コイビトカッコカリ 12





 週末となって都成と一緒に帰宅する。
 一応、出来るところまできれいにはしたけれど、本当なら人様を歓迎できる部屋ではない。
「お邪魔しまーす」と玄関で靴を脱いで「あれ何?」と聞いてきた。
「青峰選手のサイン」
「NBAって言ってなかった? どしたの?」
「夏にこっちで試合があって、その時黄瀬くんが貰ってくれた」
 だいぶ端折っての説明だが、そんなに詳しく聴きたいわけではないだろう。
「へー、黄瀬さんが」
「友達だったんだって。中学の時のチームメイト」
「え? 黄瀬さん、NBAプレイヤーと一緒にバスケしてたの? 若宮君、相手が悪すぎない?」
「しかも、今、身体を絞ってんだって」
「何だって?! 相手悪すぎるよ」
「手加減するつもりがないらしいからね」
 そう言ってそのまままっすぐ部屋にに向かった。
 通勤バッグを所定の場所に掛けて、都成と一緒に買って帰った夕飯代わりのあれやこれやをテーブルの上に置く。
「ねー、これは?」
「夏にこっちであった試合の、青峰選手の着てたユニフォームのレプリカ」
 ベッドの脇に飾っているユニフォームを見て不思議そうにする都成を放っておいて部屋着に着替える。都成も大きなバッグから着替えを取り出していた。

「んじゃ、かんぱーい」とビール缶のプルトップを上げてコツンと缶を合わせる。
 一口飲んで、買ってきた餃子や焼き鳥串、刺身を取り出して抓む。ご飯は、確か今週は全部食べ切れなかったおにぎりがいくつか冷凍庫にあるはずだ。
 暫くとりとめもない話をしていたが、「それで?」と話を促す。態々うちに泊まりたいというなら、何か話があるのだろう。
 彼女は「あとちょっと飲んでからじゃダメ?」という。
「いいけど、前後不覚になった都成の話って本当に意味わかんないから聞き流すよ?」と返せば「わかりました」と手に持っていたビール缶を煽り、べコリと凹ませた。
「実は」と正座して話し始めた都成の話に呆れるというか、何というか感想が難しい。
 先日、小林さんのチームが打ち上げをした日。都成は三軒目も回ったらしい。店に入って以降の記憶はないが、目が覚めるとホテルで、しかも全裸で寝ていたそうだ。隣で寝ていた男も同じく一糸纏わぬ格好で、血の気が引いたという。
 取り敢えず、隣で寝ている人間を乱暴に起こして自分はホテルを後にして、自宅でシャワーを浴びて着替えて出勤したそうだ。
 隣で寝ていたのは、田中さんで、それは間違いないという。
「未遂という可能性は?」
「ない。使用済みのゴムがあった」
「それはそれは……。随分と大人になったねぇ。けど、ワンナイトラブから始まる恋も悪くないって昔豪語してなかった?」
「してたけど、それが同僚であると話は難しい」
「難しいんだ?」
「難しいでしょ、何か、こう……」
 中空で手をふよふよさせて説明しようとしているが、まあ、感覚はわからないでもない。
「で、どうするの?」
「何もなかった感を出すために、ホテル代を払おうとしたら、要らないから付き合ってほしいって言われた」
「あんなに罵倒したのに?」
「したのに、だよ。もう、めっちゃ混乱してとりあえずホテル代は押し付けて、「少し考えさせてください」て逃げた」
「それ、後で話を仕切り直すのにまた気まずさがあるのでは? もう十日くらい経つんだよね?」
「そーーーーだよ! 気まずさがあるんだよ! 今! ナウ!」
 ダン! とテーブルに両手を叩きつけて言う。下の階の人に怒られないかしら?
