凛 6





 副部長に当面のことを任せたは、今回の慈善活動に参加した。

ちなみに、副部長には

「見た目に反して、人が良すぎる」

と苦言を呈された。

『見た目に反して』は余計だと思った。


ボランティアを単位に認めている学校だが、今回のは単位に入らない。

クラブの部長が集まっている部長会でも独自にそういった活動をしているのだ。

今回は、周辺のゴミ拾いだった。火挟みで道路に投げ捨てられているゴミなどを拾っていると、

さん」

と声を掛けられて振り返る。

「氷室君、どうしたの?」

表情はいつものままだが、声は驚いている。

視覚だけに頼っていたら、確かに彼女は何を考えているのかわかりにくいだろうが、声が顔で表現しないところまで表現している。

「どう考えても、キャプテンの代打にさんって筋が通らない気がして」

バスケ部部長が出席できないなら、部員が出席するのが筋だと思う。

副部長とか。

まあ、今回の場合、部長と副部長が同じ教科を選択しており、今回の補講はその教科が対象だそうだから、副部長もムリではあったが。

だったら、部員の誰かに頼むべきであって、他クラブの部長に頼むのはちょっと変だと思った。

だから、監督に事情を話して参加しているのだ。彼女も氷室の意見には賛成だったようだ。

「IHに向けてお忙しいのでは?」

「それって、剣道部も同じだろう?」

だから、余計に思ったのだ。筋が違うと。

「ゴミを拾う地味な作業だもの。時間もそう取られないし」

「少しは取られる」

氷室が返した。

彼女は溜息を吐き、

「まあいいわ。ここで氷室君と押し問答しても仕方ないし」

はそう言って肩を竦めて作業を再開した。

暫くゴミ拾いをして、終了の時間となった。

「俺が持っていくよ」

「いいよ。私が氷室君になったら先生もビックリしちゃうでしょ。バスケ部が参加したってのはちゃんと伝えるから」

はそう言って、今回の当番の教師の方に歩いていった。



週末、氷室は少し足を伸ばして出かけてみた。

学校周辺は結構部活帰りなどで寄り道をしていたが、学校から離れるとまだ探検していない。

部活は午後からだったので、午前の空いた時間を利用してのウィンドウショッピングとなった。

書店の前を通りかかった。

店舗名を見て、それに見覚えがあった。

が時々教室で読んでいる文庫本のカバーにこの店の名前が印刷されているのだ。

扱っている書籍も多そうだし、と店の中に足を踏み入れた。

ゆったりと店内を見渡していると、見覚えのある背中を見かけた。

彼女は一生懸命腕を伸ばしている。

「これ?」

そう言って氷室が本を抜き出した。

『編みぐるみ』とタイトルにある。

彼女に渡すのを忘れてそのタイトルと、表紙の可愛らしいウサギの編みぐるみに目を奪われた。

「え?!」

彼女は振り返り、慌てている。

(凄く珍しい...)

面白いものを見てしまった気分の氷室はそのまま彼女を見下ろしていた。

「あ、あの...」

「え、ああ。ごめん、これだね」

「う..あ、ちが...っ」

未練たらたらな視線を本に向けつつ彼女は言った。

「違うの?」

(違わないの知っているけど)

そう思いながら氷室が棚に戻そうとすると

「やっぱり、違わない!」

と彼女が言った。

氷室はにこりと微笑んで「はい」と本を渡す。

はそれを大事そうに抱えてチラと氷室を見上げた。

「なに?」

「このこと、内緒にしてクダサイ」

なぜか敬語で言われた。

「何で?可愛いよ?」

氷室が首を傾げて返すと

「だから!」

と彼女は必死だった。

「えっと、分かるように説明してくれないかな?」


「えーと...」

彼女の説明を聞き終わって、氷室はどう反応していいか分からなかった。

彼女は小学生のとき、剣道をしている強い女がこういう可愛いものが好きなのは可笑しいと、とある男子に責められたらしい。

それで、そういうものかと納得した彼女は自分の趣味をひた隠しにしていたとか。

さらに、笑わなくなったのも、その少年の言葉がきっかけだとか。

実際、試合中に表情を相手に見られるのは良くないと親に言われていたので、これこそ凄く納得したのだ。

だが、氷室からしてみれば、その少年はの事が好きで、小学生に良くある『好きな子を苛める』の一環で口にした言葉だと思う。

自分だって、そういう甘酸っぱい思い出が無きにしも非ずだし。

さて、このことを言ってみてもいいものだろうかと思ったが、もし、彼女が自分の言葉をきっかけで、周囲にもこれを知られるのを躊躇うことが無くなったら...

(面白くない)

氷室は心の中で呟き、密かに彼女に謝罪をしつつ「へー」と適当な相槌で済ませたのだった。









桜風
13.3.18


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