コイビトカッコカリ 13.5





 黄瀬くんに呼ばれて先程コンビニで購入した下着を持って向かう。
 脱衣所が、私の家のお風呂場よりも広くて羨ましいと思った。
 タオルの場所とか教えてくれるために黄瀬くんもここにいるのだろうと思っていたら急に服を脱ぎだす。
「黄瀬くん、なんで脱ぎだすの?」
「俺も一緒に入るから」
 きょとんと返す黄瀬くんは本当にそのことに疑問を抱いていないらしく、むしろ脱ぎ始めない私を不思議そうに見ている。
「明るいんだけど」
「でも、は暗いの苦手でしょ? どのみちベッドも明るいままだよ」
 いやぁ、お気遣いありがとうございます。でも、できればオレンジまで灯りは落としてもらいたいし、何というか、まだ心構えができていない状態でいきなりこれはちょっとハードルが高いというか……。
 私が一人で困っていることをさほど気にしない黄瀬くんは上半身裸になった。そのままズボンのボタンに手を掛けたところで「ちょっと待って」と私が止める。
「どうかした?」
「触っていい?」
 黄瀬くんは不思議そうに「どうぞ?」と体を起こした。
 腹筋に興味をそそられた。所謂シックスパックと言われているほどではないが、きれいに締まっている。胸筋だってあるし、とても、きれいな身体だ。ペタペタと無遠慮に触っている自分に気づいて慌てて手を引っ込める。
「大変失礼しました」というと、「どういたしまして」と黄瀬くんが笑う。
「この後、俺もをたくさん触るから」
 耳元に顔を寄せてそんなことを言うもんだから、思わず彼を押し返した。
 しかし、ここですったもんだしても仕方ないため、「タオルを貸してください」と提案する。
「えー、すぐに剥ぐよ」
「あと、浴室側の電気を消してください」
「暗いよ?」
「脱衣所が点いてたら薄暗い程度でしょ」
 黄瀬くんは諦めたようにため息をついて浴室の電気を消して高いとことにある棚の中からタオルを一枚取り出してくれた。
「他には?」
「先に入ってて」
「仰せのままに」
 そう言って黄瀬くんは何のためらいもなく素っ裸になって「クレンジングはそれね」と浴室に入っていった。
 私も覚悟を決めて衣服を脱いでとりあえず、畳んで端っこに置いておく。買ってきた下着はパッケージに入ったままだけど、とりあえず取り出すのは後で良い。
 黄瀬くんが指定したクレンジングを使ってメイクを落としてお風呂に入った。クレンジングは、どうやら新しかった。黄瀬くんが仕事をしていた時のかもしれないと思ったけど、ちょっと違う気がする。それよりも、下着だけ用意してクレンジングは頭になかったことに少し反省する余地はある。
 スッピンを見られることに多少の抵抗感はあるけれど、言っても仕方ない。
 バスルームのドアを開けて中を覗いてみると、黄瀬くんは既に湯船に浸かっていた。というか、本当に広い。湯船なんて二人入っても十分な広さだ。二人の内、片方が黄瀬くんであってもだ。
「スポンジはそれ。ボディソープがそっちの青いボトルでシャンプーは白い細いやつ。コンディショナーがその隣の赤ね」
 湯船の中から長い腕を出して指さしながら教えてくれる。
 どのボトルもお高そうで、あまり量を使わないようにしようなど、貧乏くさいことを考える。
「あのね、黄瀬くん」
「なに?」
「どうしてこちらをずっと見ているのでしょうか」
「見るでしょ、普通。好きな子の裸だよ。どうして見ないの」
 見ない方が失礼だと言わんばかりの黄瀬くんに「恥ずかしいから見ないで」というと「はいはい」と返事があり、湯船からざばんとお湯が溢れた。
 髪を洗ってコンディショナーで整え、身体を洗う。
 待って、このボディソープ、超すべすべになる。自分の可能性を見出してしまうじゃないか。二十代後半ともなれば、お肌が水をはじかなくなると言われて、実際そうだなぁと実感していたのに、これは……。
「ねえ、黄瀬くん。これどこで買ったの?」
 投資してもいいと思った。これは自己投資としてアリだ。
「通販で買ってる。確か、予備のボトル置いてるはずだから明日あげるよ」
「買わせて」
「ちょっと高いよ」
「この自己投資はありだと思いました」
「じゃあ、俺にとっても自己投資じゃん」
 どういうことだろうと考えていると「の身体を触るのなんて、と俺だけでしょ?」と言われた。なんかもう水垢離したい。黄瀬くんの言葉はいやらしさがないけれど、ストレートで中々ダメージが大きい。この爽やかスケベめ。
 それから身体の泡を流して、湯船に入るべきかと悩む。お湯を張ってくれたのは私が入りたいといったからだから浸かるのが礼儀だろうが、黄瀬くんが入ったままだ。スペース的には余裕があるけど、気持ち的には全く余裕がない。今更ジタバタしても仕方ないのはわかっているのだけれど、ジタバタしてしまうのも仕方ないと思う。
 私、今までどんなセックスしてたっけ?
