| 新年度が始まった。 バスケ部のキャプテンは新入部員の赤司がなり、実渕は副キャプテンとなる。 珍しいというか、長い歴史の中で初となる出来事らしい。 ただし、どうやらこれはなるべくしてなると言った形だったらしく、バスケ部自体で軋轢のようなものはないようだ。 「赤司君ってそんなにすごいの?」 昼休憩に屋上で食事を摂っていると彼女が問うてきた。 「征十郎君でもいいわよ」 実渕がいう。 「あまり親しげにしていると周りが詮索してくるから」 が肩を竦めていうが 「向こうはそれを楽しんでる節があるようね」 と実渕はため息交じりに言う。 彼は相変わらず「さん」と呼ぶ。 この学校に入学してからというもの、彼が敬称を付けている人物はのみであり、余計に目立つのだ。 勿論、流石に教師などには役職名の「先生」を付けて呼んでいる。 「昔から?」 「“さん”はね。でも、もうちょっと優しい感じだったんだけど...」 そういえば、彼の母親が亡くなってから会っていない。彼の変化はそれが契機だったのかもしれない。 「お父様とか、何か言ってきていない?」 「ちゃーんと、赤司君に媚を売ってるかっていう確認はあったなぁ」 「なんて返したの」 「“どこで買えばいいの?”って。めちゃくちゃ怒られた」 「そりゃそうでしょう...仕送りとか切られたらどうするの?」 呆れていう実渕に彼女は笑う。 「どうしようかな。お花屋さんでバイトでもしようかな」 「そういえば、忙しくて最近はお店を覗いていないわ」 実渕が言う。 何だかんだで花を欠かさないようにしていたが、学年が上がり、後輩が入り、副キャプテンとなった。 雑事が増えてきたような気がする。 「じゃあ、今度一緒に行く?」 が誘うと「そうね」と少し難しい顔をして実渕が頷く。 「あ、部活が忙しい」 「うん、そうね。征ちゃんがキャプテンになったでしょ?試合中とかそういうのだったら全然問題ないんだけど。それ以外の事となると、フォローがいるし、ちょっと難しいかも」 「1年生だから、学校のことよくわからないだろうしね」 なるほど、とは頷く。 「ごめんなさいね」 「いいよ」 苦笑してが応じた。そんなに気にすることないのに、と。 「あ、そういえば。今度練習試合をするの」 「よその学校?」 「ううん、うちで。見に来てくれない?」 「セコム大丈夫?」 思わずが聞いた。 「セコム?マンションの点検か何かあるの?」 実渕に聞き返されたは慌てて「何でもない」と返した。 「見に行ってもいいの?邪魔にならない?」 「ならないわよ。応援してちょうだい」 そう言われては頷いた。 よくよく考えてみれば、実渕のプレイを見るのはあの夏にちょこっと覗いて以来だ。 マネージャーに目を付けられるのは面倒くさいので、練習は見に行っていない。 いつか公式試合を見に行こうとは思っていた。 実渕も、が部活動をしているのを知っているので熱心に声をかけてこないのだ。例え、たまにしか集合しない部活動でも個人練習があるは知ってるし、たまに玻璃仕込みを集団で行っているのも見ているので、暇だとは思っていないらしい。 「さん」 放課後、水遣りをしていると声を掛けられた。 今年も美化委員を務めている。実渕も同様に美化委員を選んだが、当番は重なっていない。 「赤司君、部活はいいの?」 時間的に始まっているはずだ。 「部長会ってのがあってね」 「あー...キャプテンと部長は同じ人」 こういう会議があるから別の人を部長に据えて、試合などでは赤司がキャプテンをするのかと思っていた。 まあ、実渕がフォローしなくては、と言っていたので確かに部長ならフォローがいると今更改めて納得した。 「征十郎君って呼んでくれないんだ?」 からかうように言う。 「赤司君は注目を集めている人だからね。お近づきにはなりたくないわ」 ハッキリとそう言われて赤司は苦笑した。 「玲央も注目を集めている人だろう」 あの容姿や物腰でそれなりに注目が集まっている。どちらかと言えば、好奇の視線だ。 「集まってるけど、玲央くんはもう今更だし」 その“今更”というのが何を指しているのか、赤司は気づき苦笑する。 「寂しいことを言うな、さん」 は如雨露を地面に置き、制服で手を拭いた。 「我慢なさい」 そう言って赤司の頭を乱暴に撫でる。 目を丸くして見下ろしてきた赤司に「大きくなったね」と笑った。 「親戚のおばさんみたいだ」 「それ、玲央くんにも言われた。失礼しちゃうわ」 そう言っては笑い、また如雨露を手に取る。 「さん、そっちの方が“らしい”よ」 「それ、玲央くんにも言われた」 同じ言葉を繰り返す。 赤司は少し面白くないという表情を浮かべたが、「じゃあ」と軽く手を挙げてその場を去って行った。 赤司は自分の頭に手を置く。 頭を撫でられたのなんて、どれくらいぶりだろうか... |
桜風
15.7.2
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