| 秋も深まり、ウィンターカップに向けての公式試合を控えているこの時期に、が学校を休んだ。 これまで複数マネージャーがいたから1人休んだだけではさほど部活動に影響はなかったが、今回は覿面来た。 今朝、笠松はの兄から電話を受けた。 『這ってでも行きそうだから、病院にぶっこんだ。わりぃな。ガッコにも一応連絡入れとくけど、そういうことだから』 とのことで。 つまり、少なくとも今日はマネージャー不在で明日もどうかというところだろう。 (そういや、あいつ。この時期必ず酷いの引いてたな) 彼女は年に1回高熱を出す。 2〜3日寝込んでケロッとよくなるというのが1年のサイクルのうちに組み込まれていて、それは今でも変わらないようだ。 彼女と同じクラスの部員はいないが、担任と顧問が同じ教科だったため、キャプテンの笠松への連絡はあった。 (知ってる)と思いつつ、さてどうしたものかと悩む。 マネージャーのしていることはイマイチわかっていない。 引退した仲間に聞きに行くと「わー、大変ねー」と他人事ながら教えてくれた。 ひとまず今日は補欠の1年に対応させるのはいいとして、その後数日はどうするべきか... あまり心配させると病院から脱走しかねない。 意外と思い切りは良い。 部活が終わって笠松は少し離れた実家のある街へと向かった。 態々病院名まで伝えてきたということは、見舞に来いということなのだろう。 行かなかったら、正月面倒くさそうだと思ったので足を運んだ。 受付で病室を聞いて向かってみると病室入口にの兄がいた。 「お、来たか」 「お前が来いって言ったんだろうが」 半眼になって返す笠松に「明言はしてない」というので、笠松はため息を吐いた。 「起きてるのか?」 「部活ー、って唸ってるぞ」 苦笑しての兄が言う。 「入っても大丈夫か?」 「逃亡を手伝わなきゃな」 からかい口調で言われて「手伝うかよ」と笠松が返す。 ノックをして部屋に入る。 「お兄ちゃん、もう退院する!」 ドアの方を見ずに言うに「もうちょい休んでろ」と笠松が声をかけた。 「ぴぎゃ!」 変な声を漏らしては布団を被る。 (ああ、そうか。パジャマか) 子供のように思っていても、彼女は自分と同じ高校生になったのだ。 「あー、悪い。見舞はここに置いておくから」 「お見舞い、何ですか?」 が問う。 「お前の好きなプリンだよ」 「食べます。ください」 そう言って掛布団を首まで引っ張りながらそう言う。 「片手じゃ食べにくいだろう」 そう指摘されたは引き上げた掛布団から手を放した。 膝を曲げて座ることで、布団を途中までは掛けておけるようにした。 「ほら」 「ありがとう」 差し出されたプリンを上機嫌に受け取り、はプラスティック製のスプーンですくって口に運んだ。 満面の笑みで咀嚼しているに笠松は苦笑した。 「あと2〜3日休んでもいいからな」 「あ!今日部活は...」 心配そうに問うに「マネージャーがいなくても回るようにはなってる」と笠松が返す。 それを聞いたが肩を落とすのを見て、笠松はため息を吐く。 「別にお前だからじゃねぇからな。マネージャーがいない時期だってこれまで少なくなかったって聞いてるし。今は恵まれてる方だって」 その言葉にはコクリと頷いた。 「しかし、よく続いたな」 苦笑して笠松が感想を口にした。 「“続いた”?」 首を傾げながらが言う。 「ああ。バスケのルールもろくにわからないし、先輩ともうまくいってなかったし。 正直、は俺の背中に隠れるためにバスケ部に入ったんだと思ってた」 笠松の指摘には情けなく笑う。 「そのつもりだったんだよ。でも、ユキちゃんの背中、隠れるところなかったんだもん」 「そうか?」 物理的な話ではないことは重々承知で、でも、思わず自分の背中を見ようと体をひねった。 「ユキちゃん、いろんなもの背負ってるからね」 笠松がキャプテンになった経緯は、黄瀬から聞いた。 責任感が人一倍強いから、インターハイの敗北についても自分が思っている以上の感情があったのだと思う。 「背中に隠れるスペースがないなら、隣は空いてるぞ」 笠松がポツリと呟いた。 それはの耳にも届き、彼女は固まる。 (な、何か言った方が...) 言葉を探していると、病院内アナウンスが流れ、面会時間の終了を告げられた。 「じゃあ、ちゃんと治してから出てこいよ」 「あ、はい!」 笠松の言葉にはこくこくと首を縦に振る。 「ユキ、顔が赤いぞ」 近所のため、の兄と一緒に帰っているとそう言われた。 「気のせいだ」 「悪い。の風邪が移ったか?」 兄としては、妹の心境を察するところがあり、彼女はきっと喜ぶと思って笠松を呼んだが、あちら側の事情を考慮していなかった。 「いや、大丈夫だ」 「や、でも...」 「大丈夫だ。に言うなよ。絶対に気に病むからな」 笠松の指摘はそのとおりで。 だから、彼は大人しく頷いた。この赤面の理由は笠松に自覚がある。 (口が滑った...) 人見知りを発揮していた時は、正直安心していたが、ここ最近は苦手とする者もまだいるが、ずいぶん周囲になじんできた。 人見知りは環境に慣れれば多少緩和される。 だから、ここ最近は少し面白くないと思う機会が多くて...結果、口が滑った。 が登校したのは笠松が見舞いに来た2日後だ。 翌日には熱が下がったが、家族に登校を許してもらえず、結局3日も休むことになった。 登校してみるとクラスメイトに声を掛けられたり、廊下ですれ違ったバスケ部員に声を掛けられたりと、意外と気にしてもらえていて、今更驚く。 日常生活を送っていく中で、結んだ縁は確実にあるのだ。 顧問に登校を報告するとほっとした表情を向けられた。 「これから当分忙しくなるが、頼んだぞ」と言われて気合が入る。 顧問への挨拶も済んだので、教室に戻ろうとして見慣れた背中を見つけた。 笠松だ。 周囲を見渡してもクラスメイトがいる様子もなく。だから駆け寄ってみた。 「おはようございます」 「ああ、何だ。もういいのか」 そう言われては頷く。 「美味しいプリン食べたので」 「そりゃよかったな」 笠松は苦笑していう。 「ねえ、ユキちゃん」 「学校だ」 窘めるように笠松が言う。はその隣でぶーっと唇と尖らせた。自分は時々“”と名前で呼んでしまうというのに。 「黄瀬みたいになってんぞ」 「え!?黄瀬くんって顔だけは良いと思ってるんだけど」 弾んだ声で言うに 「表情の話だ」 と笠松が落とした。 「酷いなー」とは零す。 「それで、何だ?」 「あのね...」 俯くが足を止めた。 笠松も足を止める。 「隣って、空いてるの?」 居心地悪そうに視線を外したに「ああ」という肯定する笠松の声が届いた。 「隣、いてもいい?」 そう聞いたの手を笠松が掴んでぐいっと引っ張った。 たたらを踏みながら笠松のすぐそばにやってきたは彼を見上げる。 「いいんだよ」 「あ、じゃあ。隣がいいです」 「ん」 の言葉に頷いて笠松は歩き出す。 俯いたままのに「ほら、来いって」と声をかけた。 「はい」と頷いては駆けて笠松の隣に並んだ。 |
桜風
15.2.9
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