| 二学期が始まり、いつもの生活が始まった。 夏休みの時は部活以外は休みのような感覚だったのに、授業なんてものが加わるので、正直ちょっときつい。 「あ、っち」 大量のプリントを抱えながらよたよたと歩いている彼女を見つけて黄瀬はそちらに足を向けた。 「手伝うっスよ」 そう言っての抱えているプリントをひょいと持ち上げた。 「わ、助かる。ありがとう」 そう言って黄瀬の厚意に素直に甘えたは手を組んでぐーっと前に伸ばす。 「どこまで?」 「社会科準備室」 「了解っス。そういえば、っちのお兄さんって強烈だったっスね」 ふと思い出す。 何だかものすごくオーラというものがあった。この人に逆らってはだめだという何かが。 「そう?ずっと一緒だからわかんないなー」 首を傾げて言うに「めちゃくちゃ頭もいいんでしょ?」とあの時ちょっとざわついた話題を思い出して口にする。 「ん?」 「制服見て、森山センパイとかびっくりしてたし」 「ああ、あの制服は有名かもね」 「もしかして、っちもあの学校に通ってたの?」 少し顔を覗きこむようにして問うと「まあ、うん」と歯切れ悪く答えた。 そういえば、進学するのに難しいテストがあると言っていた。 落ちたのかもしれない、と思いながら言葉を探していると「黄瀬くんって、お兄ちゃんかお姉ちゃんいる?」と問われた。 「居るっスよ」 「一緒の学校に通ったことある?同時に」 「小学校の時はあったっスけど。中学以降はないっスねー」 年が少し離れているのと、中学は帝光に通ったことから同じ学校に通う機会がない。 「それで?」 「私も小学校は地元の公立に通ったからお兄ちゃんお姉ちゃんが一緒の学校にいるっていうのは珍しくなかったのよ。 で、中学もお兄ちゃんと同じ学校に通ったんだけど、これは珍しかったみたいで。だから先生にも注目されたんだけど、それと同時に比較もされててね。『お前の兄貴はこうだった』『兄貴はああだったのにな』みたいな感じで。 ちょっときつかったのよね。だから、高校受験で高等部合格して、別の学校に通うことにしたの」 「え、合格?」 黄瀬が呆然と問い返す。先輩達のあの言い様だと、物凄い難関だったのではないかと思う。 「うん、合格。だって、合格してから出ていかないと『進学したかったけど、できなかった』って言われるだろうし、受験しなかったら『逃げた』って言われるでしょ? 逃げたというのは、まあ、当たらずとも、だけど。何か嫌だったから」 (意外と負けず嫌いなんスね) ここ数か月、比較的親しく言葉を交わしていたつもりだったのに意外な一面を見た気がして、黄瀬は眉を上げる。 「なに?」 その様子に気づいたは首を傾げる。 「あ、いや。っちって、どっちかというと気が弱いのかなって」 「気は..弱い方だと自負はしてるけど?」 黄瀬の問いを肯定する。 「でも、何か。海常に入ったその流れは強気だなって」 「ああ、まあ。そうねぇ。人に迷惑をかけてるかな、どうかな。迷惑をかけるかなどうかなっていうのはいつも考えてて何もできないことが多いけど。 でも、あれは私の問題だったし、家族もこの選択に何も言わなかったからできたんだと思う。お父さんとかが難色示したら大人しく高等部に通ってたはずだなー」 「どうして、海常だったんスか?正直、学校のレベルはそこまで高くないっスよね?っちって、雰囲気的にスポーツに詳しかったわけはないだろうから、運動系の部活動が強いウチにはそこまで興味なかったんじゃないかなって」 そう言うとは苦笑した。 「笠松先輩がいたからね」 「え?」 (笠松先輩を追いかけてきたって事っスか?) 「笠松先輩って、小さい時からいろいろ面倒を見て庇ってくれたりして。なんとなくそれを思い出してここを選んだの。背中に隠れること目的で」 「...うん」 「でもさー。笠松先輩って何か、いろんなもの背負ってて隠れる場所がなくてね。 覚悟決めて頑張ってる。まあ、黄瀬くんに会えたのも大きいかな?」 苦笑していう彼女の言葉に黄瀬は一瞬驚き、彼女を見降ろした。 ドキドキと心臓の音が耳に響く。 「カテゴリー“黄瀬くん”は、中々ありがたいのよ」 「意味わかんないっスー」 口をとがらせていう黄瀬には笑う。 社会科準備室の前にたどり着き、「ありがとう」と手を伸ばしてきたに「いいっスよ」と黄瀬は返して部屋に入る。 「え、いいの?」 追いかけていうに「大丈夫っス」と言ってふと気づいた。 「あ...」 「黄瀬、休み明けのあのテストの結果は何だ...」 顧問が担当教師というのはやりにくいというのを嫌というほど身に沁みた黄瀬だった。 |
桜風
15.1.5
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