| 空は重くて、もう少しすれば雪が降るような空模様の2月のある日。 そんな生憎の天気と称されそうなこの日に、校内の一角、海常高校の中庭がざわめいている。 本日は合格発表の日だ。 どうしてもこの学校に通いたくて受験した者、滑り止めとして受験した者。 動機はそれぞれで、ただこの掲示板に番号が表示されていることを望んで足を運んできた者が集まっているあの場に笠松は視線を向けた。 「あー、今日か」 並んで歩いていた小堀が呟く。 「だな」 試験日は学校が休みになったが、合格発表日はそうならなかった。 だから、在校生はあまり把握していない。 「あ?」 思わず零れた声は合格発表を見に来ていた集団の中に知った人物を見つけたからだ。 「どうした?」 「あ、ああ。いや、何でもねぇ」 (聞いてねぇぞ) 心の中でそう毒づき、歩き出す。 4月に入って入学式を迎えた。 毎年恒例の行事であり、式次第は代わり映えがしない。 入学早々、部活に入る者もいれば見学などをして様子見をする者もいる。 入学案内の書類の中にすでに入れられていた入部届に書き込みを済ませているは、昼休憩になるとすぐさま教室を後にして、バスケ部顧問の社会科研究室に向かう。 希望すれば今日から部活に出ることができると聞いてそれを希望した。 「キャプテンには話しておくから」と言われて彼女は頷き、研究室を後にした。 (よくがんばった!) 自分で自分を褒めながらは教室に戻る。 「おい」 不意に不機嫌に声をかけられてびくりと震える。 「」 同じ声が名を呼ぶ。 振り返ると笠松が立っていた。 「ユキちゃん!」 「誰がユキちゃんだ」 苦々しそうに彼が返す。 「何でうちの学校だよ。遠いだろう」 「通える範囲だよ」 「通い?お前、寮に入ってないのか?!」 目を丸くして、片や口調はきつ目で彼が問い返す。 「うん、まあ。さっきも言ったけど。通えない距離じゃないし」 「あ、そ。まあ、無理すんなよ」 いまさら何を言っても仕方ないと思った彼はため息を吐きながらそう言った。 「ありがとう」 にこりとほほ笑んで彼女は返す。 「あ、そうだ。ユキちゃん」 「何だよ。つーか、この学校で“ユキちゃん”はやめろ」 癖というのは抜けないというのはわかっているが、一応指摘しておく。 何せ、うっかりそれで呼ばれたら、チームメイトや後輩に示しがつかないというか、絶対にからかわれる。 「...気を付ける。何て呼べばいいの?」 少しむくれながらも彼女が頷いた。 「...普通に“笠松先輩”じゃねーの?」 「笠松先輩」 眉間にしわを寄せてがいい、言われた笠松も眉間にしわを寄せた。 ((気持ち悪い)) 「んで、何だ?」 「へ?」 笠松に促されては首を傾げた。 「さっき、何か聞こうとしただろう」 「あ、そうそう。バスケ部のキャプテンってどんな人?...ですか」 「は?女バスなんてもんはねーぞ?てか、お前バスケしてたのか?」 「女バスがないのくらい、知ってる。男バスのキャプテン。あと、バスケは未経験者」 「オレだよ。て、まさか。お前、ちょっと待てよ」 「えー!ユキちゃんがキャプテンなの?バスケ部ってのはお兄ちゃんから聞いてたけど」 「だーかーら!ユキちゃん言うな!」 そう指摘して、彼女をちらと見た。 「本当に、部活するのか?」 「ユキちゃんいるし、大丈夫かなって」 「あのなぁ...」 ため息交じりに呟く。 だが、いい機会かもしれないと思い直し、 「絶対に、学校の中で“ユキちゃん”って呼ぶなよ」 と念を押して笠松はその場を去っていく。 「あ、今日から行くから」 「おー。敬語忘れんなよ」 軽く手を挙げて応じた笠松は、諦めの境地にいた。 |
桜風
14.10.20
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