「どうしよう」と縋るように言う都成に「どうしたいの?」と聞いた。
「わかんない。田中さんの事なんて全く知らないもん」
「まあ、チームが違うもんね。去年か一昨年に異動してきた人だから、一緒に働いたこともないし」
「それー。今回の二週間も只管業務をこなすだけでそんなに雑談できなかったし、やっとチーム全員の顔を見たのは打ち上げの時だよ?」
「その時に、生理は調節できるってドヤられた」
「そう。……あれ? なんで知ってんの? 話したっけ?」
「その日、黄瀬くんが様子を見に来てくれたから。都成が、人によってはすごく重いって言ってからって」
「はー、何と良い彼氏なのかしらね。もう正式に付き合っちゃえば?」
「んー……」
「黄瀬さんなら大丈夫だと思うけどねぇ。今と変わらないというか、むしろ正式に付き合うってことになった本当に遠慮なくドロッドロにを甘やかすことに精を出しそうだけど」
「それもちょっと困るなぁ」
 こっちも本当は早く覚悟をした方が良いんだろうけど、黄瀬くんが待ってくれるというから甘えてしまう。
「大人になったら恋も仕事も卒なくこなしていくんだろうなって思っていた子供の頃の私がいた」
「わかるー。やってみたら何もかもすごく大変なの。上手にできないって言うか、正解がわからないって言うか」
「「大人って大変だねー」」
 私と都成の声が重なった。二人で笑って、テーブルの上のものを片付ける。
「よし!」と都成が立ち上がった。
「何?」
「寝る!」
「クレンジングはこれ。せめてシャワーを浴びてから寝て」
「りょ!」
 都成がシャワーを浴びているうちにベッドを整えて、自分用の布団一式を準備する。ベッドは都成に譲ろう。
「えー、一緒に寝ようよ」という彼女に「狭いから嫌だ」と返して先に寝るように促して私もシャワーを浴びることにした。

 翌朝、朝食を摂っていると突然都成が「よし、決めた!」と立ち上がる。
「交際を始めるんですか?」
「一回デートしてみる」
「まあ、それも一つの手だね」
「だから、付き合って?」
「なんて?」
「だから、ダブルデートしよう? ほら、来週三連休があるじゃん? そこで、そうだな……。ディズニー行こう。遊園地での態度って本性が出るって聞いたことがある」
 私も聞いたことがあるけど、それはつまり「黄瀬くんにお伺いを立てて決めないといけないのでは?」というと「聞いて」とスマートフォンを渡された。
 ゆっくり寝たから、時間はさほど早くなく、連絡しても迷惑ではない時間だろうと思ってメッセージを送ってみた。
 詳細は省いてみたけど、彼自身あまり興味がなかったようで、質問を返されることなく了解の返事がある。
「いいって」
「よっし! いつにする?」
「日曜じゃない? 金曜は打ち上げだから。またやらかすかもしれないしね」
「うーわー、反論の余地がない」
 朝食を摂り終わった後、服を買いに行きたいという都成のリクエストに応じて家を出た。彼女は今日も泊まるらしい。
 二人で出かけるのは久しぶりで、それぞれ好みが違うからほとんど意見できないけれど、服を見て回るのは楽しい。ここ最近身に着けるものを購入する際は大抵黄瀬くんと一緒だったことを思い出す。
 都成が満足のいく買い物を済ませ、「次どこ行く?」と言われて、最近買えていなかったものを購入すべく移動した。
「ははーん、スケスケのやつ?」
「普通の!」
 黄瀬くんと一緒だと行きづらいランジェリーショップ。気にしない雰囲気を出して外で待ってくれるとは思うのだけど、やはりこちらが何だか気まずいし、そもそも気にしない雰囲気を出しても本当は気まずい思いはあるかもしれない。
 ストレスが溜まったらお高いランジェリーを買う女性も少なくないと聞いたことがある。服は買っても着ないかもしれないが、ランジェリーは無駄にはならない可能性があるからだとか。確かに、ランジェリーはレースが多ければ多いほど高価になってたくさん洋服を買うのと変わらない金額になることもある。でも、その分可愛いんだよな……。
 ふらふらと足が向かうのはそのお高いランジェリーの方で、こんなの買っていつ着るの? と思いながらも「ちょっとしたパーティーに最適」という謳い文句で売られているドレスっぽい服よりは身に着けやすいなどと理屈を並べる。
