| が一人暮らしをしているというマンションの前に立った実渕はそれを見上げて「一人暮らし?」と確認した。 「ええ、一人暮らし」 「これ、ファミリータイプのマンションじゃない?」 「オートロックで防犯対策が結構しっかりしていて、しかも学校からさほど遠くないという条件で探したらこんなところになったの」 そう言いながら彼女はマンションのエントランスのロックを解除する。 管理人に「こんにちは」と声をかけてエレベータホールに向かった。 エレベータホールもこれまたロックがかかっているようで、確かに入るのが面倒くさそうだと実渕は納得した。 エレベータで上がり、7階で降りて彼女はスタスタと歩いていく。 こんなマンションに足を踏み入れたことがない実渕は物珍しそうに周囲を見渡しながら彼女の後を歩いた。 「ちょっと待っててね」 部屋の鍵を開けた彼女はそのままスタスタと家の中に入っていく。 流石に、女子の一人暮らしの中に図々しく入っていく気にはならない実渕はそのまま彼女の部屋の前で待っていた。 ガチャリと隣の部屋のドアが開く。 「こんにちは」 実渕が挨拶をすると「こんにちは」と挨拶を返された。 不審者に思われないのための自衛のつもりだったが、相手はさほど気にしていないようだった。 「実渕君、どうぞ」 「え、入って良いの?」 「うん。どうぞ」 不思議そうに彼女は首を傾げる。 「冷たい麦茶もあります」 そう言われて実渕は「お邪魔します」と玄関に足を踏み入れた。 喉は渇いていたのだ。 リビングに通された。 結構、物が少ない。室内の印象はシンプルだ。 寧ろ、寮の自分の部屋の方が色々と物があるのではないかと思うくらいである。 「適当に座って」 そう言われて実渕はすぐそばのテーブルの椅子を引いた。 荷物は邪魔にならないように部屋の端に置いている。 「そういえば、今日は部活は?」 「午前で終わったの。フィジカルをしたい人は残ったりするけど、私の場合、今日は買い物をしておきたかったから」 「そうなのね」と相槌を打ちながら彼女はグラスに麦茶を注ぎ、「はい、どうぞ」と実渕にそれを渡した。 棚から菓子を取りだし、「これもどうぞ」と言ってキッチンに戻る。 彼女はキッチンの流しを使いながら先ほど購入した向日葵を飾っていた。 「それ、一輪挿し?」 彼女が花を挿している物を見て実渕が問う。 「うん、ポップな感じでしょ?」 「ええ。もうちょっと重々しい感じなのかと思ってたわ」 「まあ、向日葵だから。花によってはそういうのを使ったりするけど。そうだ、忘れてた」 そう言って彼女は一旦席を外す。 何だろう、と思って実渕が待っていると今向日葵を飾ったものの色違いなどを彼女が抱えてきた。 「これを貸すって話だったもんね」 「忘れてたの?」 「うん、忘れてた。だって、実渕君ってあまり賑々しくないし、家に居ても違和感なかったし」 そう言いながら持ってきた一輪挿しを並べる。 「色違い」 同じデザインのものが何色もある。 「うん、可愛いからたくさん買ってしまって...置く場所があると、こういう事になるんだよね」 肩を竦めていう彼女に「この部屋を見たらシンプルだから物を買わない子だと思ったわ」と実渕が言う。 「基本的にはそうだけど、気に入ったら衝動買い。気に入るまで中々ないから、増えないっていえば増えないけどね」 そう言った彼女は再び席を外した。 今度は先ほどの向日葵を持ってたので、玄関にでも飾りに行ったのかもしれない。 「決まった?」 「じゃあ、これで」 そう言って実渕は先ほどが飾っていた一輪挿しと同じデザインの色違いを選んだ。 「うん、いいよ。そういえばさっき、緊急避難的にって言ったけど良かったらそれあげるよ。場所を取るっていうので邪魔になりそうだったら返してもらって構わないけど」 彼女の言葉に実渕は驚き、「あら、いいの?」と確認する。 「うん、いいよ」 彼女が頷いた。 「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」 「どうぞ。今回の向日葵以降も、たまには使ってあげてね」 彼女にそう言われる。 「そうね」 いつまで続くかわからないが、取り敢えず、今日買った向日葵で部屋の雰囲気が変わるだろうから、それを見て考えても悪くないだろうと思いながら頷く。 「さて、お茶もごちそうになったし。私は帰るわ」 「道、わかる?」 「大丈夫よ」 実渕が頷き、が見送ると言ってきた。 「大丈夫よ」 「うん。でも、管理人さんが心配するかもしれないからね。顔を見せておく」 セキュリティにはそれも含まれているらしい。 そういう事なら、と実渕は納得して彼女と共にエントランスホールまで降りた。 「じゃあ、また学校でね。さん」 実渕がそう言い、 「うん、学校で」 とも返した。 |
桜風
15.5.21
ブラウザバックでお戻りください