雨のち晴れ 9





 実渕とのテスト勉強は、テスト当日にも行われた。

つまり、翌日の教科を最後の確認として勉強していたのだ。

「実渕先輩の時間、随分とってしまって申し訳ないです」

「大丈夫よ。ちゃんが問題解いてる間は私も勉強してたし」

明日で試験が終わる。

そうなると、こうして放課後ゆっくり2人で過ごすことができなくなため、その点だけは少し残念に思う。

部活が思う存分できるようになるのは歓迎だが、その両方という道はないのだろうか...

そんなことを思いながらシャーペンを走らせていると

「実渕先輩」

が名を呼ぶ。

「なに?」

「この勉強を見ていただいたお礼は必ず...」

切羽詰まったように彼女が言うものだから実渕は思わず吹き出した。

「な、何で笑うんですか?!」

抗議するは顔を真っ赤にしていた。

「いいのよ。この間も言ったでしょ?ちゃんが部活やめる羽目になったら嫌だからって」

「ですが...」

食い下がるに実渕は「じゃあ」と呟く。

は、このお礼ができると思い、目を輝かせた。

「デートしましょう」

「はい?!」

自分の予想していたものとは違って、は思わず声を漏らす。

「デート。あ、でも。今更だけど、ちゃん彼氏とか...」

居ないと思って接していたが、いるかもしれないという可能性に思い至って実渕は慌てた。

「居ませんねぇ...」

しみじみというに内心ほっと息を吐いて「だったら、問題ないわね。デートしましょう」と改めて提案した。

「あの、デートとは」

「デートはデートよ。映画を見てもいいし、プールとか水族館でもいいわね。あ、インターハイ予選後ってことになるけどね」

事態が飲み込めないを置いてけぼりにしながら実渕は話を続けた。

「約束ね」

にこりとほほ笑んだ実渕にはぎこちなく頷くことしかできなかった。


取り敢えず、テスト期間が終了し、テスト最終日から部活が始まった。

一軍は自主練が認められていたが、二軍以下は認められていない。

よって、大半は久々に体を動かすことになるが、禁止されているのが学校での自主練だということに気づいていた何人かは、毎日のロードワークや態々市立体育館を借りたりして体が鈍らないように過ごしていた。

また、先輩達に聞いていたとおり脱落者と呼ばれる人たちも出てきて、二軍三軍は随分と人が減った。

テストが終わってから1週間が経つと答案が返ってくる。

それに一喜一憂するクラスメイト達の声を聴きながらは驚いた。

思った以上に点が取れていたのだ。

実渕のおかげだ。そして、赤司のノートも。

凄くわかりやすかった。

赤司は成績も優秀だと聞いていた。

だから、成績が優秀な人のノートは成績が優秀な人用にできているのだろうと思っていたが、自分でも理解できた。

実渕に教えてもらい、赤司のノートで復習をして試験に臨んだ。

何とありがたいことだろう。

そして、悩む。

ノートはどのように返したらいいのか。

持ち主を知っており、ただし、借りたルートは実渕経由。

だったら、実渕経由で返すのが妥当だろう。

そう思いながら部活に向かうとロビーに人垣ができていた。

(何だろう...)

そう思ってその人垣に近づき、思わず息を詰める。

何か、掲示してある。

これは、テストの点数というものではないだろうか...

最近では個人情報がどうたらという話でしそうにないが、上位者で、かつ総合成績なら問題ないだろうということだろうか。

とても気になったので、3年の結果が掲示してあるスペースに向かう。

自分の勉強を見てくれていた実渕の成績があまりよろしくなかったらどうしようと心配になったのだ。

だが、その心配は杞憂に終わった。実渕の名前はちゃんとあった。しかも、上から数えたほうが早い場所に。

というか、ズルいとは思ってしまった。

(やっぱり、勉強ができる人の“苦手”は勉強ができない人の“苦手”とは違うんだ...)

理解した。

そして、2年の掲示スペースに行き、うんうんと頷く。赤司の名前が一番上にあったのだ。

最後に、念のため1年のスペースに向かった。

「へ?!」

思わず声が漏れる。

確かに返ってきた答案の数字は良かった。

だが、きっとみんなこんなものなのだろうと思っていた。

しかし、そこに自分の名前があるではないか。下から数えたほうが早いが、ここに掲示してある以上、学年では上位に入る。

「え、あれ??」

狼狽したは完全に不審人物だ。



振り返ると、マネージャーの先輩がいた。

「お前凄いな」

そう言って頭をぐしゃぐしゃと撫でられる。

「ありがとう、ございます」

正直痛い。

男子の力というものを自覚してもらいたい。

さん」

の頭から手がパッと離れた。

手櫛で髪を整えながら振り返ると赤司がいた。

「赤司先輩」

「勉強が苦手だと聞いていたのだけれど。頑張ったじゃないか」

「ありがとうございます。赤司先輩のノート、凄くわかりやすかったです。頭のいい人用じゃなかったんですね」

彼女の言っている言葉の意味が分からず「ん?」と軽く首を傾げたが、特に追及をしようとしなかった。

「あ、ノートは..えっと」

が聞こうとしていることを察した赤司が「実渕に渡してくれたらいいよ」と答える。

「わかりました」

「じゃあ、またあとで。今日は全員そろってのミーティングがあるからな」

そう言って赤司が去っていく。

はふと気づいた。

先ほど自分の頭を乱暴に撫でていた先輩がいなくなっている。

(苦手、なのかな...)

確かに厳格な雰囲気があるし、表情はあまり柔らかい方ではないと思うが、赤司はいい先輩だと思う。

先輩という立場からみた赤司と後輩という立場から見た赤司はやっぱり受け取り方が違うのだろうか。

しかし、同じく先輩の実渕は赤司の事を“征ちゃん”と呼んでいる。

不思議だな、と思いながら取り敢えず着替えるべく更衣室に向かった。









桜風
15.4.13


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