雨のち晴れ 10





 試験後の部活で全体ミーティングがあった。

部員数が減ったことを受けて、一軍から三軍まであった編成を二軍までに統合するらしい。

そのためのテストを1週間後に行うことになった。

これは現在の1軍、勿論レギュラーも必ず受けなくてはならないものだ。

その話が出た途端、体育館の中の空気がピリッとした。

レギュラー争いは見ている方も心が痛む。

は昔を思い出してそっと睫毛を伏せた。


ちゃん」

全体練習が終わり、片づけを手伝っていると実渕が顔を覗かせてきた。

がいるのは大抵二軍か三軍の練習する体育館だ。

一軍の練習している体育館に行くことは殆どない。

「実渕先輩」

「さっき、征ちゃんに聞いたんだけどね。ノートの事、気にしてるみたいだって」

「あ、はい。いつお返ししたらいいでしょうか」

「征ちゃんに聞いたらいつでもいいって言ってたわ。見ないしって。私もいつでもいいけど、3年の教室って来づらいわよね」

「行きづらいです」

コクリと頷く。

「じゃあ、明日。私がちゃんのクラスに取りに行きましょう」

「それは申し訳ないので、私、頑張って持って行きます」

が言うが、実渕がやんわりと丸め込み、明日の昼休憩にノートを取りに行くから一緒に食事もしようということになった。

「わかりました」

勝てそうにないので、はあっさり引き下がる。

「あ、ちゃん。髪が落ちてるわ。結びなおしてあげる」

「え、自分でします!」

「ほら、向こう向いて」

そう言いながらの体を反転させる。

の髪を結びながら実渕は鋭い目つきで体育館の中を見渡した。

(あ、そういう...)

その視線に気づいた女子マネージャー達はにやにやとした。

面白がっている。

一方、牽制された側にいる男子たちは視線をそらす。

「ほら、できた」

「すみません、ありがとうございます」

「いいわよ。じゃあ、また明日ね」

そう言って実渕は自主練をするべく一軍の体育館に戻って行った。



翌日の昼時間に実渕が教室にやってきた。

赤司に借りたノートは手提げの袋に入れてあり、その中に小さな袋が2つ入っている。

昼食は食堂に行こうと話をしていたので、食堂に向かいながら「ねえ、ちゃん。これは何?」と問う。

手提げ袋の中の小さな袋が気になって聞いてみると「お礼です」という。

よく見るとの目の下には隈ができていた。

「あら、寝不足?」

そう言いながら実渕は彼女の隈をそっとなぞった。

「ちょっとだけ」

苦笑いを浮かべる彼女に首を傾げて「ちゃんと寝なきゃだめよ」という。

「はい...あ、それ2つ入ってると思うんですけど、ひとつは赤司先輩に渡していただけますか?」

「征ちゃんにも?」

「はい。ノートを借りたお礼です。実渕先輩には、勉強を見ていただいたお礼」

「デートしてくれるからいいって言ったじゃない」

肩を竦めて実渕が言う。

デートについては、快諾したつもりはないが、決定事項だということは理解している。

「そうなんですけど...そうなると赤司先輩へのお礼ができなくなってしまうので。久々に作ったので、ちょっと焦げてしまいまして...お礼にそれはどうだろうって思ったんですけど、睡魔に勝てずに」

肩を落としながら頭を掻いてが言う。

「あら、手作りなの?ありがとう」

にこりとほほ笑んで実渕が言う。


「というわけで、征ちゃん。ちゃんから預かって来たわ」

部活が終わり、消灯時間の前に実渕が部屋にやってきた。

ノートが入った手提げ袋の中に、彼が言ったとおり小さな袋もある。

「オレがもらってもいいのかな?」

からかうように言うと

ちゃんの気持ちですもの。横取りはできないでしょ?まあ、私ももらってるからね」

肩を竦めてそう返された。

「じゃあ、遠慮なく。そういえば、マネージャーの先輩たちが楽しんでるよ」

「あー、知ってる。でも、ほら。なんていうか...面白くないじゃない?」

首を傾げて言う実渕に

「彼女がいづらくなるようなことは避けるべきだと思うけど。そこら辺は、実渕は上手そうだから、大丈夫か」

「その忠告は肝に銘じておくわ。じゃあ、おやすみなさい」

そう言って実渕は部屋を去っていく。

受け取った手提げ袋からノートを取り出すと、ひらりと紙片が落ちてきた。

丁寧な字でノートの礼が書いてある。

「どういたしまして」

文章を読み終わった赤司はそう呟き、お礼の書いてあるメモを机の引き出しに仕舞った。









桜風
15.4.20


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