| と実渕は委員会で出会った。 バスケで推薦入学をした実渕と、通常の入学試験を経て入学したはクラスが違う。 そもそもこの学校では、推薦入学の者とそうではない者は同じクラスにならないのだ。 入学したての時に、委員会を決めなくてはならないとホームルーム言われ、先輩に聞いた“仕事が少ない”という美化委員というのに入ってみたものの、情報と違って意外と仕事が多かった。 花壇の手入れも美化委員の仕事だというのだ。 この学校では、バスケ部はかなり重用されている。 洛山高校と言えば、男子バスケ部と全国的に有名なため、彼らの練習環境を整えることが優先事項になっている節もある。 だから、先輩が言う“仕事が少ない”というのは、誰かに押し付けやすいという意味だったのかもしれないと後になって思った。 実際、バスケ部のしかも推薦で入学した者だと知った美化委員の先輩たちは実渕の当番を減らすなどの優遇措置を取った。 とはいえ、何もさせないわけも行かないらしく、申し訳程度に放課後の水遣り当番に組込まれた。 初めての当番の時に、部活前にさっさと済ませてしまおうと思い、用具室に向かった。 夏になると毎日になるらしい水遣り当番だが、今の時期はまだ少ない。 (スプリンクラーでもつければいいのに) 実渕はそんなことを思いながら如雨露を片手に中庭の花壇に向かうと、すでに当番が同じ女子生徒が水やりをしていた。 「ごめんなさい、遅くなって」 そう声を掛けると彼女は驚いたように振り返る。 (ああ...) 口調で驚かれることが多いので、今回もそれだろうなと思っていると 「部活は大丈夫なの?」と聞かれて驚いた。 「まったく当番をしないわけにはいかないしね」 肩を竦めていう。 「じゃあ、あたしがやっておくから行ってもいいよ」 「でも...」 「花の世話、好きだし。何か重い荷物を運ぶとかあったら、ちょっと困るけど。今のところそういうのなさそうだから」 (じゃあ、任せちゃおうか) 実渕は彼女の言葉に甘えることにした。 「よろしくね」 そう言って実渕は着替えるために部室に向かって行った。 それ以降、彼女と同じ当番になったことはなかった。 インターハイ予選も始まり、部活が忙しくなり始めた梅雨のある日、廊下に佇んでいる女子生徒が目に入り、一度だけ水遣り当番が重なった彼女だと気付いて実渕は声をかけてみた。 彼女は佇んで窓の外を眺めていたのだ。 その表情に魅かれたというか、気になってしまった。 「何か見えるの?」 (見えてはいけないモノが見える子だったらどうしよう) 今更だが、そんなことを思ってしまったが 「あら、実渕くん。雨だな、って」 と普通の答えが返ってきた。 「ええ、そうね。今年の梅雨は長引くかもって天気予報で言ってたわ」 「根腐れとか大丈夫かなぁ...」 彼女の視線の先は花壇だった。 「詳しいのね」 「詳しいってほどでもないけど。水遣りしてて思ったんだけどね。あの花壇の水捌けってあまりよくないのよ。こうも雨が続くと弱っちゃう」 口元に手を当てて彼女が呟く。 「実渕ー」 クラスメイトから声を掛けられた。 「ええ、今行くわ」 そう返し、「じゃあ」と声をかけて実渕はその場から離れた。 (そういえば、何て名前だったかしら?) 1学年にクラスはそう多くなく、クラスから男女各1名ずつ委員を出している。 同学年で、しかも同じ委員なんてそんなに多くないのに、彼女の名前がわからない。 彼女の方はわかっているようで、なんだか居心地が悪い。 インターハイ予選が始まれば、夏休みが終わるまでバスケ部は水遣り当番を免除されることになっていた。 勿論、インターハイが終わるまで試合があるという事が学校内でも決定事項という事だ。 そのため、部活動に専念してもらおうという事で。ただし、免除は一軍のみとなっている。 そこら辺はシビアだと実渕は思った。 一軍から落ちたら即水遣り当番に組み込まれるとなると、かなりの屈辱だろう。 自分に対してそんな心配はないが、歴代の先輩たちやこれからの後輩たちを想って同情していた。 夏休み前のある日、実渕は合宿用のあれこれを購入するために街に出た。 一緒に買い物に行かないかと誘われたが、バスケ用品ならともかく、それ以外のものを購入する場合は、正直周囲とは趣味が合わないことが多い。 よって、今回は断った。 一通りの買い物を済ませて寮に向かう途中、花屋の前を通ると知った子が真剣に花を見ている。 結局名前を思い出せないまま今まで来ている。 (えっと...) 自分の頭の中にある名前を検索してみてもしっくりくるものがない。 彼女は店員と話をして花を1本購入した。 ふと振り返った彼女と目があう。 「あら、実渕君?」 「こんにちは」 声を掛けられたので、実渕は彼女の元へと足を向けた。 「お買いもの?」 それなりの荷物になっている手元を見られて少し気恥ずかしいが 「合宿が近いから」 とこの荷物の多さの言い訳をした。 「ああ、バスケ部はインターハイ前に合宿して大学生をコテンパンにするんでしょ?」 と彼女が笑いながら返す。 「ええ、良く知ってるわね」 「まあ、噂で」 そんな話をしていると店員が彼女に声をかけてきた。 花の用意ができたらしい。 彼女は代金を払い、花を受け取った。 「本当にお花が好きなのね」 「家に1本あるのと無いのとじゃ空気が全然違うのよね」 「...私も買ってみようかしら?」 「寮の部屋は相部屋?」 「レギュラーは一人部屋なの」 彼女の問いに、実渕はそう返した。 「ああ、そうか。実渕君はレギュラーだったね」 彼女は納得していた。 何故知っているのだろうと思ったが、水遣り免除対象になっているので、当番表から自分の名前が消えていたのだろう。 「ええ、そうよ。そうね、どんなのがいいのかしら?」 「切り花は、さほど長持ちしないって思って好きなのを買ったらいいわよ」 「あなたは..それ、向日葵よね?」 自分の記憶しているそれとは少し違って見えた。 「ええ。可愛いでしょ。やっぱり夏と言えば、って思って」 「私もそれにしてみようかしら」 「じゃあ、これなんてどう?まだ開ききってないから少しは楽しめると思うわ」 バケツに入っているたくさんの中からひょいと彼女が抜き出したものがあった。 「そうね、じゃあこれで」 そう言って彼女から受け取り、店員に渡す。 「実渕君、一輪挿し持ってる?」 「ないわね。コップで代用って思ったんだけど」 「向日葵はちょっと難しいかも。あたしの貸してあげようか」 彼女が言う。 実渕は少し悩んで「いいのかしら?」と聞き返した。 「ずっと花を飾っていくなら、いずれは自分で買った方がいいかもしれないけど。今は緊急避難的に。それこそ、別の花なら実渕君が言ったようにコップで代用できるし」 彼女の言葉に「じゃあ、甘えさせて」と実渕が頷いた。 店員から花を受け取り代金を払った。 2人並んで歩く。 彼女はこの近くのマンションに一人暮らしだというのだ。 「ところで実渕君」 「何かしら?」 「あたしの名前、覚えてないでしょ」 ズバッと指摘されて実渕は足を止めた。 「ごめんなさい」 ぺこりと頭を下げる彼に彼女は笑い、 「よ。良かったら覚えてね」 そう自己紹介をしたのだった。 |
桜風
15.5.14
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