不釣合いだなんて言わせない






 顔良し、運動神経良し、勉強もまあオッケー。

黄瀬涼太。高校1年生。モデルでも人気で、バスケの腕も買われている。

バラ色の高校生活、と言いたいところだが、やはりどんなに素晴らしい才能を持っていても上手くいかないことはあるもので。

「はぁ...」

悩ましげなため息を吐く黄瀬にチームメイトは不審な視線を向ける。

「どうした、黄瀬」

イライラする笠松を宥めて声をかけてきたのは小堀だった。

「小堀センパイ」

「悩み事か?」

「オレ、なんでこんなにカッコいいのに、好きな人には好きって言ってもらえないんスかね」

心底解せないというように黄瀬が呟く。

小堀は回れ右をした。

聞いた自分が馬鹿だったと思わなくもなかったがこちらの様子を遠くから見守っていた笠松たちに

「黄瀬にだって悩みがあるみたいだ。そっとしておこう」

と伝える。


とぼとぼと帰っていると「やあ」と背後から声がして振り返る。

さん!」

黄瀬の声が弾む。

何を隠そう、彼女こそが黄瀬の言うところの『好きな人』である。

彼女はこの学校のOGで、後輩たちの面倒を見にちょくちょくこの学校に足を運んできている大学生だ。

「背中の哀愁はどうにかした方がいいよ、モデルさん」

からかうように彼女が言う。




彼女との出会いは、学校近くの自動販売機前だった。

まだ部になじめていなかった4月のことで、部活が終わって一人で寮に戻っていた黄瀬は、喉の渇きを覚え、ミネラルウォーターを購入しようと自動販売機の前に立った。

ミネラルウォーターを購入した際のつり銭を取りこぼしてそれに慌てて周囲に荷物をばらまいてしまったという、とても恥ずかしい現場を目撃され、拾うのを手伝ってもらったのだ。

それがきっかけで、彼女が良くこの学校にやってきていることを知った。

何度か声をかけているうちに彼女に惹かれていった自分に戸惑いを覚えた。

彼女にアピールしつつ、自分に好意を持ってもらいたいと思って中学時代からの自分の話をした。

天才と謳われた自分の存在をアピールしてみたが、イマイチ反応がよくない。

「ねえ、黄瀬くん」

「何スか?」

「神童もハタチ超えればただの人って言葉知ってる?」

からかうように彼女が言った。

黄瀬が首を傾げると「今は?」と問われた。

「今、って」

「今の黄瀬くん」

そう言われて答えられなかった。

自分が凄いのはわかっている。間違いないと思う。

でも、それは何か違うと思った。具体的にどこがどう違うかわからず、もどかしい日々を送っている中で、人生初の敗北。

(ああ、そうか...)

このチームに入った時に言われた『海常1年黄瀬涼太』という言葉が頭に浮かんだ。


練習試合のあった翌週に、海常高校にやってきたを見つけて黄瀬は声をかけた。

並んでベンチに座って先日感じたことを話してみると、彼女は目を細めた。

よくできました、と言われているようで少しだけじわりと胸が温かくなる。

「オレ、さんが好きっス!」

勢い余って告白するも、彼女は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、片眉を上げて「へえ」と愉快そうに声を漏らす。

「何スか、その反応」

「いや、何だろうね。可愛いね、黄瀬くんは」

そう言って頭を撫でられた。

完全に子ども扱いされている。

高々4歳くらいの違いだというのに。

少し面白くなくて黄瀬は立ち上がる。

不思議そうに見上げるに向かって

「絶対、さんに好きって言わせるっスからね!」

と高らかに宣言した。

この黄瀬の言葉にも彼女は愉快そうな表情を浮かべ、にやりと笑う。

「せいぜい精進しなさい、坊や」

その言葉に黄瀬はぐっと詰まった。

それを見て彼女はやはり愉快そうに笑ったのだった。




「ほら、背筋を伸ばす」

そう言ってが黄瀬の背をパンと叩いた。

黄瀬は背筋を伸ばして、そしてを見下ろした。

「あっという間に追いつくっスからね!誰にも不釣り合いだなんて言わせないっスよ!」

突然の黄瀬の高らかな宣言には一瞬だけきょとんとしたが「受けて立ちましょう」と不敵に笑った。