雨のち晴れ 2





 合格発表の日は、学校が解放されるためほとんどの部活動ができなくなる。

しかし、バスケ部だけは違う。

体育館がそれ専用にあり、もちろん、ひとつではない。

正門から遠いのが難点だが、おかげでこうして部活動にいそしめる。

「集中できていないぞ」

主将に声を掛けられて実渕は前髪を掻き上げた。

「ごめんなさい」

「気になるなら、少し抜けて見てきたらどうだ?集中できないんじゃ、練習の意味がない」

「ええ、そうね。でも、無理なの」

実渕はそう言い、「受験番号聞いていないから」と付け足す。

「何?レオ姉の弟とかがウチの来るの?」

興味を持ったチームメートが話に入ってきた。

「そうね、それに近いかしら?」

「いとこ?」

「それもちょっと違うんだけどね。2年くらい前にナンパした可愛い女の子」

実渕の言葉に「え...」とチームメートが絶句した。

「レオ姉にナンパされて引っかかっちゃった子がいるの?え、大丈夫、その子?」

「どういう意味で言ってるのかしら?」

少しドスを効かせた声で実渕が言うと「いや、何でも...」と返す。

「でも、そうね。気を揉んでも仕方ないし、きっと報告くれるでしょうから、今は練習に集中するわ。ごめんなさい」

そう言って実渕は練習に戻り、チームメートと主将は顔を見合わせて彼らも練習に戻った。


部活が終わり、部室のロッカーを開けると自分の携帯にメールの受信があったことに気づく。

内容を確認して実渕は小さくガッツポーズをした。

「合格したのか?」

「そうみたい。来月から後輩になりますって。ほら」

そう言って実渕は声をかけてきた主将にメールの本文を見せた。

余程嬉しかったのだろうな、と思い一応目を向ける。

「それで、マネージャーになるんだったか?」

そんな話をしていたような気がする、と主将が問うと、「どうかしらね」と実渕が首を傾げる。

「一応、そう言って誘ったことはあるけど、あの子がやりたいことが見つかったらそっちをする方がいいと思うし。まあ、あの子次第だと思うわ」

かなりのお気に入りのようだから誘うのだと思ったが、そこまで強引に考えてはいないらしい。


4月に入り、入学式が行われた。

周りにいる人みんな賢そうだ、とは思った。

たぶん、ギリギリでの合格になったはずだ。そうに決まっている。

頑張ったが、直前の模試の判定もギリギリだったのだ。

それ以上の実力が出せたとも思えない。

(部活、どうしようかな...)

2年ちょっと前に実渕の示してくれた道に光を見てここまでやってきた。

だが、このままでは勉強が心配だ。

親も非常に心配していた。高校に合格したことに対しては、祭のような大騒ぎだったが、その翌日に「でも、勉強ついて行けるのかしら」と冷静になった母に現実を突きつけられて、正直自信ないと思った。

ちゃん」

「はい!」

考え事をしながら歩いていると声を掛けられて返事をする。突然の事で裏声になってしまった。

振り返ると、男子の制服を着ている実渕がいた。

(あ、男子...)

会うときは私服やジャージだったので、視覚的に性別がはっきりしない時ばかりだったが、流石に男子の制服を着ている実渕を見れば「やっぱり男子なんだなぁ」くらいの感想は零れる。

「あら、可愛い」

実渕の前に行くと彼はにこりとほほ笑んでを見下ろした。

「あ、ご挨拶が遅れて」

「いいのよ、そういうの気にしないで」

「実渕さ..先輩は、どうしてここに?」

(あ、そっか...)

よくよく考えれば、今となっては先輩後輩という間柄で、これまでとは立ち位置が変わってくる。

少しさみしいという気持ちが胸に浮かぶ中、

「あっちに数学準備室があるの。あ、中学では職員室があって、先生たちが同じ部屋にいるっていう感じだったかもしれないけど、ウチの高校はそれぞれの教科で準備室って言うのがあって、まあ、教科ごとの職員室ね。
そこに用事があったのよ。ちゃん..え、と。ごめんなさい、苗字、また聞いてもいいかしら?」

いつも「ちゃん」と呼んでいたので、苗字をすっかり忘れてしまった。携帯のアドレス登録も“ちゃん”なのだ。

です。1-4です」

「そう。さんの教室は..あら?ひとつ下じゃないかしら?」

この階にあるのかな、と思ったが4組ならひとつ下だ。

「え?あ、ホントだ。すみません、ありがとうございます」

「いいえ。そうそう。明日部活動紹介のオリエンテーションがあるわね」

「そう..ですね」

歯切れの悪い返事に実渕は首を傾げる。

「無理に、バスケ部じゃなくていいのよ?」

「え、はい。大丈夫です」

(何が大丈夫なんだろう)

自分の返事に自分でツッコミを入れてしまう。

「そう。まあ、ゆっくり選びなさい」

「はい、ありがとうございます」

そう言っては慌てて階段を降りていった。

「どうしたのかしら?」

実渕は首を傾げて疑問を呟き、取り敢えず用事を済ませてしまおうと数学準備室に向かった。









桜風
15.2.23


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