| インターハイが終わり、実渕は部活のために学校に向かった。 少し早く寮を出て音楽室に向かってみる。 野球部は地区予選敗退した。 つまり、オケ部の中の吹奏楽担当もオーケストラに戻ったはずだ。 今日は部活があるとメールにもあった。 夏休み前から、校内で出会ったら会話をする程度にはお互い仲良くなったし、周囲もそう認識しているように思えた。 だから、彼女の部活の事情も聞いている。 オケ部は、総合文化祭も視野に入っていないらしく、毎年の文化祭がいちばんの見せ場らしい。 金のかかる部活動ではあるが、発表の場がそこらしかないのだ。 勿論、音高等がエントリーするような大会もあるらしい。そこにエントリーして“参加することに意義がある”という状況になるのだとか。 「嫌じゃないの?」 「吹奏楽部がないのが珍しいなって思ったけど。吹奏楽担当の人たちは、総文も狙うみたい。棲み分けだよね」 彼女はそう言った。 「さんは、吹奏楽をしようと思わなかったの?」 ヴァイオリンは格好いいとは思うが、部活動として光が当たらないというのなら、別の楽器を選んでもいいのではないだろうか。 強制的に始めさせられたと以前言っていたのでそこまで執着がないのではないかと思った。 「あたしがオケ部に入ったのって、オケ部の人に引きずり込まれたからなのよね。一応、昔はヴァイオリンの大会にも出てたし、そこで見た人に見つかったというか... 積極的な選択じゃないの」 実渕君と違って、と彼女は付け足した。 「でも、さんはヴァイオリン、好きでしょ?」 実渕に指摘されて苦笑した。 「始めた経緯が問題なだけで、他は特に。後は、やるからには賞を取れという声が嫌だったかな」 睫毛を伏せていう。 「欲がないのね」 「どうだろう」 「でも、ヴァイオリンを習えるって事は..さんの家ってお金持ち?」 あのマンションもそうだ。 「俄か成金の典型、って感じ?勿論、学校に通わせてもらっているのはありがたいけど、見ていて痛いときがあるのよね」 立ち入ったことを聞いてしまったかもしれない、と実渕は口を噤み、話題を探す。 「ねえ、インターハイってどこ?」 話題を変えたのは彼女だった。 実渕は今年の開催県を口にする。 「じゃあ、お土産にね」 「あら、催促?」 からかうように実渕が言う。 「いいじゃない。お金は、後で払うから、お遣いして?」 彼女が言うと「いいわよ、お土産」と実渕が断る。 「あとでメールを送るわ」 「買いに行く時間はないかもしれないけど...」 「駅か空港にあるのを探すわ。どっちを使うのかしら?」 「後で確認しておく」 そうして夏休みに入り、彼女のお土産リクエストをもらった。 いくつか候補がある中で「このどれか」と書いてあったので、彼女が最も好きそうなものを選んだ。 音楽室に足を向けている途中にヴァイオリンの音がした。 どうもこれは音楽室で奏でられているものではなさそうだと気付いた実渕は屋上に向かった。 重いドアを開けると音が近い。 だが、開けたところに姿は見えない。 音がすぐ上から聞こえる。 この扉の上は給水塔が乗っている。そこそこの足場があるのだ。勿論、上がれるように梯子もついている。 「さん?」 手庇を作って見上げるとすらりとした脚が見えてドキリとした。 「あら、実渕君」 声が返ってきても音が止まることはなかった。 「そんなところに立ってると下着が見えちゃうんだけど」 実渕が言うと音が止まった。 「あらあら、男の子」 笑って彼女が言う。 「お土産持ってきたのよ」 そう言われて彼女はヴァイオリンをケースに仕舞ってそそくさと降りてきた。 「どれ?」 「これ。たぶん、さんがいちばん気になってたんじゃないかなって思って」 土産物の袋を彼女に渡す。 「さすが実渕君!」 彼女はそう言って実渕を見上げて笑った。 「今の曲を文化祭で?」 実渕の問いに「聞いたことある曲でしょ?」と彼女が言う。 確かに聞いたことがある。 しかし、曲名がわからない。 「まあ、楽しみにしててよ」 彼女はそう言って笑った。 「行こう、ここ暑い」 がそう言い実渕もうなずく。 「何であんな暑いところに居たの?」 校舎の中に入りながら実渕が問うと、 「音楽室もそれなりに暑いし、今はソロ争いでこれまた熱いのよ」 の言葉に実渕は首を傾げ 「文系でも結構ギスギスしてるのね」 と感想を漏らす。 「文系という名の体育系だからね。個人で発表とかそういうのだったらそういうないだろうけどね。少なくとも文化祭の発表では」 肩を竦めてが返した。 「さんは狙わないの?」 「いや、あたしはもう決定してるから。だから余計に、音楽室に居たくないの」 「あら。じゃあ、文化祭が楽しみね」 実渕が言う。 「まあ、楽しみにしてて」 不敵に笑って言うが意外だった。 |
桜風
15.6.11
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