ヒマワリ 4





 寮に帰った実渕は早速向日葵を飾ってみた。

「あら」

花があるだけで部屋が明るくなる気がする。

「悪くないわね」

水はなるべく変えてやった方がいいと彼女から聞き、一応そのつもりだが、鉢植えのようにずっと世話をしなくてもいいので、その分気が楽だ。

「何かお礼をしなくちゃね」

そうひとりごち、少し早いが合宿の荷物の確認を始めた。


翌月曜日に実渕はを探した。

実渕は朝練があり、探せると言ったら昼休憩だ。

まずは教室に向かってみたが、彼女の姿はなかった。

のクラスメイトに聞いても、良くわからないという。

そして、そのクラスメイト達が自分に向ける視線に孕んだ感情を察して実渕はため息を吐きたくなった。

軽率だった。

がさほど気にしていないようだったので、ふらりと来てしまったが、推薦組と入試組の間には溝がある。

この学校の偏差値は決して低くない。

そんな難関をクリアして入った先には、推薦で入った生徒への優遇だった。

噂では、定期テストの内容も若干相違があり、推薦組は易しいものになっているとか。

比較したことがないし、する必要がないので確認したことがないと先輩は言っていた。

それはないだろうと実渕は思っているが、確認する気は起きない。


さて、次はどこに探しに行こうかと悩んでいると、風に乗って音が耳に届く。

ヴァイオリンのような気がした。

楽器にはそんなに詳しい方ではないが、それでも有名な楽器だから音でなんとなくわかる。

そして、聞いたことがある音楽というのも耳に馴染んだ理由だろう。

音につられて音楽室の窓が見える場所に向かった。

を探すのは放課後にしても困らない。

音楽室は別の棟にあるため、移動するのは面倒くさいが、これだけ音がはっきり聞こえているのだから、窓を開けているのではないかと思ったのだ。

窓は思った通りに開いていた。

そして、尋ね人はそこに居た。この音を奏でていたのは彼女だったのだ。

1曲弾き終わると彼女は弓を下ろした。

音楽室に彼女以外もいるのか、誰かと話をしている。楽しげに。

「...あら」

彼女はヴァイオリンを弾きながら視線を窓の外に滑らせていた。

気づいていたと思ったのに。

少し自意識過剰だったかと反省をする。誰にも見られていないのに、恥ずかしくなってしまった。



放課後になり、部活をしていると走っている集団の中にの姿を見つけた。

部活動だと思うが、何部なのかわからない。

「文系返上しろよ」

実渕の見ている物を見ていた先輩が苦笑しながら言った。

「あれは何部ですか?」

実渕が問うと

「オケ部」

そんなものがあるとは知らなかった。

「野球部の応援はオケ部の中の吹奏楽部門で行くらしいぞ」

野球部は、甲子園という日本全国誰でも知っているのではないかと思われる全国大会の舞台を目指す。

毎年開催場所が変わるインターハイとは違う。

「ウチのオケ部って有名なんですか?」

「そうでもない。そもそもオケ部自体が珍しいからなー。大抵吹奏楽だろう。音高とかそういう専門的なところになればあるんだろうけどな」

確かにあまり聞かないと思った。




窓の外の向かいの校舎に実渕の姿があったのは知っていた。ただし、目の前に友人がいたので、そちらと話をするのが筋だと思った。

音を聞いてほしいとお願いしたのは自分なのだから。

教室に戻ったら実渕が訪ねてきていたのも教えてもらった。

何の用だろうと思った。

委員会は当分ないし、共通点がない。

ヒマワリの世話についても一応、話をしたし、切り花だからもしかしたら枯れるの早いかもという話もしたと思う。

流石にもう枯れたことはないだろうが、弱ってしまったのだろうか。

(何だろうなぁ)

部活のランニング中に、休憩中のバスケ部が見えた。

実渕は背が高いと思うが、バスケ部は軒並み高いようで、中々の圧巻だ。

彼が先輩らしき人と話をしている。

(そういえば、レギュラーだったね)

一軍というだけでも凄いらしいバスケ部でレギュラーというのだ。

先輩と話をしている様子を見ても、摩擦とかそういうのは見られない。

レギュラー争いが激しいと部の中の雰囲気は結構ギスギスしそうなのに。

実際、オケ部の吹奏楽担当者たちは結構ギスギスしている。

ヴァイオリンは人気の楽器と言っても、オーケストラになるとそこそこ人数がいるからさほどギスギスしていない。

発表の場が文化祭くらいというのが、さらに理由かもしれない。

吹奏楽担当者のような、注目を浴びる場所がないのだ。

気が楽でいいと思っている。

そもそも楽器は強制されて始めたものなので、そんなに執着もない。

へとへとになっている周囲に視線を向けて彼女はマイペースに足を進めた。









桜風
15.5.28


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