| 着信を告げる音がして彼女はポケットから携帯電話を取り出した。 「あら、サイレントじゃないのね」 「設定変えるの忘れてた。危なかった...」 授業中だったら教師に嫌味を言われて、悪くすれば没収。 勿論、放課後に返してもらえるだろうが、反省文を求められるかもしれない。 ディスプレイを見ると父親からでちらと隣に立つ男子、実渕玲央を見上げる。 「どうぞ」と促されたので「です」と着信に応じた。 「え?!は??ち、ちょっと?!」 通話が切れたのか、彼女は携帯電話を耳から離してそれを睨みつけている。 「どうしたの?」 「知り合いの子がうちに入学するんだって」 「あら、早いわね。推薦の子ね」 そう言われて彼女は頷く。 「たぶん、バスケ部」 「ウチ?!」 バスケ部に所属している彼は驚きの声を上げた。 「今の時期に決まってる子なんて中々いないわよ。名前は?」 「赤司征十郎って子」 「あ...」 名前を聞いただけで察した。 確かにスカウトは必ず動くだろうと思っていたし、彼の獲得がそのスカウトの最大の使命だとも想像できる。 「彼と知り合いなの?」 少し意外に思える。 「あー、玲央くんには言った事あると思うけど。ウチの実家、結構大き目の会社を経営してるのよね。 その関係で、征十郎く..赤司家とも知り合いで。小さい頃はたまにウチに遊びに来たりしてたんだけど...当分会ってないなぁ。大きくなったのかな?」 「最後の、親戚のおばさんみたい」 実渕が指摘すると 「いいじゃない」 と彼女が返した。 「それで、赤司征十郎が入学するからいい子にしてなさいっていう電話だったの?」 「まあ、ね」 深いため息を吐いた彼女に首を傾げる。 「あのね、一応私も家に帰れば“令嬢”と言われるような立場に立っているのよ。だから、父の会社の関係者には「オホホ」って笑っているのよね。要は猫を被ってるの」 「ふむふむ」と実渕が相槌を打つ。 「だから、赤司君も同じようにあたしの猫かぶりの様子しか見たことがないはずだから、物凄くやりにくいったらありゃしないのよ」 「なるほどねー」と実渕は納得した。 「更に、彼氏がこの私だし?」 若干自虐的に彼が言う。 が、それには彼女が首を傾げて相槌を打たない。 「え、玲央くんで何がいけないの?」 真顔で聞き返された。 「え?」 実渕はきょとんとした。 「オカマって陰口を叩かれてるの、知ってるのよ」 実渕が言うと 「本人に面と向かって言えない悪口雑言なんてもんは存在しないの。 というか、オカマって悪口なのかしら?」 と彼女は言い放った。 「それに、玲央くんはオカマとかそういうのじゃなくて、物腰が柔らかくて、女の子の気持ちを上手に察することができる、むしろジェントルマンよ」 そう言って笑う彼女に実渕も笑う。 「ウチは、誰が彼氏になってもその人がどこぞの御曹司じゃなかったら文句を言うのがわかってるから紹介しないだけよ。 恥ずかしいからとかじゃないわ。誤解をしているのなら、ここで解いてちょうだい」 ツンと澄まして彼女が言う。 「ごめんなさい」 そう言って実渕は笑った。 「第一、玲央くんがオカマなはずないじゃない」 「ん?」 まだ続くのかな?と実渕は首を傾げた。 「あたしにキスしたいって思うんでしょ?」 そう言って彼女が顎を上げて目を瞑る。 「そうね、いつも思ってるわ」 そう返して実渕は彼女の唇に自分のそれで触れる。 「ほら」 少し得意げに言う彼女に実渕は苦笑した。 「ああ、チャイムが鳴るわ」 ふと視界に入った腕時計を見て実渕が言う。 「じゃあ、また後でね」 そう言って彼女はスカートを翻しながら屋上を後にした。 「赤司征十郎か...」 何だか嫌な気持ちがもやっと胸の中に広がった。 それはおそらく嫉妬に近い感情なのだろう。 彼女は言いなおしてくれたが“征十郎君”と普段は呼んでいるらしい。 取られたくないと思ってしまう自分の心の狭さにため息を吐き、実渕も屋上を後にした。 |
桜風
15.5.7
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