| 1学期の終業式の翌日から合宿という予定になっている。インターハイ前の貴重な調整期間だ。 そのため、期末テストは落とせないということで、テスト期間中の黄瀬は3年の先輩に囲まれて怒鳴られながらも勉強をしなくてはならなくなった。 ちなみに、怒鳴っていたのは専ら笠松で、ほかの先輩たちはそれなりに丁寧に教えてくれた。 テスト当日に黄瀬は登校中のの姿を見つけた。 「っち」 呼ばれて振り返ると疲れ切った表情の黄瀬がやってくる。 「おはよう」 「おはようっス」 「モデルさんが凄い顔してるんだけど、大丈夫?」 「もう聞いてよー。先輩たち、全然寝かせてくれないんスよ。睡眠不足は逆に効率が良くないって言うのに。酷いと思わないっスか?」 黄瀬が口を尖らせていう。 「うーん...でも、先輩たちも自分の勉強があるのに黄瀬くんの勉強に付き合ってほとんど寝てないんじゃないの?」 の指摘を聞いて黄瀬は口を噤んだ。 (そうだ...気づかなかった) 自分のことで精いっぱいでそこまで思いが届かなかった。 黄瀬は改めてを見下ろす。 「っちは」 「ん?」 「人見知りなのに、人の気持ちとか気配りに敏感なんスね」 そう言われては苦笑し 「だから、だよ。人見知りって、多少対人恐怖症なところもあると思うのよね。私の場合、人見知り中に兄の友達にそれをからかわれたりしてまず、この人怖い人かなとか観察するようになっちゃったし」 と肩を竦める。 「ふーん...笠松先輩は?」 話を振られては周囲を見渡す。 (近くに人はいないし、大丈夫かな?) 「おどおどしてた私にもちゃんと接してくれた人かな。小学校の時だからさ。子供って素直すぎて残酷だったりするでしょ?」 語彙力の問題かもしれないが、オブラードに包んで柔らかい表現に変換することをしない。 だから、ストレートに人を傷つけることになる。 「あー...」 笠松は昔からまっすぐで、今と変わっていないのかもしれない。 何となく納得してしまった。 「それで、黄瀬くん。赤点回避の確率は?」 からかうようにがいうと 「やってみないと分かんないっス」 と少しだけ情けない表情で笑う黄瀬が言う。 「っちは、自信満々スね?」 「まあ、それなりに準備してきたから。赤点の可能性と言ったら、名前を書き忘れるくらいじゃないかな?」 そう言って黄瀬を見上げるはからかいの表情で、 「オレの本気、舐めないでほしいっスね」 と黄瀬はキメ顔を向けた。 テストが順次返ってくる夏休み目前の1週間、黄瀬は毎日のように先輩たちに返ってきた答案用紙を提出していた。 一通り全教科返ってきて、黄瀬が蹴っ飛ばされている様子がなかったため、赤点回避は成功したらしい。 テストの話とは別の話で蹴っ飛ばされている様子は何度も目にした。 通常運転だと思った。 合宿所は毎年使っているところとのことで、先輩たちは勝手知りたるといった様子で、てきぱきと準備をしていく。 彼女たちが振り返ると、も何かしらの準備をしている。 察しは良いらしい。 彼女たちは顔を見合わせた。 笠松が夏までには、と言っていたが間に合わせた。 自分たちの指導が厳しかったのは知ってるし、始めたのが遅かったことも自覚している。 でも、は着いてきた。びくびくおどおどしていたからどうせ逃げ出すと思っていた。 だから、笠松が彼女を選んだ時にはものすごく腹立たしかった。 でも、あの時癇癪を起して部活を辞めなくてよかったとここ最近思うようになった。 「ねえ笠松」 手が空いた時に声をかけてみた。 「あ?」 少し驚いたように返事をした彼にかまわず続ける。彼は女子が苦手らしい。だから、自分が声をかけたからびっくりして構えたのあだろう。 「のこと、わかってたの?」 笠松は眉間に皺を寄せた。何か言葉を探しているような、自分の様子を観察しているような、そんな視線を向けてきた。 「どういうことだ?」 「案外、根性あったのよねー」 「...そりゃ、お前らがあいつの事認めてない間もずっと部活に出てきてただろうが。それに、教えてもらえないから、自分でスコアの付け方、覚えようとしてたんだし。少なくとも、部活に前向きだったよ」 笠松の言葉を彼女は一部聞こえないふりをしていた。 今更ながら子供じみたことをしたと反省はしている。だから、聞きたくない。 「ちゃんと残せそうか?」 笠松が問う。 「うん、残せそう。ちゃんと、私たち。だから夏で引退するよ」 「...そうか」 「そう。じゃ、あとで」 そう言って彼女はその場を離れる。 「そうか...」 笠松はもう一度呟いた。 |
桜風
14.12.22
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