凛 7





 書店を揃って後にする。

彼女はその後、開き直ったようにレース編みの本にまで手を伸ばしたのだ。

実際、手を伸ばしたのは氷室であり、彼女は「あの右から3番目の本をとってくれる?」とお願いしただけではあるが。

「編み物は良くするんだ?」

彼女の購入した書籍を思いながら氷室が問う。

「うん、結構してるかな。家に帰ったら色々あるよ」

「編みぐるみも?」

「それは、今回初挑戦」

がそういった。少し弾んだ声音で、彼女が楽しみにしてるのが良く分かった。

「出来上がったらひとつくれるかな?」

氷室がそういい、彼女は驚いたように彼を見上げた。

表情は、変わらない。

「欲しいの?」

「おかしいかな?」

「氷室君に可愛いアイテム?」

「変?」

「...意外と良いかも」

彼女がそういった。

「だろう?」

氷室もそう返す。

「部活は?」

が問うた。

「午後練。剣道部は?」

「同じく」

彼女はそう言って頷いた。


「俺、剣道って見たことないんだ」

氷室が不意に言う。

「そうなんだ?あー...でも、そうかもね。そんな身近なものでもないよね。学校の授業で必須でもないし。逆にバスケは小学校のときから授業でやるものだしね」

「そうだろ?」

氷室が言うと彼女は頷いた。

並んで歩いていると、目の前で小さな男の子がこけた。

追いかけっこをしていたようだ。

氷室が手を貸そうと足を踏み出したが、「ちょっと待って」とが止める。

さん?」

何故止めるのかと不思議に思って氷室が問う。

彼女は少年に視線を向けてじっと見ていた。

少年は泣きそうになったが、それを堪えて独りで立ち上がる。

それを見た彼女は微笑んだ。

「え」

氷室が思わず声を零す。

それに気付かず彼女は少年の元へ足を向けた。

「えらかったね。強いね」

少年は驚いたように彼女を見た。怖い顔をしたお姉さんに褒められたのだ。

でも、そのお姉さんの声は、顔とは間逆で優しかった。

「擦りむいてるね」

彼女はそう言ってバッグから絆創膏を取り出した。そして、なぜか消毒も。

「沁みるけど、我慢できるよね。強いもんね」

そう言って彼女は少年に消毒をして、絆創膏を貼る。可愛らしいハートマークのそれに少年は少し難色を示したが、「ありがとう」と礼を言った。

「どういたしまして」

はそう言って少年の頭を撫でて立ち上がる。

少年は駆けていき、は氷室を振り返った。

彼にしては珍しくぽかんとしていた。

「氷室君?」

いつもどおりの表情の彼女に

「え、あ..うん」

と氷室は何とか反応した。

「ぼうっとして、どうしたの?」

が問う。

さん、小さい子の面倒を見るの得意なんだ?」

氷室は彼女の問いに答えず、別の問いを向けた。それについて、彼女は特に不愉快には思わなかったらしい。

「得意..ではないけど。ウチの道場にはアレくらいの子が来てたりするからね。親が『根性を鍛えてくれ』って放り込むの。だから、その面倒を見てるから、苦手ではないかな」

「へー...」

「それよりも、氷室君がぼうっとしてるのって珍しいんじゃない?」

からかうように彼女が言う。

「そうかな?俺だってぼーっとすることはあるよ」

氷室がそう返し、「なるほど」と彼女は頷いた。

「あ、氷室君。しつこいようだけど、このことは内緒にしてね?」

そういいながら左手に持っている鞄を軽く上げた。

「約束するよ」

そう言って氷室が右手の小指を差し出した。

は氷室を見上げ、彼は微笑む。

「ゆびきりだ」

「子供のとき以来よ」

そう言って小指を絡ませ、「ゆびきりげんまん」と声を揃えて歌いだす。

「指切った」と手を離したときには、お互い顔を見合わせた。

氷室はクスリと微笑み、は俯いた。

(あ...)

彼女は時々俯いている。

それって、表情を見られないようにしているのではないか。

ふとそんなことを思った。

つまり、彼女が俯いているときは、いつもとは違う表情を浮かべていると言うことで...

勿体ないなと思うと同時に、皆が気付かなければ良いと思ってしまった自分に、氷室は少しだけ困惑した









桜風
13.3.25


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