」と声を掛けられて振り返ると布面積があまりにも少なくて心許なくなりそうなランジェリーを持っている都成がいた。
「これなんかどう?」
「都成に良く似合うと思う。あっちがレジだって」
「はーい。……って、行くかい!」
 ノリツッコミをして商品を戻しに行った。
 実はさっきから気になっているというか、目を引いてやまないランジェリーがある。少し派手かな、と思いながらも手に取った。
 少し赤みの強いピンク色でレースがふんだんに使われている。ただ、この下着を見たときに咄嗟に浮かんだのが「黄瀬くんこういうの好きかな」だったからもう本当に自分は往生際が悪い。
 かといって購入しなければ気になって結局仕事帰りにでも寄りそうな気がしたため、購入した。都成も都成で何か購入したらしい。さっきの心許ない下着でも購入したのだろうか。
 朝食が遅かったため、昼食は抜いて、偶然通りかかったカフェがビュッフェをしていたため、飛び入りして甘味を堪能し、夕飯と明日の朝食べるパンを購入して帰宅した。

 翌週、都成は買った新しい服を着て来た。
 テンションが高かった彼女も昼休憩を前に随分と静かになる。おそらく、日曜の約束を取り付けるために田中さんを昼食に誘っているのだろう。親友がそんなに繊細だとは思っていなかった。週末のあれは戦闘服を買いに行っていたということか。
 金曜日になり、終業のチャイムが鳴ると殆どが席を立つ。
「七時半に店に着けばいいんだよな?」と声を掛ける人もいて、少し残業して合流する人もあるようだ。
 会場となっている体育館には他部署の人もいた。まあ、かん口令を出しているわけでもなく、面白い見世物として噂にもなるだろう。二人とも社内でそれなりに有名人のようだし。
 既にギャラリーは満員で、人の隙間からコートを見る状態になってしまっている。
 仕方ないかという思いもあるけど、本音はちょっとだけ不満だ。
「ああ、さん」と手招きするのは部長で、部長までここにいるなんて思っていなかった。
「部長までご存知だったんですか?」
 流石に部長の隣で観戦したい人はいなかったらしく、丁度空いていた。
「私はバスケ好きだよ? 木村君が態々教えてくれたんだよ。彼はとても気が利くね」
 なるほど。確かに私も聞いたことがある。毎年インターハイを追いかけているから、お盆休みの旅行先は一年前からホテルを予約しているらしい。
「また黄瀬君のバスケを見られるとは思わなかったよ。彼がインターハイに出場した三年間は本当に見ごたえのある試合ばかりだった。彼が一年の時の桐皇戦は私の中で随分と印象の強かった試合だったなぁ。黄瀬君が試合中に急成長したんだ。手に汗握ったよ。ただ、桐皇のエースの青峰君が圧倒的だったなぁ」
「はあ?!」
 思わず大きな声を出してしまった。周囲の視線が集まる。
「失礼しました」
「大丈夫だよ。もしかして知らなかったの? さんも高校時代バスケしてたって聞いたことがあるんだけど」
 誰から聞いたんだろう。
「残念ながら、全国大会には縁がないもので」
「そうか。お、始まるみたいだね」
 試合はワンオンワンで五本勝負。つまり三本先に取った方が勝ちとなる。体育館は一時間しか借りなかったからあまり時間を掛けてくれるなという幹事からの要望があったらしい。幹事自身から聞いた。黄瀬くんがディフェンス、若宮君がオフェンスで始まった。
 若宮君のドリブルを黄瀬くんがカットしてオフェンスとディフェンスが交代となる。
 あっという間に二本取った黄瀬くんがこの一本を取れば試合終了だ。
 三本目をはじめる前に黄瀬くんがこちらを見た。
 緩急をつけたドリブルで若宮君を抜いた。若宮君がやけくそにゴール下でジャンプして黄瀬くんのシュートを阻もうとした。試合ならファウル覚悟のディフェンスだろう。あわや接触といったところで、黄瀬くんは空中で姿勢を変えてボールを持ち換え、背面ダンクをした。
 一瞬静まった体育館の中がワッと湧く。あのプレイは夏に見た青峰選手のプレイと同じだ。「めっちゃかっこよかった」と私がべた褒めした時、黄瀬くんは「俺もできるよ」と言っていた。海常の黄瀬涼太は凄いプレイヤーだと聞いていたから、「できたよ」ということなんだろうなと思っていたけど、会社員の黄瀬涼太もプレイできた。え、待って。かっこよくない?
