かわいいひと





 「僕だって、少しくらい気分転換もする」

少し憮然としながらそう言ったのは、京都洛山高校バスケ部主将、赤司征十郎。

何をやっても一番で、敗北を知らないという男の子だ。

ゆえに、現在洛山の主将をしているのだろう。

京都洛山高校と言えば、高校バスケット界の頂点に立っている。それは最近の事ではなく何年も、伝統的に、だ。

つまり、そんな部の主将を今年入学したばかりの1年生が務めている。

洛山高校始まって以来の珍事と言ってもいいかもしれない。

そして、何がすごいって、そのことに対して、異を唱える者がいないということだ。

と言っても、最初はそう言った軋轢のようなものはあったらしい。

しかし、今では彼を主将と認めないと言っている者はいないとか。


私はちらりと隣に座っている少年、赤司征十郎君を見た。

寒いからか公園には人っ子一人いない。子供は風の子というのは昔の話なのだろうか。

「何ですか?」

私の視線に気づいた彼がゆっくりと振り返る。

「ううん。スーパーマンだったな、と今更ながらね」

「何ですか、それ」

そう返した赤司君は少し不機嫌で。

「今日は寒いね」と吐く息の白さを眺めて呟くと「冬ですからね」と面白くない言葉が返ってくる。

「冬はあったかぬくぬくの炬燵で蜜柑を食べたいねぇ」

「それは、嫌いではありませんね」

そう返した赤司君に私はおや?と眉を上げる。

「炬燵、知ってるの?」

「知ってます。実家にはありませんが、寮にはありますし」

この日本の中で、炬燵に入ったことがない人はいるかもしれないが、存在は知っているだろう。

「でも、炬燵に入っちゃったら何もできなくなるよね」

さんじゃないですから」

そう言われて苦笑した。

「さすが、スーパーマン」

そう言うとやっぱりちょっと不機嫌そうに顔をしかめてそしてフイとそっぽを向く。

たまに子供っぽい表情や仕種を見せられて、私は頭を撫でたい衝動を抑えるのが大変なのだ。

「じゃあ」

と赤司君が立ち上がった。

「気分転換、お終い?」

そう聞くと

「僕も忙しい身なので」

と返された。「さんと違って」と余計なひと言もトッピングされて。

「可愛くないなー」

そう思ってと「さんじゃないですよ」と返されて、はて、何の事だろうと首を傾げる。

さんは自分が思っている以上に考えていることが顔に出ているんですよ」と指摘されて少し困った。

先ほどの「さんじゃないです」っていうのは、可愛いに対してなのだろうか。

何と生意気な坊やだ...

「生意気、と思いませんでしたか?」

「思いましたともよ」

そう言って私は笑う。

赤司君はしてやったり、といった感じに笑い、そして、一瞬だけ眉をひそめた。

「何?」

「それ、初めて見ますね」

そう言われてどれだろうと首を傾げる。

赤司君は自分の胸の真ん中あたりをトントンと人差し指でたたいた。

「ああ、これ?」

赤司君が指摘したのはネックレスで、確かに初めて見るものだと思う。

「可愛いでしょ?」

「誰かからのプレゼントですか?」

「プレゼント、というよりもご褒美かな?」

そう言うと赤司君は少しだけ苛立ちを見せた。

「私から、私へのご褒美。昨日買ったの」

「女性ってそういうの良くしますよね」

呆れたように言う。

「いいじゃない。この年になったら「よくできましたー」って言ってくれる人いないんだよ?」

まあ、会社の成績とかそういうので褒めてくれるけど、努力を誉めてくれることはない。結果がなければ、どんなに努力をしても認められないのが社会だ。

さん、いつもお疲れ様です。よくできてます」

そう言って赤司君が私の頭をよしよしと撫でた。

「よくできてますって褒められ方、私初めてだ」

「それはそれは...」

「あのね、赤司君」

「何ですか?」

「これ、赤いでしょ?」

「ええ、ガーネット..ルビーですか?誕生石?」

「ううん。そういうの気にせずに買っちゃった。赤と言えば、やっぱり赤司君じゃない?」

そう言うと彼は肩を竦める。

「苗字からですか?単純ですね」

「シンプル イズ ベスト!」

「Simple is best、でしょ」

私のカタカナ英語は、赤司君により流暢な本場っぽい英語となった。

「でも、そんなものがなくても僕はここにいますけどね」

そう言って自信たっぷりに笑った赤司君の耳だけは少し赤くて。

「冷えてきたね」

と私は自分の耳を指差しながら言う。

「ええ、だから帰りましょう」

流石、赤司君。狼狽えることなく、そう返したか。

私が何を指摘したのか気づいていてコレなんだから...

「さて、赤司君が帰るなら私も帰ろうかな」

そう言って私はベンチから立ち上がった。









桜風
13.12.30


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