| 結局マネージャーは部を辞めなかった。 笠松の言ったように、を育てることにしたのだろうが、これまで外に出ていく用事ばかり指示されていてそれをこなして部活後に残ってスコアラーの勉強をしていたのに、疲れてそれができなくなる。 その分、先輩たちに部活中にスコアラーの指導を受けており、“先生”が居る分上達が早い。 しかも、厳しい。 先日、地区大会の優勝を決めた海常高校はインターハイ出場を決めた。 インターハイ常連校であり、今大会でも優勝候補と評価されていたが、優勝を決めた時にはほっとした。 インターハイ出場が決まるとマネージャーは忙しくなる。 こういった経験がないは自分で考えて先に何か作業をしておくことができず指示待ちになるので、何となく自分の力なさを痛感した。 昼休みにぼーっとしながら歩いていると、「っち」と声をかけられて振り返る。 「あー、黄瀬くん。久しぶりー」 「そうかな?」との言葉に苦笑いをひとつ。 「で、何?」 が用件を促す。 「ああ、そうそう。今度誠凛の試合を見に行くんスけど、一緒にどうっスか?笠松先輩も一緒っスよ」 そういう黄瀬には力なく笑った。 「むり〜」 「えー、そうなんスか?」 「うん、無理だわ。インターハイまでに身に着けられることは身に着けておきたいし」 「...キセキの世代同士の試合っスよ」 「インターハイでもそうなるんでしょ?遅かれ早かれじゃないの?」 が言うと黄瀬は口をとがらせて「っちが冷たい」と拗ねたようにするが「黄瀬くんに優しくしたら、女の子たちが怖い」と返されて否定できず「まあ、うん」と頷く。 「じゃ、敵情視察はオレと笠松先輩で担当するっスね」 「...それ、決勝?」 不思議に思ってが問うと 「ううん。東京は決勝リーグがあるから、その前のトーナメントのブロック決勝」 「じゃあ、まだ先はあるんだ?」 「そうっスね。ブロック決勝の2週間後にリーグ戦が始まるっスよ」 「学校が多いと大変ねー...」 ため息交じりに言うに、 「じゃあ、決勝リーグは一緒に行かないっスか?たぶん、決勝リーグなら知ってる子がマネージャーしてるし」 と黄瀬が言う。 その言葉には興味を持ったようだが、 「やっぱりパス。難しいと思う」 と肩を竦めながら言った。 「っち、何か変わりましたね」 東京に向かう電車の中で黄瀬が言う。 「あ?」 「前までなんていうか、地に足がついていないというか、及び腰だったのが、しっかり“自分で”ってのを持って考えて動いてるっていうか...」 「あー...人見知り除きゃあいつしっかりしてるからな」 そう言った笠松はしまったと表情をこわばらせる。 それを見た黄瀬は苦笑した。 「オレ、知ってるっスよ」 「は?」 「笠松先輩、マネージャーになりたてだったっちを凄く心配そうに見てたし。っちに知り合いなのかって聞いたら内緒ねって言われたんスけど、そうだって。っちのお兄さんと友達って」 まさか黄瀬に自分との間柄を話しているとは思っていなかった笠松は驚き、どこかさみしさを感じる。 「そういや、あいつはお前の事をそんなに苦手っぽくないよな」 理由はわからないが、黄瀬の接し方が上手なのかもしれない。 モデルなんてものをしていて、人当たりはそれなりに悪くないと聞いている。 「んー...それ、オレも気になって聞いたんスけど。“黄瀬くん”ってカテゴリーらしいんスよね。だから、早々に人見知り対象から外れたんだって。これ、意味わかります?」 未だに意味不明の案件を聞いてみると笠松は噴き出した。 どうやら彼には分ることらしい、と黄瀬は期待する。 「人見知りの対象から外れてるんだからいいじゃねぇか。森山なんていまだに懐いてくれないって嘆いてんだぞ」 「あ、いや。嫌じゃないんスけど...笠松先輩もわからないんスか?」 「何となく感覚でわからなくもないが、口で説明するのは難しい。ものすごく単純に平たく言えば“人間じゃない”になるんだが、それは気に入らないだろう?」 「え...」 絶句した黄瀬に笠松は苦笑した。 「中々別カテゴライズにしてもらえるもんじゃない。素直に受け取れって」 「...ハイ」 目的の駅のホームに電車が入っていく。 腕時計を見たら間に合うかどうかのギリギリの時間で「ったく、てめーが!」と黄瀬を蹴り飛ばす。 「酷いっスよー、笠松先輩」 いつもの事である程度慣れたとはいえ、蹴られればやっぱり少しは痛い。 先を走っていく笠松の後を黄瀬は慌てて追った。 |
桜風
14.12.15
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