「じゃ、俺の勝ちってことで」
 圧倒的な実力差を見せた黄瀬くんは若宮君にそう言い放った。
「黄瀬さん、手加減してあげなよ」と誰かが言ったが、「実力差があっても手を抜くのは相手に失礼だと現役の頃に学んだんで」と彼は返す。そのとおりだとは思ったが、呆然として動けないでいる若宮君が心配にもなる。彼は自分がインターハイに出ていたことを随分と自信にしていたようだし、何より、自分が最も得意なことがバスケだと言っていたのだ。
「いやー、良いもの見た」とぞろぞろとギャラリーがいなくなる。
さんは移動しないのかな?」と部長に声を掛けられて、「あの二人を連れて行きます」と返す。
「そう。あ、今回私も仲間に入れてもらっているからまたバスケの話をしようね」と言って、木村さんの案内について行った。
 黄瀬くんは早々に更衣室に向かい、ギャラリーがいなくなった後、若宮君は肩を落としたまま体育館を出て行った。
 取り敢えず、彼らを待っている間暇なので、ゴールを畳んでモップを掛けることにした。どういう状態で返すように言われていたのか都成から聞き忘れたのだ。
 モップを掛けていると黄瀬くんが戻って来た。
「他の人は?」
「いませんねぇ」
「なんでがモップ掛けてんの?」
「返すのにどういう状態で返したらいいかわかんなかったから」
「たぶん、前に使ってた人はモップ掛けてないよ。滑ったもん」
 いつ、どこで、何時何分何秒? 全然そんなのわからないプレイだったんだけど。
「まあ、若宮君が戻ってくるまでモップ掛けるよ。暇だし」
「俺も付き合うよ」と黄瀬くんがモップを取りに行こうとしたタイミングで若宮君が姿を見せた。
「終わり」と言ってモップを片付けて戸締りの確認をして鍵を掛けて受付に返す。
 十九時半から始まる予定の打ち上げ会にはギリギリで間に合いそうだ。
 鞄の中のスマートフォンを見ると「まだかー」という都成からのメッセージが複数来ていた。もう全員そろってしまったようだ。
「先に始めてて」と返したが「そうもいかない」と返ってくる。
「急げと言われた」
「ここから近いの?」
「徒歩十分くらいかな」
 歩きながら後ろを向いて若宮君が付いてきているか確認する。少し離れたところにいるが、ちゃんと付いてきている。自分が想像していなかった未来にいるのだから、足取りも重くなるだろう。
「だから、せめて先にオフェンス譲ったんだけど」と頭上から声がした。確かに、黄瀬くんオフェンスから始まったら彼は何もできなかった。
「そういえば、三本目。黄瀬くん、本当にできたんだ。昔は出来たって話かと思ってた」
「あの時は正直に言うとそうだったんだけどね。青峰っちのことべた褒めするから面白くなくて、つい。でも、今回ので身体を絞って軽くなったから、できそうだなって思ったんだ」
「待って。できないかもしれなかったってこと?」
「まあね。どう? 青峰っち以上に褒めてくれていいよ」
「いや、ほんとに。とてもかっこよかったです」
「また好きになった?」
 本人の確認で頷くことに抵抗はあるが、それでも事実で頷いた。
「それは良かった。賭けに出た甲斐があったよ。そういや、の隣に立ってたおじさん、誰?」
「あー、今聞いてくれてよかったわ。部長ですねぇ。バスケが好きで毎年インターハイを見に行ってるんだって。黄瀬くんの試合も覚えてたよ。桐皇戦が印象的だったって。黄瀬くん、青峰選手と対戦したことがあったんだね」
「まあ……その後も何回か」
 彼の様子から結果は思わしくなかったらしい。
 時折振り返って若宮君の存在を確認しながら打ち上げ会の会場に到着した。宴会の出来る座敷の大きな部屋に案内される。
 待ち侘びていた室内の空気に申し訳なさを感じながら空いている席を探せば、部長の周りしかない。
「黄瀬くん、あそこ。若宮君も、あそこしか空いてない」
 二人は急いで空いた場所に座った。最後に残ったのは黄瀬くんの隣だったため、そこに腰を下ろす。
 どうやら今回の打ち上げ会は、追加で若宮君の歓迎会、そしてついでにうっかり忘れてて開催していなかった黄瀬くんの歓迎会を兼ねているらしい。なるほど、主役がいないのに先に始められるはずがない。
 部長から挨拶があって、黄瀬くんと若宮君からも挨拶があり、やっと宴が始まる。
「黄瀬君、一杯どうだね」と部長が勧めるが彼は断った。運動したばかりで酒が回りやすいから今日は飲まないつもりだという。一方、若宮君はビールジョッキを煽っていた。
