| テスト期間中、笠松は小堀と森山と共にファミレスで勉強をしていた。 3人とも寮生活のため、寮に戻って勉強してもいいのだが、自室というのは、掃除や雑誌、テレビなど色々と誘惑がある。 その誘惑はかなり強いもので、そのため、抵抗するよりも最初から勝負をしないことにしているのだ。 そうなると寮の外。 どの道腹が減るんだし、ということで、ファミレスやファストフード店で勉強をするようになった。 ただし、1学期期末の勉強は黄瀬という非常に目立つ後輩を伴うものになるので、寮で勉強会という名のしごきを行った。 流石に黄瀬を見ながら自分の勉強というのは中々大変だったが、今回はその役をが担ってくれたので少しは楽になった。 そうはいっても、3人そろって顔を突き合わせているとふと部活の事が頭をよぎって相談してしまうなど、これまた雑念が働く。 仕方ないので、今日は少し用事があるから遅れていくと言って市立図書館に向かった。 市立図書館には自習スペースがあり、スペースごとに仕切りがあるため、それなりに集中できると聞いたことがある。 市内の高校は大抵テスト期間中なので空いていないかとも思ったが、足を運んでみると、ひとつだけ空いていた。 そこに腰を下ろして勉強をしていると、隣のスペースからポソポソと会話が聞こえてくる。 (だからここが空いてたのか...) この程度の小声なら、たぶん注意するのも気が引ける。 実際、自分も気が引けている。 集中しようと思ってふと気づいた。 これはと黄瀬の声だ。 (なるほどなー) 考えの基は同じなのだろう。 黄瀬の集中を妨げるものが少ない環境ということで選んだに違いない。 「ねえ、っち」 「黄瀬くん、そこ間違い。スペル確認して」 「え、うん。聞いていい?」 「ほら、そこも」 「はい...あのね」 「めげないねぇ...もうちょっとしたらキリが良いからそこまで集中して」 「...はい」 意外といい人選だったのかもしれない。 笠松は苦笑して自分も教科書に視線を落とす。 後輩が勉強するのに必要な会話なら、我慢するしかない。 暫く経って、「はい、ちょっと休憩」というの声がした。 時計を確認するとあれから15分程度。 自分もちょっと休憩しようと思って伸びをする。 「ねえ、っち」 「もうちょっと音量さげようか。声が漏れると周りの人に迷惑だから」 の言葉に納得したらしく、先ほどよりも少し小さな声で「聞いてもいいっスか?」という。 「ああ、さっき何か聞きたそうだったね。どこの問題?」 「あ、いや。勉強じゃないっス」 「そうなの?何?」 「っちって、笠松先輩の事、いつから好きだったんスか?」 黄瀬の問いに 「んー、結構前からだと思うよ」 と何事もなさそうに返したの言葉に盗み聞きをしていた笠松は声をあげそうになり、咄嗟に自分の口を手で覆うことで何とか堪えた。 「あ、あれ?あの、っち。オレが言ってる好きって分かる?」 慌てるような黄瀬の声に 「黄瀬くんの言う好きってどういう好きか、正確にわかってないかもしれないけど、家族としてとかそういうんじゃないよ」 とが落ちいた声で答えた。 「付き合いたいとかいう、あれ?」 「そうだなー。付き合いたいとも思ってないかな?」 「...は?」 黄瀬が頓狂な声を零した。 「私はもう“好き”でよくて、その先とか、想いを返してもらいたいとかそういうのないし。 たぶん、笠松先輩は手のかかる妹くらいにしか思ってないだろうし」 「それって、寂しくないっスか?要は、片想いっスよね?」 黄瀬の問いにの返事がない。 首を振ったのか、俯いたのか。それとも..笑っているのか。 アクリル板1枚隔てているだけの空間で、笠松は俯いた。 ふっと短く息を吐き、席を立つ。 これは聞いてはいけない話だ。 少なくとも、は笠松が聞いているとは思っていない。 だから、正直に答えたはずだ。 そっと席を離れていく笠松の足取りは少し早くて、逃げ出しているようにも見えるそれだった。 |
桜風
15.1.19
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