雨のち晴れ 13





 翌日の昼休憩、約束どおり実渕が教室にやってきた。

その日は髪を結んでおり、いつもよりは男子に見える。

「今日は髪結んでるんですね」

が言うと

「まあ、最近暑いしね」

と実渕は苦笑して見せた。

入学前から実渕とは学外で会うこともあり、彼が夏になると髪を結ぶことは知っている。

ただし、髪を結ぶとその分陽射しが首筋に当たるというわけで、彼はあまり好まないというのだ。

「流石に女の子みたいに日傘をさすのは、ね」

と困ったように笑われたことがある。

「じゃあ、行きましょうか」

そう言って歩き出した実渕の後をが追いかける。

話しながら歩いていると、ふいにが口を噤んだ。

不思議に思って顔を上げてみると、元部員がこちらに向かって歩いていた。

彼はキッとを睨む。

(ああ、こいつ...)

知らず実渕の視線が冷たくなった。

「いい気なもんだな。副主将様に良くして頂いて」

すれ違いざまにそう言った。

はますます委縮したように俯いた。

「ちょっと待ちなさい」

鋭い口調で実渕が言うが、彼は応じなかった。

追いかけようとした実渕の腕をが掴む。

「実渕先輩、ダメです」

ふるふると首を振るを見下ろして困った表情を浮かべた実渕が「うん、わかった」と応じた。

それから会話もなく、屋上に上がっていく。


屋上のドアを開けると陽射しの眩しさに思わず目を瞑った。

「あー、やっぱり陽射しが強いわね」

ぼやくように実渕が言う。

「あの、屋内でも大丈夫ですよ」

「いいえ、大丈夫よ」

そう言って実渕はぱちんとウィンクをして屋上に足を踏み入れる。

彼に続き、も屋上に出た。

パラパラと人がいる。

大抵は、恋人同士なのか、カップルが多い。

人目を気にせずに、というつもりなのかもしれないが、ここは学校なのである程度は気にしてほしい。

(高校生って、大人だ...)

自分を棚に上げてはそんなことを思った。

「ほら、こっち」

そう言って招かれたそこに足を向けてみると、確かに日陰ができていた。

「あとちょっとで日向になっちゃうんだけどね。お昼食べてる間くらいは日陰よ」

「実渕先輩、凄いです。よく御存じですね」

「まあ、ねー。ちゃんよりも2年長く学校にいるから。でも、ここの事は内緒ね。見てのとおり、広くないし」

実渕の言葉には素直に頷く。

お互いお弁当を広げて見せた。実渕は、流石に運動部の男子ということもあり、少し大きめの弁当だが、中は彩り豊かで非常に美味しそうだ。

「実渕先輩、寮生ですよね」

「そうよー」

「そのお弁当は、どなたが...」

「私以外いないわね。狭いんだけどキッチンがあるからそこで調理するのよ。あまり使ってる人多くないみたいだけどね」

そう言われて納得した。

ちゃんは..お母さん作、かしら?」

からかうように言われて真っ赤になった。図星である。

一応、朝早く起きて手伝う予定だったのだが、起きられなかった。

「でも、美味しそうね」

そう言われて「ありがとうございます」という。

そして、「ありがとう」という言葉で思い出した。

「あの、実渕先輩」

「はい?」

「昨日は、ごめんなさい」

が深々と頭を下げた。

「ごめんなさいって、何かあったかしら?」

首を傾げ、心底不思議そうに実渕が言う。

「あの、えっと。保健室に運んでいただいた...」

「あー、アレ。あれのことなら、ごめんなさいは要らないわ」

ツンと澄まして言われた。

気分を害したのだろうかと慌てると

「でも、別の言葉なら受け取るわ」

と悪戯っぽく笑う。

“ごめんなさい”の別の言葉、と思って考えていると実渕は困ったように笑った。

ちゃん、しょっちゅう口にしてるのに。こういう時には言ってくれないのね」

益々慌てることに実渕は口パクで示した。

口の形で言葉を読み取り「あ!」と声を上げる。

「ありがとうございました」

「はい、どういたしまして」

そう言って実渕はにこりとほほ笑む。

お互い弁当の中身を交換しながら食事を進め、やがて食べ終わる。

「「ごちそうさまでした」」

手を合わせて口々にそう言った。

ちゃんのお母様、お料理が上手ね」

「私は、実渕先輩のおかず食べて色々自信喪失です」

「ありがとう。でもね、何事も練習よ」

そう言って実渕は笑った。









桜風
15.5.11


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