「あれは?」と黄瀬くんに聞いてみると「どれだけ強いか知らないからわかんないけど、すぐに回ると思う」と彼は言う。
 もう、仕方ないな。
 お店の人に声を掛けてソフトドリンクを注文し、若宮君の前にはテーブルに並んでいる食べ物を置いた。
「先にお腹に何か入れて。そんで、ちょっとアルコールを薄めてからまた飲みなさい。うちの課には酔いつぶれた人間を介抱する人なんていないんだからね」
くらいだよね」
 急に声が降ってきて振り仰ぐと今回の幹事がビール瓶を持って立っている。
「私だってしたくない。大人なんだから自己責任でどうにかしてほしい」
「おや、どうしてアタシの顔を見るんだい?」
「私が手を焼くのはあなただけだからよ」
「聞いた、黄瀬さん。はアタシだけを気に掛けているって」
「そんな話だった?」と黄瀬くんが返し「事実と異なる発言でしたねぇ」と私が続ける。
「照れ屋なんだから!」と言った都成は向かいの席の部長に「部長」と言いながらビール瓶を傾ける。
 そして、部長の隣の席に座って肩を落としている若宮君に「まあ、相手が悪かっただけだから。君がすごいってのが全く分からなかったけど」とトドメを刺しながらビールを注ぐ。
「彼はいいプレイヤーだよ」と部長がフォローした。私も正直彼の現役時代のプレイを見ていないからフォローのしようがなかったからこれは助かる。
 ひととおり部長は歴代のお気に入りの試合について語った後、「そういえば、黄瀬君はVORPAL SWORDSのメンバーだったよね」と続けた。
「よくご存じですね」と黄瀬くんが応じる。何だろう、その横文字のチーム名。
「なに?」
「アメリカのストバスチームと対戦した高校生の日本代表チーム、ってところかな。高二の時の話」
「待って待って。それ聞いたことがある。最初日本のストバス大会で優勝した大学生チームが超虚仮にされてリベンジマッチ組んだってやつ?」
「そうそれ。、見てないの? テレビ放送もあったけど」
「見てない。最初の試合があまりにも酷かったってうちのポイントガードが言ったから。彼女が言うくらいだから相当酷いんだろうなと思って近づかなかった。なんてことだ……」
 頭を抱えると「俺、映像持ってるよ」と黄瀬くんがいう。
「貸してください」
「あ、うん……。今度ね」
 間髪入れずにお願いすると黄瀬くんは少し困惑したように頷いた。
「黄瀬さん、何も食べてないっぽいけど、アレルギーあった? ごめんね、確認してなかった」
「ああ、いや。身体を絞ったら軽くなって今調子が良いからこのままもうちょっと絞ろうかと思って」
 黄瀬くんの言葉に私と都成は顔を見合わせた。
「聞きまして? 数カ月に一度「明日からダイエットする」宣言をする都成さん」
「あーあー聞こえない」
 耳を塞ぎながら彼女は返す。
「女の子はちょっとぽっちゃりしてる方が良いよ」と黄瀬くんが言うと「うるせー! 男の言う『ちょっとぽっちゃり』は女の『痩せてる』なんだよー! わかったふりしていうなよー」と都成が言う。周囲の女性陣も深く何度も頷いていた。
 黄瀬くんは困惑しながら「ごめんなさい」と謝っていた。
 二時間程度の飲み会は終了し、有志による二次会に誘われたけれど、帰ることにした。
」と黄瀬くんに声を掛けられて足を止める。
「送るよ」
「帰るの遅くなるよ」
「いいよ。最近ジムに通ってたから一緒に帰ってないし」
 そう言って黄瀬くんがするりと手を繋いでくる。
 駅からの帰り道、街灯が消えていた。
「ここ、点いてたよね?」
「一昨日くらいにチカチカしてたから切れたんだと思う。昨日は早く帰ったからまだ日があって気づかなかった」
「どうかした?」と黄瀬くんが顔を覗き込んできた。
 急にそんなことを言われてびっくりする。
「なにが?」
「……いや、何でもない。この街灯が点くようになるまで毎日送るから」
「いいよ。残業がなかったらジムに行ってるんでしょ?」
「趣味みたいなもんだから良いの。前の仕事は、ちょっと義務っぽかったけど」
 確かに、スタイル維持は必須事項だったのだろう。
「じゃあ、週明けに一応役所に電話する予定だからそんなに時間はかからないと思うけど」
「すぐに対応してくれるといいね」
 取り敢えず、街灯が点くまでは一緒に帰宅するという話は受け入れることとして、ひとまず、明後日のディズニーでのダブルデート実現するのかが目下の問題ではある。





桜風
22.10.8


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