| ゴールデンウィークは、練習試合をいくつか組んでいる。 先日の誠凛高校との練習試合で浮き彫りになった課題を念頭に置きつつ、これを克服することが目標だ。 「あれ?」 日が暮れてから体育館に向かった黄瀬が呟いた。 明かりがついている。 「誰か居残りしてるんスかね?」 ひとりごちて体育館に向かった。 ドアの前に立つとぼそぼそと声が聞こえる。 内容はわからないが、女の子の声だ。 「何か、入りづらいなー」 中で何が起こっているのかわからない。別に気にする必要はないのだろうが、一応気遣いもできるオトコノコなのだ。 そっとドアを開けて隙間から中の様子を覗うとぺたりと座り込んでいる女子の背中が見える。 「えー、今のなんでー」 そう言って彼女は体を前に倒した。 その背中は見覚えのあるそれで「さん?」と黄瀬が声をかけると「うぴゃあ!」と何とも聞きなれない悲鳴をあげられた。 「ご、ごめん」 今までに聞いたことがない悲鳴を耳にした黄瀬は必要以上に罪悪感を抱く。 「こ、こちらこそ...」 小さくなって彼女が首を横に振りながら言う。 「何してるの?」 ひょいと覗き込むと彼女はバスケットボールを抱えており、少し前にはポータブルDVDプレイヤーが置いてある。 「どうしたの、それ」 「ど、どれ?」 びくびくとしている彼女の様子に多少イラつきながら、「それ」と黄瀬が指差したのはポータブルプレーヤーの事だ。 「あ、家から持ってきた」 「何見てるの?」 「試合...」 (試合?) 次に組んでいる練習試合の相手野だろうと思った黄瀬が覗き込むが、そうではないらしい。 「誰の?」 「え、と。NBAとかっての」 この言い方だと、NBAが何たるかも分かってなさそうで、黄瀬は眉間に皺を寄せた。 「き、黄瀬くん」 「なに?」 無意識に返した声は自分でも驚くほど冷たくて、フォローするかと逡巡したところで「バスケのルール分かるよね」と重ねられて言葉を失った。 「え、...は?!」 「あのね、これ。何で笛が鳴ったの?」 そう言いながら彼女は再生ボタンを押した。 「え?あ..ああ。これ、白のプッシングだから」 「プッシング?え、どこで??」 必死に問うてくる彼女の勢いに押されて「ここ」と言いながら少し戻して一時停止をする。 黄瀬が指差した先は確かにそうかもしれないと思えるシーンだった。 「動画の方がわかりやすいかな」 そう言いながら黄瀬は再び数秒戻して今度は再生ボタンを押した。 「あ、ホントだ。え、じゃあ。スコアの書き方わかる?」 「スコア?えーと、たぶん。見させてもらってるから、なんとなく...」 「これでいいのかな?」 そう言って見せてきたスコアシートを手に取った。 「たぶん。こういうの、ネットで調べてもあるんじゃない?」 何となく面倒くさくなってそう返す。 「そか。うん、ありがとう」 「それに、試合を見てないとあってるかどうかわかんないし」 一応、自分に優しい言い訳をする黄瀬に「そうだよね、ありがとう」と返して彼女は再生している試合を見て「何でぇ」と呟きながら数秒戻して再度同じところを見ている。 「さんって、バスケのルール分かんないの?」 黄瀬が問う。 まだ近くにいると思っていなかったは驚いたように振り返って 「うん、まあ...」 と歯切れ悪く答えた。 「じゃあ、なんでバスケ部のマネージャーやってんの?」 と黄瀬が問いを重ねる。 「応援したいから」 「応援なら、別の方法もあるんじゃないの?」 黄瀬はストレッチをしながらそう言った。 「黄瀬くん、これから練習をするの?」 「うん。今日、バイトで早めに上がったからね。体育館開いてたらって思って来てみたら開いてるし。あ、もしかしてさんもう帰るところ?」 「もうちょっとやる予定。応援は、まあ。言うとおりなんだけどね」 が先ほどの会話に戻って答えた。 答えたくなくて話をはぐらかしたのかなと思っていた黄瀬は少し意外に感じつつ、「そうなんだ」と会話の終わりとなる言葉を口にした。 |
桜風
14.11.10
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