 過去を振り返ってみると、基本的に相手はこんな立派な家に住んでいなかったため、お風呂に二人で入るなんて物理的に不可能だったし、ホテルを利用していた時は、そういうものだと思っていたから気にも留めなかった。
?」
 動かない私を心配して黄瀬くんが湯船から上がり、顔を覗き込んできた。
「湯あたりした?」
「ううん、緊張してきた」
 正直ちょっと吐きそう。
 黄瀬くんは「ははっ」と笑って「俺も」と言ってキスをする。
 そして私を抱え上げた。軽く、「よっこいしょ」などの言葉もなく。
 慌てて黄瀬くんに抱き着くと彼はまた笑って「柔らか」と感想を零して私を抱えたまま湯船に浸かった。湯船の中では後ろ抱っこされている姿勢となる。
「抱えるときは声を掛けて」
「ん、わかった」
 耳たぶを食みながら返事をされてくすぐったい。
 それから黄瀬くんは私の乳房に遠慮がちに触れて掌で包み込んだり乳首を触って指の腹でつぶしたりする。
」と濡れた声で名を呼ばれて振り返るとそのまま唇を奪われた。身体を捻って黄瀬くんのキスに応え、私もまた彼に触れる。先程脱衣所で触れた逞しい胸に手を置いて膝で身体を支え、浮力に助けてもらいながら彼のキスを堪能した。胸に置いている手からは早くなった彼の鼓動が伝わってきて、少し安心した。本当に、緊張してるんだ。
 キスをしながら笑うと「なに?」と唇同士が触れたまま黄瀬くんが言う。
「ホントに緊張してんだ」
「してるよ。するよ。もう」と拗ねたように零す黄瀬くんの唇を啄む。
「ベッドに行くよ」といった彼は私を抱えてそのまま湯船から出た。

 湯船からベッドまで抱きかかえられたまま移動した。途中、バスタオルで申し訳程度に拭われたが、申し訳程度だ。
 ベッドに降ろされてそのまま押し倒される。
 啄むようなキスをする黄瀬くんに「待って」というと「待てない」と返された。
「明るいのやだ」
「でも、暗いのも苦手でしょ?」
「オレンジ」
 黄瀬くんは「俺のお姫様は注文が多い」と言いながら明りを落としてくれた。
「もういいね」と言った黄瀬くんに「優しくして」と返すと、何かに耐えるような変な顔をした。
 再び啄むようなキスをされ、少し唇を開くと彼の舌が入ってくる。ゆっくりと味わうように舌を絡ませる。随分と長いキスで身体が熱くなる。やっぱり黄瀬くんはキスが上手だ。
 唇が離れて、黄瀬くんと至近距離で見つめあう。彼はぎゅっと目を瞑り、そのままぎゅうと抱きしめてきた。私が彼の背に腕を回すと「ごめん」と彼が言う。
「好きすぎて、抑えらんないかも」
「仕方ないなぁ」と私が笑うと黄瀬くんは驚いたように私の顔を覗き込んできた。
 そのまま顔を引き寄せて唇を啄むと噛みつくようなキスをされる。いつもの蕩けるような気持ちのいいキスではなくて、貪欲に求められているようなそれは私の身体の中心を燻ぶらせる。
 黄瀬くんの大きな手が私の乳房を包む。キスでたくさん感じてしまった私の身体は少しの刺激でも敏感に反応してしまう。
 彼は私の乳房に唇を寄せる。ちうと吸い、硬くなった乳首を甘噛みしたり、舌で押しつぶしたりした。軽く歯を立てられると背中がピリピリと痺れるような感覚があり、思わず声が漏れる。
「触っていい?」と掠れたような声に頷いた。先程から太腿を撫でられて私の中心は彼に触れられることを期待している。ぐちゃぐちゃに濡れているはずの入口を指で擦る。もっと奥に触れてほしくて腰がゆらゆらと動く。恥ずかしくて止めたいのに、止まらない。
、セックスってどれくらいぶり?」
「へ?」
 どうして何も考えられない状況になってそういうことを聞くのか。
「一年以上空いてる?」
 恥ずかしくて顔を覆いながら頷いた。余裕で空いている。もっとしてない。
「じゃあ、しっかり解さないとね」
 黄瀬くんの指が中に入ってくる。彼の指は長いから細く見えるけれど、ちゃんと男の人の指で骨ばっている。思ったよりも質量がある彼の指は私の反応を見ながらゆっくり奥に進んでいく。一瞬触れられただけでお腹の奥が痺れてしまうような箇所にあたり、思わず声が漏れた。黄瀬くんはそれを逃すことなく、少し強めに指の腹で擦る。中がきゅうと締まって、チカチカと星が散る。何度も彼は私の好い所を擦っていき、私は絶頂を迎えた。
、大丈夫?」と黄瀬くんが顔を覗き込んできた。
