| 食堂は盛況だった。席はところどころしか空いていない。ここを休憩所のように使っている人も少なくないようだ。 「あー、どうします?」 「席取ってろ。うどんは..きつねだな?」 「はい」 確かきつねうどんが好きだったと思いだして確認すると彼女は嬉しそうに頷いた。 「あとで払いますね」 「奢ってやる。他の奴には内緒だぞ」 そう言って笠松がいなくなった。 取り敢えず、2人分の席を確保するためには食堂の中を歩き、何とか2人一緒に座れる席を見つけて確保した。 視線を巡らせると、笠松が女子と話をしている。 女子が苦手と言いながら、彼は普通に会話をする。 普通、ではないかもしれない。苦手だなと思っていても、相手からの言葉に自分の言葉をきちんと返す。 あの姿勢にどれだけ自分が救われたか... (でもなー...何だかなー...) 本人は無自覚のようで、意外と女子にも人気だ。あの男前の性格がそれなりに評価されているのだろう。 現代に意外と少ない硬派な性格は女子のウケも悪くない。 以前、黄瀬に問われて正直に答えた自分の気持ちは少しだけ誤魔化しがあった。 付き合いたいとか、そういうのは思っていない。 これは嘘ではない。が、付き合うとかそういうことになると今の関係が壊れてしまう。 そうなると元には戻らない。 それが怖いだけなのだ。 片想いが辛くないかと言われたが、この関係が壊れるほうが怖い。 今の関係なら、傍に居ていいのだ。 (あー、やだやだ) 逃げを打ってるくせに嫉妬など、まったく我儘だ。 「?」 テーブルに突っ伏して自己嫌悪に陥っていると心配そうな声が降ってきた。 「あ、何」 慌てて顔を上げる。 「気分でも悪いのか?保健室、行くか?」 「大丈夫です。ちょっと..寝不足」 「体調管理はしっかりしろよ。実家から通うの大変なら、寮って手もあるからな」 そう言いながら笠松はの前にきつねうどんと取り皿を置いて、「ほら」と箸を渡す。 猫舌のは、うどんやラーメンを食べるときには必ず取り皿にいったん置いて冷ましているのだ。 「えへへ」とが満足そうに笑うのを笠松は首を傾げて眺める。 あっという間に平らげた笠松はが食べ終わるのを待ってやる。 「ゆっくりでいいぞ」というとは「はーい」と返事をした。 「この後、どこか行く予定があったか?」 「早川先輩のクラスに行ってみようかな、と」 「早川?あいつんとこ、何するんだっけ?」 「甘味処」 のクラスが面倒くさいからと避けた模擬店をしているらしい。 「食えるのか?」 は食が細かったと思う。 「別腹現象って聞いたことないですか?」 「ある。お前もそれかよ」 呆れたように言われ「お前も?」とが問い返す。 「前に言われたからな」 「女の子のセリフだよね、それ」 「ああ、まあな」と歯切れ悪く笠松が言う。 マネージャーたちに奢ったことがある。というか、押し切られたというか... あの時も「まだ食うのか?」というと「別腹」と返され「太るぞ」というと激怒された。 の食事の手が止まっているのに気付いた笠松は「伸びるぞ。腹いっぱいか?」と声をかける。 「ううん、大丈夫」 そう言って彼女は手を動かし始める。 食堂を後にして早川のクラスを目指した。 「そういや、何でウチの学校にしたんだ?」 「なにが?」 「進学先。まあ、前にも聞いたっけか」 は苦笑した。 あの時は、たぶん答えていない。 (「ユキちゃんがいるから」と答えたらどうなるのかな...) 首を小さく振り 「教えない」 と人差し指を口に当てていう。 の答えに笠松はため息を吐いた。 |
桜風
15.2.2
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