ、優勝でもすれば来るかもしらんけど」 呆れたように今吉が言う。 「でも、ウチ..桐皇って最近グングン伸びてきたんでしょ?」 「全国はまだやな」 「そうだっけ?」 「けど、今年は十中八九行けるで」 「そうなんだ?」 「今年、凄いのが入ってきたからな」 そう言った今吉は少しだけ困ったような表情を浮かべている。 「あら、手のかかる子なんだ?」 愉快そうにが指摘する。 「何でわかってんねん」 ため息交じりに言うと 「翔一の顔がそう言ってる」 指差して彼女が言う。 今吉はそれを煩わしそうに軽く払って「せやな」と頷いた。 「どんな子?」 「女性の魅力の基準がバストな奴や」 「あら、女の敵」 真顔でが言う。 「何やねん、さっき『C』って言うたやないか」 「言ったわよ。でも、そこで満足してないんでしょ?てか、あたしのブラカップ言ってないでしょうね」 「ワシも知らんかったことをどないして言うんや」 呆れたように今吉がいい、 「適当に」 とが言う。 それに対して今吉が視線を逸らした。 「ちょっと!」 「や、こうやって、やな...」 先ほど青峰に見せたように両手で何かを包み込むような仕草を見せた。 「で?そのガキンチョはなんて?」 「...小さい」 「シバいた?ねえ、その子シバいた??」 据わった目でが問うと 「や、シバいてないわ」 と今吉は視線を泳がせる。 「シバきなさい!そして、なんでもっと盛らないの!!」 「そこか!」 思わず突っ込んだ。 「言うたかて。からのメール見た後やし、あいつの相手しとったらまだここに来れへんかったかもしれんし」 そう言って少しだけ覗うようにちらと彼女を見れば、まんざらでもないといった表情を浮かべている。 「そ」と返す声も随分と軽くて。 だから、今吉はほっと息を吐いた。 「そういえば、そのガキンチョの名前は?」 「聞いてどうすんねん」 「覚えておく」 ニヤッと笑う彼女の表情は少し凶悪で「青峰大輝」と素直に答えた。 「そ。青峰、ね」 早速呼び捨てで、だからこそ、彼女がまだ少し怒っているのがわかった。 (青峰、に会わんよう、気ぃ付けぇ...) 心の中で後輩の無事を祈りつつ、目の前の皿を平らげる。 そして、もコーヒーを飲み終わった。 彼女の場合は、今吉にペースを合わせいたようで、彼の食事がすんだのと同時にカップを煽ったのだ。 「もうちょいゆっくり飲んでも...」 今吉が指摘するとは自分の腕時計をトントンと叩いた。 彼女の腕を取ってその時計で時間を確認した今吉はため息を吐く。 「もうこんな時間か」 「まあ、お互い時間が取れただけマシじゃない?」 そう言って彼女は伝票をさっと手に取って立ち上がる。 「せやから、ワシが持つって」 「お黙り、被扶養者でさらに私立高校進学者」 ビシッと指差して彼女が言う。 「ジブンかて私立高校出身やないか」 不貞腐れたように今吉が言う。 「あたし社会人。翔一、高校生」 それを言われると言葉が続かない。 「ま、落ち込みなさんな」 そう言って彼女はレジに向かって行った。 「ズルいわ」 どうしても越えることができないそれを持ち出されたら引くしかない。 今吉はそう呟き、盛大なため息をついて席を立ちあがった。 |
桜風
14.6.2
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