 私は彼の頭を引き寄せてそのままキスをする。無遠慮に彼の口内に舌を入れて絡めて吸う。彼も応えるように私の舌を吸い、中に指を入れて私が好いと感じる箇所を擦った。太腿にあたる黄瀬くんの性器は随分と固くなっていてぬるぬると先端を私に擦りつける。唇を離すと彼は私の首筋に顔を埋めて「ねえ」と誘う。
「うん」と返すとベッド脇のチェストに手を伸ばして小さな箱を取り出し、パッケージを開けていた。さっきコンビニで見たデザインのだなと思いながら眺めていると視線に気づいた黄瀬くんが私の額にキスをしてひとつ取り出す。
 スキンを付けた黄瀬くんが私の中に入ってくる。ゆっくりと自分のではない熱と質量が私の中を侵食していく。時折止まり、そしてまた動きだす。もう随分と経験がないから正直どうだったか覚えていないけれど、たぶん、これは結構、いや、かなり苦しい。あれだけ解されたというのに、黄瀬くんも随分と苦戦している様子だ。
、苦しくない?」
「大、じょぶ」
 呼吸は苦しい。力を抜くと受け入れるのが楽になるということは、理屈ではわかっているのだけれど、現実は理屈じゃない。
 ゆっくりゆっくりと時間を掛けて黄瀬くんが私の中に入ってきて、そして、彼がひときわ大きく息を吐いた。
 呼吸を整えた黄瀬くんは「動いてい?」と囁く。
 いつもの余裕のある甘い声ではなく、どこか切羽詰まっているような少し掠れた声に心臓を掴まれる。
 黄瀬くんはゆっくりと単調な動きで私の中を動く。丁寧に、身体の中を愛撫されているようだ。指で解してくれた時、私の好い所を見つけて刺激していた彼がそこを刺激することなく、ゆっくりと時間を掛けて私の中を、奥を解していく。きっと、もっと動きたいんだろうなと思う。それでも、優しくしてといった私に応えるためなのか、そういうセックスを好んでいるのかはわからないけど、ただ、大切にされているという充足感というか愛しさというか、そういう感情で胸がいっぱいになる。『愛される』とはこういうことなんだと思う。では、私が彼にそれを返すにはどうしたらいいのだろう。もらってばかりは嫌だ。
「黄瀬くん」
「ん? キツイ?」
 黄瀬くんは動くのをやめて少し上半身を起こして私の様子を見た。
「ううん、もっと動いて大丈夫だよ」
「けど、まだ奥がきついから。オレが好きに動いたら、辛いかも」
「大丈夫。ねえ、ちょうだい」
 黄瀬くんに腕を伸ばす。彼は一度瞑目して息を吐いた。
「辛かったら言って」と言った彼は私を勢いよく貫いた。目の前に星が散る。それからは先ほどまでのゆっくりとした愛撫のようなものではなく、貪欲に求めるような動きで私の中を蹂躙する。確かにこの質量と勢いだと受け止めるのにちょっと辛い部分はある。私の中で暴れながら彼は私の名を呼び「好きだ」「愛してる」と惜しむことなく愛を向ける。
 再び血の気が引くような、身体中の体温が一カ所に集中するような感覚を覚えた。
「も、イく」と零して私は絶頂を迎え彼もまた私の中に熱を放った。
 イったばかりの私に気を遣っていたようだけれども、ずるりと異物が身体から抜けていく感覚に、熱の籠った声が零れる。
、大丈夫?」
「喉が渇いた」
「待ってて、水を取ってくる」
 私を抱えてきたときに一緒に持って来ていたバスタオルが床に落ちていたらしく、それを拾って腰に巻き付けながら黄瀬くんは部屋を出て行った。
」と何度も呼ばれた。何度も何度も。こんなにも大切そうに、宝物のように私の名前を呼んでくれる人がいるなんて思ってもみなかった。
「涼太」
 彼に揺さぶられながら私もたくさん名前を呼んだつもりだけど、呼べていたのだろうか。
「なに?」
 返事をされて「わあ!」と思わず驚き、「ええ?!」と彼も驚く。
「どうしたの?」と言いながら冷たいペットボトルを差し出してきた。
 彼の疑問には答えずに「いただきます」と水を飲む。私が開けやすいように先にキャップを開けてくれていた。
 勢いよくボトルを傾けてしまい、口の端から水が零れた。
 それを黄瀬くんがぺろりと舌で舐め掬う。
「何?!」
「勿体ないから」と黄瀬くんは私の手からペットボトルを取ってふたを閉めてベッド脇のチェストに置きながら「ね、もっかい良い?」とふたたび私を快楽の海に誘う。
「優しくしてね」と返すと彼は目を細めて「努力するよ」と言ってキスをして愛を囁くように私の名前を呼んだ。





桜風
22.10.15


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