| 年末の新聞を見ての両親は大騒ぎをしていた。 というのも、常勝洛山が準優勝。つまり決勝で敗北したのだ。 「あんた、大丈夫?」 良くわからない心配をされた。 別にバスケ部が敗北したからといって連動して受験に失敗するというのだろうか。 (でも、そうか...) 洛山が優勝できなかったのは残念だとは思う。 そして、新聞記事を読んで彼女は憤った。 年末にメールが入って、は塾の帰りにそこに向かった。 白い息を吐きながら待ち合わせ場所に向かう。駅の前だった。 「実渕さん」 駆けだした彼女に実渕は手を振る。傍らに少し大きめの荷物がある。 「お久しぶりです」 「ごめんなさいね、忙しいでしょ?」 「いやぁ...」 頭を掻きながら苦笑いを浮かべる彼女の鼻の頭が赤い。 実渕はそこにちょんと触れてみた。 「ふえ?!」 「鼻の頭が赤いから、ちょっとね」 にこりとほほ笑む。 何が“ちょっと”なのかわからないが、取り敢えず、は鼻の頭を手で隠した。 「これ、東京に行ったときに買ったの。何とか浅草寺に行けたから」 そう言って渡されたのは、合格祈願のお守りだった。 「こっちには北野さんとかあるけど、まあ、遠くからもって思って」 肩を竦めていう実渕に「ありがとうございます」とは頭を下げた。 「それで。志望校はまだウチのままなの?」 「首の皮一枚、なんとか引っかかっているので強行突破です」 苦笑していうに実渕は笑う。 「そう。頑張って」 「ステキな先輩の後輩になるために」 「次の夢をかなえるためじゃないの?」 実渕が指摘すると 「あ、それがいちばんです」 「あら。じゃあ、私はオマケ?」 からかうようにいう実渕には慌てるが 「冗談よ。ほんと、可愛いわね」 と笑顔で頭を撫でられた。 「実渕さんは、これからどこか行くんですか?」 傍らの荷物を見ながら言う。 「実家に帰るのよ。年末年始は少しだけ部活も休みになるのよ」 「そうなんですね」 「ええ、ごめんなさいね。私の都合でこの駅に呼んじゃって」 の家から少し距離がある。 「いいえ、塾が近いから大丈夫ですよ。時々この駅を利用してますし」 「そう、よかった」 ほっと息を吐くように実渕が言う。 「じゃあ、また来年ね」 「はい。気をつけて帰ってくださいね」 「ちゃんも、風邪には気をつけてね」 そう言って手を振りあってその場で別れた。 昨年の春先に実渕に出会って以来、何かと気にかけてもらえている。 彼のバスケットボールプレイヤーとしての凄さはうわさに聞いてはいるが、いつも気さくで、その容貌からどうにも年の近い“お姉さん”という感じなのだ。 実渕玲央。 れっきとした男の子で、洛山高校バスケ部のSG。1年のころからレギュラーを獲っていると聞いている。 洛山高校は歴史ある学校であり、男子バスケ部に至っては、全国大会の常連校でさらには頻繁に優勝旗を持って帰っている。 は、今春その学校を受験して、バスケ部のマネージャーになる事を目標に受験勉強を頑張っている。 彼女もバスケットボールプレイヤーだったが、故障により選手を続けられなくなった。 そのことに涙を流している時に実渕に会い、洛山に誘ってもらえた。 何かの縁だ、ということだ。 その縁は、おそらく今のにとってとても大きな、大切な縁になっている。 何せ、目標もなく悲嘆にくれていた彼女が前を向くきっかけになったのだ。 つまり、実渕は彼女にとって恩人である。 大げさではなく、自身がそう思っていた。 マネージャーをしたことはないが、一生懸命頑張りたい。 一生懸命頑張っても挫けることはある。 それを知っていて、それでも頑張ろうと思っている。 |
桜風
15.2.16
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