雨のち晴れ 4






 部活が始まった日は、一応全員集まっての紹介があった。

紹介というよりも、顧問の話が主だ。この部の方針その他諸々、意思統一のためのものらしい。

「マネージャー、集合」

その声にこたえてはそちらに向かった。

「頑張ってね」という声が聞こえて振り返ると実渕がひらひらと手を振っている。

コクリと頷いては体育館を出て行った。


男子のマネージャーというのはにとっては初めてのもので、少し驚いた。

一応、マネージャー業を知っているということで経験者の枠に入れられたはいそがしく走り回る。

選手たちは一軍から三軍まである。

ただし、三軍まではおそらく夏のインターハイ地区予選までだろうと先輩が言っていた。

毎年の事でもあり、要は、地区予選まで三軍だったらもうその先はないと、諦める者たちが出るそうだ。

ひとりが諦めたらそのまま釣られて諦める人が出てくる。

こうして人数が減っていき、夏休み前までには二軍までのチームとなる。

こんな大所帯を目にしたことがなかったは、初めて全員が集まった様子を見てびっくりした。

「一軍でもベンチに入れない人もいるんですよね?」

先輩に聞く。

「そうだな。ベンチに入れない一軍というのは確かにいる。ただ、実力的にはやっぱり二軍よりは上だな」

「試合には出られないんですか?」

「練習試合なら、まあ..出場機会はあるだろうな。一応、監督やコーチもそういうときに実力を計っているみたいだし」

強いというのも大変なようだ。

「そういえば、先輩」

「ん?」

「キセキの世代って何ですか?」

部活動紹介の時に耳に入った単語だ。

誰が言ったのかわからないので、言った本人に問うことはできないが、どうやら有名な単語らしい。

「え?」

先輩が驚いたように見下ろし、そして「ああ、でも。そうか」と何か納得した。

「女子は知らないかもしれないな。は、昔選手をしていたって聞いたけど」

「1年の終わりに、走れなくなって...」

そう言うと「だったら尚更か」と先輩が呟く。

「尚更?」

「男子の間では有名だったからな。実渕たちも強かったんだが、赤司たちのおかげで..というか。まあ、そのキセキの世代がいたからあいつらは“無冠の五将”と言われていたんだ」

「無冠の?」

「そうだな。キセキの世代って言うのは...」

突然先輩が口を噤んだ。

「先輩?」

「あ、いや。ちょっと先に行っておくから」

そう言って足早に去っていく。

「あれ?先輩??」

「どうかしたのか?」

声を掛けられて振り返ると、そこには赤司がいた。

「赤司先輩」

「何かあったのか?」と聞かれては首を傾げる。

「確か、さんだよね」

「え、あ。はい」

まさか、マネージャーの名前や顔も全部覚えているのだろうか、と少し驚いていると

「実渕が、君の話をしていたからね」

と赤司が捕捉した。

なるほど、とは納得する。

「あの、赤司先輩。ちょっと聞いてみていいですか?」

「いいよ」と赤司が頷く。

「キセキの世代って何ですか?赤司先輩がそれだというのは、多分そうなんだろうなと思ったのですが...」

の疑問に赤司は少し新鮮な気持ちになった。

「オレが中学時代にそう呼ばれていたんだ。10年に一度の資質を持つ選手が、5人集まったんだよ。だから“世代”と言われている」

「キセキというのが、その10年に一度の資質を指しているんですね」

が言うと

「そう聞いているよ」

と赤司が頷く。

「さらに言えば、同じ学校でそれが重なったからそういう名前が付いたんだろうとは思うけどね」

「なるほど...赤司先輩は、どこの学校だったんですか?」

会話のついでに聞いてみると

「帝光中学。東京の学校だ」

と答えてくれた。

先輩の中には、赤司の事を少し怖がっている、警戒しているようなそぶりを見せる人がいる。

先ほどの、先輩もそうだ。

たぶん、赤司の姿を目にしたから足早に去って行ったのだろう。

「東京ですか。だったら、赤司先輩は推薦入学ですか?」

「そうだね」

「凄いですね。ウチの学校で声をかける人って結構絞られるんですよね。しかも、去年からキャプテンだったと聞いていますよ」

「まあ、そうだね。でも、副キャプテンの実渕が色々とフォローしてくれていたからね」

そう言われては「あれ?」と首を傾げる。

「実渕さ..実渕先輩も、去年から副キャプテンだったんですか?」

「そうだよ。まあ、驚くのも無理はない。確かにかなりイレギュラーだね」

「ですよね...凄いなぁ」

心底感心したような声を漏らすに赤司は苦笑した。

彼女は思いのほか素直だ。

(実渕が気に入るわけだ...)

出会ったきっかけはナンパだとか、そんなことを彼は言っていたが、要は、知らない人で、声をかけたという意味なのだろう。

巷のナンパとは少し毛色は違うはずだ。

「征ちゃん」

いつまでたっても戻ってこない赤司を心配して実渕が探しに来た。

「あら、ちゃん」

「実渕先輩。学校です」

が指摘すると実渕は「あら、ごめんなさい」と口に手を当てていう。

「では、失礼します。赤司先輩、ありがとうございました」

「いいや、構わないよ」

そんな挨拶を交わしてはぺこりと頭を下げてその場から離れていった。

「さ、オレたちも体育館に戻ろう」

「ねえ、征ちゃん。ちゃんと何の話をしていたの?」

気になって仕方のない実渕が問うと

「秘密だよ」

と赤司がからかう。

「ちょっ!征ちゃん!!」

スタスタと歩いていく赤司の背を実渕は慌てて追いかけていった。









桜風
15.3.9


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