| 夜になり、から珍しく電話がかかってきた。 「昔の試合の録画?」 『うん、借りれられないかな?』 「...何に使うんだよ」 『スコアとセットで借りたいんだけど。スコアをつけるのに勉強』 人見知りはいまだに発揮しているが、どうも黄瀬とは最近仲が良いらしく、たまに話をしている姿を見かける。 黄瀬と話をしているときは、ちゃんと目を見て話している。 何だか少しだけさみしさを胸に抱くが、彼女だって成長しているんだと自分に言い聞かせてみたりもしている。 「あいつらに頼んでみろよ」 笠松の言う“あいつら”というのがマネージャーの先輩達だというのはにもわかったが『うん...』と歯切れが悪い。 「何かあるのか?」 『私、手が遅いから。何か色々とやらなきゃいけないこと山盛りなのに、さらにスコアをって言うのは良くないのかなって...』 笠松は盛大にため息を吐いた。 『やっぱ、ダメかな』 「んなわけねーだろ。今のマネージャーなんて、お前除きゃ3年ばっかだ。引退したら誰がスコア付けたり色んな雑務してくれんだよ。今のうちに覚えとかなきゃ、選手にだって聞きにくいだろ?」 笠松の言葉に『そうなんだろうけど』と彼女は素直に頷かない。 一応気にしているのだ。先輩の存在を、彼女たちの矜持を。 「つか、お前今どこだ」 『今から帰るよ』 「ばっか!ふざけんな!!」 笠松は思わず声を上げた。 もう21時だ。電車はあるが、最寄駅に着く時間には人通りだって少ないし、彼女の家は街灯もまばらな土地なのだ。 「ちょっと待ってろ」 『何?』 「送ってってやる」 そう言って電話を切った。 「ええ〜...」 通話を切られては声を漏らした。 お説教が今からやってくるというのだ。 仮に駅まで送ってもらえるとしても、もれなくついてくるお説教とのバランスを考えれば避けたい代物だ。 (帰ったら怒られるよね...?) しかし、寮には門限があるはずだ。 黄瀬はバイトの関係で、事前申請をして伸ばしてもらっていると言っていた。 だったら、笠松は出て来れないのではないのだろうか。 「待つのもなー...」 そう言ってとぼとぼ歩きだすと「待ってろっつったろ」と唸るような声が聞こえて「うぴゃ!」と声を漏らした。 「お前、相変わらずそれかよ」 苦笑して笠松が近づいてくる。 「汗だく」 「帰ったらシャワー浴びるからいいんだよ」 「各部屋についてるの?」 「シャワーはな」 そう言って笠松が歩きだし、もそれに続く。 「お前さ」 不意に笠松が視線を向けてきた。 「なに?」 「部活、やめねぇの?」 笠松の言葉には鼻の頭がツンとした。 「やっぱ、邪魔かな」 俯いたを見て、自分の言葉の選択が間違っていたことに気づいた笠松は慌てて「そうじゃねーよ!」と語気を強めていう。 「違う。言い方悪かった。すまない」 素直に謝られては困ったように笑う。 「自身が、ヤじぇねぇのかなって。あいつら、お前にあまり、いろいろ教えてないみたいだし」 は首を振った。 「私、何も知らないところからのスタートだから、何でも全部教えてもらってるって思ってる」 それにしても限度というのもがあるだろう。 ここ最近は反復ばかりで、新しい仕事を教えている様子がない。 笠松が言い募ろうとしたが、それはが制した。 「でも、先輩が貸してくれないからユキちゃんにお願いするのは筋違いかな?」 心配したようにが言うが、 「さっきも言ったように、お前が成長しなきゃ、オレたちが引退した後、スゲー大変だろうが」 と笠松が言った。 「あ、でも。最近ルールは覚えたよ」 「最近かよ」 の言葉に笠松は苦笑した。 「黄瀬くんに教えてもらった」 「...黄瀬?」 不思議そうに笠松に問われ、はしまったと口に手を当てる。 「え、と。言ってよかったのかな?」 「口止めされてなきゃ、それはアリだろう」 笠松が促し、は頷いた。 部活が終わった後に居残りしていることを話した。黄瀬も時々顔を出してきており、その時にはルールを教えてもらっていたと話す。 「あいつ...」 「誠凛高校との練習試合の後くらいから、結構体育館に来てるよ」 「つか、お前はしょっちゅうこんな時間に帰ってたのかよ」 (来た!お説教!!) は肩を竦めてその衝撃に備えるが、 「無理すんなよ」 と掛けられた言葉が思ったのと全然違って困惑しつつ「イエース」と返した。 |
桜風
14.11.24
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