年下彼氏と年上彼女の事情 6





 消防保安点検だとかなんだで、その日の出勤は遅い時間でよかった。

ふと思い立って、いつも通りに家を出て懐かしの母校に向かった。

まだ授業中らしく、人の姿はなかった。

時計を見て、「そうか」と呟く。

まだ最後の教科の時間なのだろう。

放課後になっていれば、教育実習で世話になった教員のところに顔を見せるついでに、体育館に向かってみようかなと思っていたのに、少し残念だった。

ため息をついて苦笑すると「ウチの学校になんか用なのかよ」とけだるげな声をかけられてそちらに視線を向ける。

両手で何かを包み込むような仕草をしている彼に首を傾げつつ

「ちょっと母校を覗きに来ただけよ」

が返す。

「B..か」

ポツリと呟いた彼の言葉に確信した。

(こいつが青峰か)

と思ったと同時に

「Dよ!」

と思わず盛る。

「へー、脱いだらすごいタイプ」

愉快そうに彼は笑う。

「あー、ホント問題児そうね。納得したわ」

「ああ?!」

凄むように聞き返す彼の視線を軽く流し肩を竦める。

「あ、もしかしてあんたか」

「何が?」

「キャプテンの女。ああ、バスケ部な」

(何だ、言ってんの...)

これまでの今吉の態度では、学校では自分の存在は伏せられていると推測していた。

別におおっぴらにしてほしいとは思っていなかったが、それでも、隠されると恥ずかしいと思っているのかと勘繰ってしまう。

とはいえ、こちらも公言しているわけではないのでお相子と言われればそうなのだが...

「何、そんな話してたの?」

本人のいないところで色々聞き出してしまえ、と思って話に載ってみた。

何とも小さい自分にそっと自嘲をしつつ、それでも好奇心の方が勝った。

「あー、いや。こないだまで誰も知らなかった。や、諏佐、さんは知ってたかもしれねーけど」

「知らなかった?」

「ああ。ま、恥ずかしいんじゃねーの?おねーさん、明らかに年上だし」

ドクンと心臓が鳴る。

何か目の前の青峰はまだ言葉を発していたようだったが、それが耳に入らない。

『恥ずかしい』

何が?

が恋人であることが。

「そうかー、高校生は恥ずかしいか」

納得したように、むしろ納得させるように呟いたの言葉に「あ?」と青峰が問い返したが、は歩き出す。

「もうちょい待ちゃ放課後になるぜ」

「いいわ。時間もないし。あなたも、部活にくらいは出なさい、青峰クン」

そう言っては早足でその場を去っていく。逃げるように。

「名前、なんで知ってんだ?」

ガシガシと頭を掻きながら青峰が呟いた。


「さっきあんたのカノジョ来てたぜ」

部活に遅れてやってきた青峰は今吉を見るなり、そう声をかける。

「はあ?!」

盛大に声を上げた今吉は少しだけ思案した。

何かあったのだろうか、と彼女の最近の様子を考えるが、特に思い出せない。

何せ、そんなに頻繁に会えないし、直近は喧嘩をした。

喧嘩をした後は、お互いが冷却するまで大抵時間を空ける。

そして、そろそろ冷却期間は終わったごろで間違いないと思う。

「何の用やったんや?てか、それホントにそうか?」

疑う今吉に

「Dなんだろ?脱いだらすげーって」

(誰の事や。てか、何でワシの知らんことをコイツが知ってんねん)

「こうやって、Bじゃねーかなって呟いたら、Dって言われたけど...あんまでかくないのにDならまあ、脱いだらすげぇんじゃねーの?」

(ああ、や)

納得してふと青峰に視線を向ける。

「さっき、っていつや?」

「6時間目の時」

「サボっとたんか」

呆れたように呟く今吉の代わりに若松が怒鳴り始める。

「まあまあ」といつものように若松を形だけ宥めてため息を吐く。

「青峰くん!どんな人だったの、今吉さんのカノジョさん」

休憩時間でもないのに桃井が話に入ってきた。

「あ?」

「青峰...」

言うなよ、という意味を込めて彼の名を呼ぶが

「いわね」

と青峰が言う。

「えー!どうして!!」

「本人に聞けよ。ま、おっぱいはお前んがでかい」

「青峰くんのエッチ!」

バシンと青峰の背に平手を食らわせた桃井はプリプリ怒りながらその場を去って行った。

「んだよ」

背中をさする青峰を見ている今吉の視線に気づいた彼が不機嫌に問う。

「あ、いや。おおきに。悪かったな」

「見せもんじゃねーんだろ」

そう言って青峰はふらっと練習に割り込んでいった。









桜風
14.6.30


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