| 昼休憩の用事が終わり、教室に戻るとクラスメイトに声をかけらえた。 部活を決めたのか、とか。どこの中学出身か、とか。 そういえば、モデルの人が同学年にいるんだよ、見に行かない?というお誘いも受けたが、どれもうまく返せず、曖昧に笑うだけに終わってしまった。 そっとため息を吐く。 (だめだなー...) 部活を選んだのも、笠松がいるからだ。 何とかしなくては、という焦りはあるがどうにもうまくいかない。 いつもの事だと諦めのため息を吐いて午後の授業の準備を始めた。 放課後になり、体育館に向かいながらはたと気づいた。 「着替えなきゃ...」 制服でマネージャーをしている人なんて見たことない。 体操服に着替えるなり、少なくとも動きやすいかっこうとなるべきだ。 勿論、そう思って今朝準備はしてきたが、どこで着替えたらいいのかわからない。 (体育館まで行ったら先輩とかいるかな...) しかし、よしんば居たとして、声を掛けられるだろうか... 一歩足を進めては躊躇うように回れ右をする。 これを繰り返していると「おい」と声を掛けられた。 昼間もそう声を掛けられた。 笠松だ。 顔を上げると知らない人たちの中に笠松がいた。 一歩踏み出してそこで固まる。 笠松はため息をつき、「ちゃんと着替えてこいよ」と声をかける。 制服のまま体育館に顔を出せば先輩マネージャーの心証が良くないだろう。 「あ、えと」 「...なんだよ」 ため息交じりに問い返す。 「更衣室、どこ..ですか」 「...ああ、そうか」 納得して笠松は「ついて来い」という。 「うん」と言いかけて空気と一緒にその言葉をのみ「はい」と返事をして彼の元に向かう。 「何だ、知り合いか?」 笠松の隣にいた男子生徒が興味津々にを見ながら言う。 はその視線が怖くて俯いた。 「新入生でマネージャー希望。今日、監督に言われてんだ、一人来るぞって」 「へー!マネージャー!!」 その声の大きさにびくりと肩を震わせた。 「声がでかい」 眉間にしわを寄せて笠松がいうと 「ああ、ごめんごめん」 と彼はに向かって謝罪した。 「オレは森山由孝。3年だ。よろしくね」 はちらと彼をうかがうように見て「よ、よろしくお願いします」と蚊の鳴くような声量で言葉を返した。 「あと、こいつ小堀な?」 笠松がもうひとり一緒にいた人物を親指で指さしながら言う。 「はい」 「よろしく」と小堀が言い、「よろしくお願いします」と先ほどよりは大き目の声でが返す。 「あれ?あれ??」 その差に気づいた森山が「あれ?あれ??」と背後で何か呟いているが、誰も取り合わないので、も聞こえないふりをした。 「この先が女子の更衣室だ。各部のほかに“マネージャー”って書かれてる部屋があるはずだから、そこで着替えろ。ただ、ロッカーはないらしいから、着替えは体育館の隅に置いてるみたいだ」 以前先輩から聞いた話をそのまま伝える。 マネージャーは確かに体育館に入ってくるときには荷物が多いし、その荷物の一角に部員が近づくと威嚇する。 つまりは、そういうことなのだろう。 「ありがとう」 キッと笠松が睨んだ。 「ござます」 すっかり忘れていた敬語を思いだしたは慌てて付け加える。 「じゃあ、あとでねー」 ひらひらと手を振る森山の頭をはたいた笠松はスタスタと去って行った。 |
桜風
14.10.27
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