年下彼氏と年上彼女の事情 5





 気持ちの切り替えは得意な方だ。

それは自他ともに認めること。

「どうかした?」

ふいに声をかけられ振り返ると、教材選びに付き合ってもらった先輩だった。

「何がですか?」

問い返すと「元気ないみたいだし」と言われる。

ドキリとした。

が、それは多くの場合、声をかけるための取ってつけたような理由となるものだ。

「別に、いつも通りですよ」と返せば「ため息ばっかりなのに?」と返されて言葉が出なかった。

無意識ではあるが、ため息がこぼれてもおかしくない心境でもある。

「私にだっていろいろあります」

適当に濁して言うと「相談、乗るよ」と返されて困った。

いい人だとは思っている。お人よしとかそういう意味でも。

しかし、たとえば、相談に乗ってもらって解決するかと言えばそうではない。

神様でさえ無理なことを思ってしまったのだ。

そんな自分を嫌悪しただけなのだ。

「そう?何かあったら相談してくれて大丈夫だからね」

引き際の良さも好感度が上がるというもので。

(困ったねぇ...)

嫌いじゃないから困る。

「ありがとうございます」と当たり障りのない返事をした。

「そういえば、昼間の」

少しだけ胃がチクリとした。

「カフェで見かけた高校生たち。なんか初々しかったね」

そう言われて少しだけイラッとした。八つ当たりというのは重々承知だ。

だから、ぐっと我慢して

「高校生ですか?結構いたと思うんですけど」

と返すと

「ほら、少し小柄の髪の長い女の子と、背が高くて眼鏡の...って、覚えてないかな」

ピンポイントで今の苛立ちというかこの胸の中のもやもやの原因を言い当てる。

「そうですね」

そっけなくそう返して、帰宅の準備をして「お先に失礼します」と言って帰宅の途についた。


駅で電車を待っていると「そういえば...」と今更ながらに思い出す。

このままだと当分連絡できそうにないことに気づき、そしてそれまでの最後の会話がアレとなることに少しだけ落ち込んだ。

向こうは気気にならないのだろうか。

携帯を取り出してダイヤルを選択して、ポケットに仕舞った。

いや、これではだめだ。

こちらは大人なのだ。わがままを言ってはいけない。

「能面眼鏡め」

「能面ちゃうわ」という声が返ってきそうで思わず吹き出す。

笑うって大事だと思った。

少しだけ胸がすっとした。

同じ人物の事でむかむかしたり、すっきりしたり。

「忙しいな」

自分の心境をそう揶揄してホームに滑り込んできた電車に乗った。


「あかんわ...」

寮の一室。今吉は自室で頭を抱えた。

少し小さな喧嘩。

そのおかげで連絡が取りづらくなった。

は、たまにピンポイントでやらかしてくれるからなぁ...」

ピンポイントで苛立ちのツボをつく。

大人のくせに、とたまに思ってそしてへこむ。

それはつまり、自分が子供だと認めていることなのだ。

だから、なるべく彼女の年齢、自分たちの年の差などは考えないようにしているのだが、ああして並んでいるところを見せられるとやはり痛感しなくもない。

とてもしっくりしたのだ。

お互い無理をしていない、そんな感じ。

自分たちの様子を客観的に見たことがないから周囲にはどう映っているかわからないが、やはり少し無理が見えるのではないかと思う。

何せ、普段そう感じなくもないのだから。

「どないしよ」

携帯に手を伸ばして、そしてベッドの上に投げた。

(あかんわ)

今日、話をしたらまた喧嘩をしそうな気がした。だから、やめておく。

電話くらいならまた明日でも大丈夫だろう。

ざわざわする胸を落ち着けるように、一度撫でて深呼吸をする。

「寝よ」

起きていてもいいことはなさそうだ。

課題は先ほどもやもやしつつも済ませた。こういうところに抜かりはない。









桜風
14.6.23


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