| 試験後の部活で全体ミーティングがあった。 部員数が減ったことを受けて、一軍から三軍まであった編成を二軍までに統合するらしい。 そのためのテストを1週間後に行うことになった。 これは現在の1軍、勿論レギュラーも必ず受けなくてはならないものだ。 その話が出た途端、体育館の中の空気がピリッとした。 レギュラー争いは見ている方も心が痛む。 は昔を思い出してそっと睫毛を伏せた。 「ちゃん」 全体練習が終わり、片づけを手伝っていると実渕が顔を覗かせてきた。 がいるのは大抵二軍か三軍の練習する体育館だ。 一軍の練習している体育館に行くことは殆どない。 「実渕先輩」 「さっき、征ちゃんに聞いたんだけどね。ノートの事、気にしてるみたいだって」 「あ、はい。いつお返ししたらいいでしょうか」 「征ちゃんに聞いたらいつでもいいって言ってたわ。見ないしって。私もいつでもいいけど、3年の教室って来づらいわよね」 「行きづらいです」 コクリと頷く。 「じゃあ、明日。私がちゃんのクラスに取りに行きましょう」 「それは申し訳ないので、私、頑張って持って行きます」 が言うが、実渕がやんわりと丸め込み、明日の昼休憩にノートを取りに行くから一緒に食事もしようということになった。 「わかりました」 勝てそうにないので、はあっさり引き下がる。 「あ、ちゃん。髪が落ちてるわ。結びなおしてあげる」 「え、自分でします!」 「ほら、向こう向いて」 そう言いながらの体を反転させる。 の髪を結びながら実渕は鋭い目つきで体育館の中を見渡した。 (あ、そういう...) その視線に気づいた女子マネージャー達はにやにやとした。 面白がっている。 一方、牽制された側にいる男子たちは視線をそらす。 「ほら、できた」 「すみません、ありがとうございます」 「いいわよ。じゃあ、また明日ね」 そう言って実渕は自主練をするべく一軍の体育館に戻って行った。 翌日の昼時間に実渕が教室にやってきた。 赤司に借りたノートは手提げの袋に入れてあり、その中に小さな袋が2つ入っている。 昼食は食堂に行こうと話をしていたので、食堂に向かいながら「ねえ、ちゃん。これは何?」と問う。 手提げ袋の中の小さな袋が気になって聞いてみると「お礼です」という。 よく見るとの目の下には隈ができていた。 「あら、寝不足?」 そう言いながら実渕は彼女の隈をそっとなぞった。 「ちょっとだけ」 苦笑いを浮かべる彼女に首を傾げて「ちゃんと寝なきゃだめよ」という。 「はい...あ、それ2つ入ってると思うんですけど、ひとつは赤司先輩に渡していただけますか?」 「征ちゃんにも?」 「はい。ノートを借りたお礼です。実渕先輩には、勉強を見ていただいたお礼」 「デートしてくれるからいいって言ったじゃない」 肩を竦めて実渕が言う。 デートについては、快諾したつもりはないが、決定事項だということは理解している。 「そうなんですけど...そうなると赤司先輩へのお礼ができなくなってしまうので。久々に作ったので、ちょっと焦げてしまいまして...お礼にそれはどうだろうって思ったんですけど、睡魔に勝てずに」 肩を落としながら頭を掻いてが言う。 「あら、手作りなの?ありがとう」 にこりとほほ笑んで実渕が言う。 「というわけで、征ちゃん。ちゃんから預かって来たわ」 部活が終わり、消灯時間の前に実渕が部屋にやってきた。 ノートが入った手提げ袋の中に、彼が言ったとおり小さな袋もある。 「オレがもらってもいいのかな?」 からかうように言うと 「ちゃんの気持ちですもの。横取りはできないでしょ?まあ、私ももらってるからね」 肩を竦めてそう返された。 「じゃあ、遠慮なく。そういえば、マネージャーの先輩たちが楽しんでるよ」 「あー、知ってる。でも、ほら。なんていうか...面白くないじゃない?」 首を傾げて言う実渕に 「彼女がいづらくなるようなことは避けるべきだと思うけど。そこら辺は、実渕は上手そうだから、大丈夫か」 「その忠告は肝に銘じておくわ。じゃあ、おやすみなさい」 そう言って実渕は部屋を去っていく。 受け取った手提げ袋からノートを取り出すと、ひらりと紙片が落ちてきた。 丁寧な字でノートの礼が書いてある。 「どういたしまして」 文章を読み終わった赤司はそう呟き、お礼の書いてあるメモを机の引き出しに仕舞った。 |
桜風
15.4.20
ブラウザバックでお戻りください