| 部活が終わった後、は時々残って体育館でDVDを見ている。 時間があれば黄瀬も付き合い、の情けない声に気が向いたら反応して一緒にプレイを見て解説するということをしている。 「っちは、なんでボールも磨くんスか?」 彼女は体育館でDVDを見るときいつもボール磨きも同時にやっている。 近頃は黄瀬の開設のおかげでそれなりの目を持つことができており、ルールはそれなりに理解したと自負している。 「だって、手持無沙汰というか...時間がもったいないじゃない」 そう言って今磨いていたボールを脇に置いて、別の少し汚れたそれをボール籠から取り出す。 「最近、ボールがきれいだからって、先輩たちは上機嫌だし、それはきっとオレたち1年が残って磨いてるんだろうなとか思ってるんじゃないんスかね」 「ん?」 黄瀬が何を言いたいのかわからない。 「たぶん、誰もっちのおかげでこうなってるんだって知らないっスよー」 黄瀬の言葉に彼女は苦笑して 「別に褒めてもらいたくてやってるわけじゃないし。さっきも言ったけど、時間がもったいないってのがメインで、私これくらいしかできないからって言うのが建前」 という。 「それ、建前なんスか?」 不思議そうに黄瀬が言うと、 「本音って言ったら、何か逆に嘘くさいでしょ?」 照れたようにいうに黄瀬は苦笑した。 「というか、黄瀬くん。ここ最近“っち”って呼ばれてるのが気になってるんだけど...あと、敬語っぽいのも」 困ったように君が言うと黄瀬は笑う。 「オレ、尊敬してる人の事は“〜〜っち”って呼ぶことにしてるんスよ」 「尊敬?される覚えがないんだけど。まだまだへなちょこだし」 「頑張ってる人はやっぱり尊敬っスね。オレも気になってるんスけど。っちって男嫌いじゃなかったんスか?」 黄瀬に言われてきょとんとした。 「目を合わせなかったし、きょどってたし」 黄瀬に指摘されては困ったように笑い、 「そんなにあからさまだった?」と聞く。 「現在進行形で」と指摘されて頭を掻いた。 (これでもうまくできていると思っていたのに...) 「男の人が苦手なんじゃなくて、みんな苦手なの。人見知りが昔から激しくて」 「でも、オレには結構早く慣れたっスよね?あ、この美貌のおかげっスか?」 「ビボーはともかく。黄瀬くんは“黄瀬くん”ってカテゴリーで考えてるからかな?」 (意味分かんないっスね...) 黄瀬も黄瀬で彼女の事は気に入っている。 自分に媚を売らないタイプの女子だ。 自惚れていると言われるかもしれないが、多くの女子が自分に媚を売ってくる。 チヤホヤされるのは嫌いじゃない。むしろ好きだし、慣れてしまった。 しかし、たまにそうじゃない人に会うと凄く新鮮で、興味がわく。 そう言った意味で、キャプテンの笠松には惹かれた。 自分の方がバスケはうまい。でも、彼には尊敬の念を抱いて接することができる。 ふと、たまに笠松が彼女の事を心配そうに眺めているのを目撃する。 「っちって、笠松先輩と知り合いっスか?」 ストレートに問われて、はどうこたえていいか悩んだ。が、隠す方が不自然で、たぶん黄瀬は笠松に不利になるようなことをしないと思った彼女はコクリと頷き「ないしょね」という。 「何で?あ!笠松先輩と付き合ってるとか!!」 浮かれた声で黄瀬が問う。 「ううん。私ね、お兄ちゃんがいるの。お兄ちゃんの友達が、笠松先輩。うちにも結構遊びに来てたからね。お互い知り合いよ」 友人の妹... なるほど、保護者になるかもしれない。 笠松のに向けている視線の孕む感情を理解した黄瀬は頷いた。 「先輩」 部活中、言いつけられた用事も済んで、先輩たちも手を止めているため声をかけてみた。 「なに?」 思いのほか冷たい声音に足が竦む。 「え、と。過去の試合とスコアを見たいんですけど、どこにありますか」 の言葉に彼女たちは眉間にしわを寄せた。不愉快そうな表情に思わず俯く。 「人の目を見て話せないの?」 苛立ちを含んだ声で言われ、慌てて顔を上げると声の感情をそのまま表情にした先輩たちが立っていた。 「手が空いたんでしょ。じゃあ、次はね」 そう言って別の用事を告げられる。 は肩を落として先輩達に背を向け、用事を片付けることにした。 (あいつら...) 眉間に深い皺を刻む笠松を黄瀬がそっと覗き見る。 (まあ、確かに筋が通ってないから、特に笠松先輩的には許せないっスよねー) 笠松の感情に理解を示しながら、こういう時は男が入っていくと面倒くさいということをよく知っている黄瀬は静かにその場を去って行った。 |
桜風
14.11.17
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