| どんなに強豪だろうとテストはある。何せ高校生だ。 そして、スポーツ推薦で入学してもやっぱりそれはある。 とはいえ、バスケ部の一軍はかなり特別扱いであり、自主練は目を瞑ってもらえる。 そのため、テスト期間中であっても自主練のために放課後体育館に向かうものは少なくない。 自主練の際にはマネージャーはいない。 たまに顔を出してドリンクとタオルの用意だけしてくれる場合もあるが、そのあとの片づけは、その日練習を行った者たちが行うことになる。 そういうのが逆に選手たちの負担になるということから、最近ではマネージャーは顔を出さない。 「征ちゃん、ごめんなさい。今日はちょっと早めに上がるわ」 練習を始めて実渕が声をかけてきた。 それを聞いた赤司は苦笑して 「自主練なんだから、断りを入れる必要はないだろう」 というと「そういえばそうね」と実渕は納得した。 実渕は早々に練習を切り上げて体育館を後にした。 向かった先は書店だった。 お気に入りの作家の新刊が発売されるのだ。 部活がないうちに読み切ってしまいたいと思っていたので、こうして発売日に購入を考えた。 新刊案内の平積みしてある書籍を手に取り、他に何かないかと店内を歩いていると洛山の制服を着た女子が踏み台に上がり、尚且つ背伸びをして手を伸ばしていた。 (あら...) 少し気持ちが明るくなる。 実渕はそちらに足を向け、そして、慌てて駆けだした。 「あぶない!」 ぐらりと傾いだ彼女の体を支える。 「え、あの...」 状況が呑み込めていない彼女は呆然と実渕を見上げて「わぁ」と驚きの声を漏らす。 「実渕さ..先輩」 「もう!届かないなら店員さんに声をかけて取ってもらいなさい」 彼女を支えたその姿勢のまま説教を始めた実渕はハタと気付く。 いつもより顔が近い。 理由は、彼女が踏み台の上に載っているからで、だから当然と言えばそうなのだが、とても新鮮だ。 「あ、あの。ごめんなさい!」 そう言って顔を真っ赤にしたが慌てて離れていく。 いつもの距離になってしまい、実渕は少し物足りなさを感じながら、「どの本?」と聞いた。 「え?」 「え?じゃなくて。取りたかったんでしょ?私が取ってあげるから」 「いえ!ご迷惑で!!」 「ご迷惑ではありません。というか、目の前で踏み台から落ちそうになった可愛い後輩を放ったらかしにするような酷い先輩に思われてるのねぇ」 と実渕が言うとまたが慌てる。 「赤い背表紙の」 指差すその先を見て「これ?」と実渕が手をかける。 「それです」 コクコクとは頷く。 のために手にした本は、古文の参考書だった。 「古文、苦手なの?」 「文系が苦手なんです。理系は、何と言いますか、勘で何とかなるっていうか... その参考書は、塾通いしてる友達が、わかりやすいって教えてくれたので」 「そう」と相槌を打った実渕がふと気づく。 「じゃあ、教えてあげましょうか?」 「へ?」 突然の申し出に思わず変な声が漏れた。 「私、ちゃんの逆で文系が得意なのよ。古文漢文が好きなのよね」 「古文漢文なんて、もう外国語じゃないですか」 が言うと 「あら、ご先祖様が怒っちゃうわよ」 と実渕がからかう。 「取り敢えず、レジを済ませて来ちゃいましょう」 「実渕先輩の買い物は...」 邪魔をしてしまったのではないかと心配になって聞くと 「これ。他に何かないかぷらぷらしてただけだからだいじょうぶよ」 と手にしている本を見せてくれた。 「歴史小説ですか?」 「時代小説ね」 の問いを軽く訂正して実渕はレジに向かって行く。 何がどう違うのだろうと少し疑問に思いつつもは実渕に続いた。 「そういうの、好きなんですか?」 「そうね、面白いわよ。今度貸してあげましょうか?」 「時代物苦手です...」 恐縮するように彼女が言う。 「そう。まあ、気になったら声をかけて頂戴。読みやすそうなの見繕ってあげるわ」 「ありがとうございます」 照れたように、気恥ずかしそうに彼女は笑って礼を言った。 |
桜風
15.3.23
ブラウザバックでお戻りください