| 着替えを済ませて体育館に行くと、今年の新入生が集まっていた。 まだ入部は締切られていないため、新入部員の紹介はその締切、つまり入部が確定してからすると練習の前にキャプテンから話があった。 この学校はバスケ部の強豪校のため、基本的に現時点で体育館にいる者たちは入部を決めているのだろうが、中には“試しに”という者もいるらしい。 入部後早々に辞める者もいるが、そこまで追求しないとのこと。 そして、これは実のところマネージャー希望者への配慮という者でもあるらしい。 入部後に辞めるのではなく、仮入部で入部を辞めるほうが気持ちが楽だろうということだというのは後で聞いた話だ。 「笠松」 教室移動をしていると隣のクラスのマネージャーが声をかけてきた。 「あ?」 「あの子、どうにかならない?」 「...“あの子”?」 「マネージャー志望の子。」 「ああ。あいつがどうしたんだよ」 の事を態々言いに来た彼女に警戒しつつも続きを促した。 「あの子、何も知らないのよ。バスケのルールは大まかなのは、まあ、授業で習ってるしメジャーどころは知ってるけど、スコアの付け方とか。 そもそも、マネージャー経験がないんですって」 「知らないなら教えればいいだろう。仮に選手の中で、ルールを知らないやつが入ってきたら、オレは教えるし、そうするべきだと思ってるぞ」 笠松が正論を口にすると、彼女は鼻の頭に皺を寄せた。 彼女だって一応そういう理屈は分かっている。分かったうえで笠松に訴えているのだ。 「教えればいいのね」 「そりゃそうだろう」 含んだ彼女の言葉に、気づいてか気づかないでか笠松は頷き、「わかった」と言って去って行った彼女に首を傾げた。 「笠松が女子と会話なんて珍しいじゃん」 からかうようにクラスメイトが言う。 「用事がありゃ会話くらいする。オレは姦しいのが苦手なんだよ」 苦々しい表情を浮かべながら笠松が返す。 「何の話だったんだ?」 去っていく前のマネージャーの表情を見て小堀が問うと、笠松は先ほどの会話の内容を口にした。 「お前...」 項垂れる小堀に笠松は首を傾げて「何か間違ってたかよ」と問う。 「間違ってないから困ってるんだよ」 言葉のとおり困った表情を浮かべて小堀が言った。 「正論は、素直に受け入れることができる場合とそうじゃない時があるんだよ」 笠松のようなまっすぐな人間は、その正論を受け入れることができるだろう。 だが、そうではない人間の方が大多数だ。 せめて、彼女の言葉に同意の言葉でも口にしていれば少しは緩和されているだろうが、笠松の事だ。 まっすぐ否定をして正論を突きつけたに違いない。 (少し気に掛けておくかな...) マネージャーの彼女の言い分もわからなくはない。マネージャーをまとめる身として、出きれば選手のサポートに力を注ぎたいのだろう。 彼女たちに支えられてきたことは実感している。もちろん、笠松も例外ではないはずだ。 ふと、体育館を見渡すとの姿がない。 部活を始めた時にはあった。 (おつかいか?) 消耗品、特に応急処置系のエアーサロンパスや消毒液などは頻繁になくなる。 海常は部活動が盛んなため、学校が大量購入して一括管理している。大量購入した方が単価が安いのだ。 用品が必要になった時は、管理をしている教員に申し出て倉庫から 出してもらう。そして、使用した分だけ、後に部費から天引きされる仕組みになっている。 暫くして戻ってきたの手には、ドリンクボトルが入っている籠があった。 部員が多いバスケ部のドリンクボトルは言うまでもなく多く、そして、4月の半ばと言えども水はまだ冷たい。 はまた何かの指示を受けて体育館の外に向かって行く。 笠松は一瞬眉を寄せた。 「口を出すなよ」 小堀が小さく忠告した。 これで笠松が口を出したら拗れる。 それについては、笠松もなんとなく察することができたらしい。 「何考えてんだ」 「ベテラン勢が全力で俺達をサポートできるように考えたんだろう」 考えてたというよりも、教育を放棄したというべきだ。 知らないなら教えればいい。それだけの事なのに、と思いもしたが小堀の忠告どおり取り敢えず口を噤んだ。 |
桜風
14.11.3
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