| 年が明け、推薦入学も続々と決まっていると耳にした。 やはりバスケ部の目玉は赤司征十郎で、スカウトは彼の獲得に成功したとか。 (当然よねぇ) 彼もこの学校を選ばないはずがない。 今まで一度も負けたことがないという顔をしていた彼が、常勝のこの学校を選ばないなんてことは想像ができない。 に聞いてみると 「昔は可愛かった」 としか言わない。 というのも、最近は会っていないそうだ。 正月に帰省ていたので、会いに行ったかと思いきや「引きこもってた」と彼女は笑った。 「なに、玲央くん。あたしに赤司征十郎のスパイをしろと?」 そう指摘されて自分の余裕のなさに気づいた。 「ごめんなさい、違うわ」 「でしょ?放っておいても来るんだから。その時に考えればいいじゃない」 そう言って笑った彼女はふと真顔になり「あたしもだけど」と呟く。 「猫、被らないの?」 「去年、入学の時点でわかってたらもうちょっと頑張ってたと思うんだけどね。手遅れだと思うのね」 「そう..ねえ。そうかもねぇ...」 頬に手を当てて実渕が言う。 しかし、彼女が「おほほ」と笑うのを想像して首を振った。 彼女らしさが消えてしまう。 突然首を振った実渕に「なに?」とが見上げる。 「ちゃんは、今のままが素敵よ」 「?うん、ありがとう」 突然の褒め言葉に彼女は首を傾げた。 3月になり、3年の卒業、期末試験と慌しい日が続いた。 あと数日で学年が上がる。 廊下がざわつくな、と思っていると「さん」と教室の入口から声を掛けられてた。 聞き覚えのない声だ。 「ああ、いた」 そう言って教室に入ってきた人物に首を傾げ、「ああ」とは声を漏らし、椅子から立ち上がる。 「征十郎君だ」 「誰だと思ってたんだろうね」 ため息交じりに言われては肩を竦める。 まさか、まだ三学期の途中だというのに赤司がこちらに来ているとは思っていなかったのだ。声も、記憶していたものと違う。 「やっぱり男の子なのねぇ」 「何だい、藪から棒に」 「何でもない。そういえば、卒業式は?」 「昨日終わったからすぐにこっちに来たんだ。今日から練習に参加してもいいって聞いてたし」 「あらそう」 はそんな相槌を打った。 赤司がくすりと笑う。 首を傾げるに「猫は被らなくていいのかい?」と問うと、彼女は肩を竦めて「逃げちゃったから」と返す。 赤司は愉快そうに目を細めた。 「征十郎君も、小さい時は敬語っぽい言葉をくれていたと思うけど?」 「僕の猫も逃げてしまったものでね」 赤司が肩を竦めた。 「そういえば。まだ授業あるんだけど、その間どこで過ごすの?」 が問う。 「ちょっと寄っただけ。放課後にまた来るけどね」 そう言って赤司は教室を出て行った。 中学を卒業してもまだ中学生と名乗るべきだろう立場なのに、進む先の高校生に道を譲らせている。 流石というしかない。 「もう来ちゃったのか...」 今晩、きっと親からの電話があるのだろう。 は盛大なため息を吐き、クラスメイトに先ほどの少年との関係を聞かれる。 (しまった、ある程度の口裏合わせくらいはお願いしとくべきだった) 後でまた学校に来ると言っていたので、その時に捉まえてちょっと話をしてみよう。 ただし、先ほどの様子から察するに、素直に聞いてくれそうにない気がするが... 「征十郎君」 正門前で待っていると、彼はすでに自分の学校に通うかのように正門を潜ってきた。 「ああ、さん。何だい」 「たぶん、無いとは思うけど。あたしの実家の事、あまり言わないでね」 「...“あたし”?」 一人称が気になったらしい。 確かに、赤司と交流のあった時期は無理して「わたくし」などと言っていた。 父親がそれを強要していたのだ。 お嬢様っぽいから、と。 そういうのが面倒くさくて京都に出てきた。偏差値も高く、歴史も古いこの学校なら親も頷くと思ったのだ。 思った通り箔がつくとか言いながら了解された。 寮ではないのは、見栄と、一応安全を慮っての事だ。俄か成金という立場上、周囲から要らないやっかみも受けているらしい。 ちまみに、妹は“お嬢様”に憧れているので、父親のいう事に唯々諾々と従っている。しかも喜んで。 「さっき言ったじゃない。猫が逃げちゃったって」 「なるほど」 これまでの一人称は猫被りだと匂わせる。 「そういえば、なぜこの学校に?父から話を聞いて驚いたよ」 この学校の選択ポイントを説明すると「なるほどね」と納得された。 「まあ、態々吹聴して回る気はないから安心してくれていいよ」 「わかった、安心しとく」 そう言ってがニッと笑う。 一瞬赤司は瞠目した。 「さんって「ちゃん」 何かを言いかけた赤司の声に重なるように声を掛けられては振り返る。 「ああ、玲央くん」 彼女の声に親しみが見られ、赤司は「ふーん」と呟く。 こちらに向かってきているのは実渕玲央だった。 「さん、知り合い?」 実渕は推薦組だ。推薦組と入試組の壁のようなものは聞いたので知っている。 「うん、同じ委員会だから」と彼女が頷く。 「そうと相槌を打ち、再び実渕に視線を戻すと「あかし」と彼の口が動いた。 ついと目を眇めた赤司は短く息を吐く。 「玲央くん、赤司征十郎君」 側までやってきた実渕にが紹介する。彼は苦笑して「知ってるわよ」と頷いた。 「今日から部活に出席するって話も聞いてるわ」 実渕が赤司に視線を向けていう。 「ああ、よろしく」 赤司は不敵に笑い、「着替えたいので部室を教えてくれないか」と実渕に言う。 「...ええ、いいわ」 「じゃあ、さん。また」 そう言って赤司は歩きはじめ、実渕がそれを追う。 一度振り返った実渕には手を振り、そして、帰宅することにした。 |
桜風
15.6.25
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