雪が溶けたら





「雪が溶けたら、次は春だね」

それは、10年位前に聞いた言葉だ。


あたしが住んでいたところは結構な田舎で、小学校はいろんな学年の人たちがひとつの教室で勉強する、所謂分校みたいなところだった。

だからこそ、学年を超えて仲が良かったし、先生も含めて家族みたいな感じだった。

その後、学校が廃校となり他所の小学校に転校してがっかりした。

学年とさらにクラスが分かれていて、どう考えても家族みたいな関係にはなりそうになかった。

それがおそらく『普通』なのだろうが、あたしは普通じゃなかったあの学校が好きだった。

ひとつ上のお兄さんに『大ちゃん』と皆が呼んでいた男の子が居た。

椿大介。

足がとても速くて、年下の面倒見が良かった。

基本的に大人しかった大ちゃんは、目立つ方じゃなかったし、おしゃべりでもなかった。

けれど、廃校が決まって皆で何かをしようって話になったときに大ちゃんはサッカーがしたいと言い、それを頑として譲らなかった。

学年が違うと体力も全然違う。そのサッカーは先生達も一緒に、と言うことでお年寄りの先生も参戦していたのでそれこそ多種多様な基礎体力の人たちがひとつのボールを追いかけて走った。

不公平にならないように大ちゃんは色々と考えて皆が楽しめるようにした。

凄いな、って思った。


―――雪が溶けるとお別れになる。


「もう、雪が溶けちゃうね」

学校帰り、そう呟いた。

「ホントだ」と道端に避けている雪を見て大ちゃんも頷いた。

「けど、ちゃん。雪が溶けたら、次は春だね」

と笑顔で言った。

春はぽかぽかとあたたかくて、何だか嬉しくなる季節だ。

「そうだね」

別れの季節でもあるけど、前向きな別れが多い。

そして、あたしたちも前向きに別れた。皆同じ小学校ではなく、結構バラバラになってしまったのだった。



アレ以来、雪が溶けると何になる、と何人かに聞いたことがある。

皆さも当たり前のように「水でしょ?」と答えた。

おそらく、あたしも大ちゃんの言葉を聞いてなかったら皆と同じように「水」と答えていたと思う。

つくづく大ちゃんは凄い。

大学入試を間近に控えて上京した。

小学校を転向して以来、そこそこの都会に住んでいたのでそこまでおっかなびっくりじゃないけど、やっぱり違う世界のように思えた。

地図を見ながら周囲を見渡す。

「あれ、ちゃん?」

振り返るとその面影に見覚えがある。

「大ちゃ..ん?」

「あ、やっぱりちゃんだ。どうしたの?」

何と、声を掛けてきたのは、大ちゃんだった。

「えーと、受験」

「あ、そうか。ちゃんは大学生になるのか」

大ちゃんが頷く。

「大ちゃんは?」

「俺?俺はサッカー選手」

「えーーーー??!!」

思わず上げた声に周囲の目が集中する。

「ちょ..しー!」と大ちゃんも慌てる。

「ホントに?」

「うん。本当だよ」

凄い、凄い!!

大ちゃん、いつの間にか凄い人になってたんだ!!

それを伝えると大ちゃんは困ったように笑って「変わらないよ、俺は」と答えた。

「そっか。でも、大ちゃんやっぱり凄いよ」

「ありがとう」

そう言って大ちゃんは時計を見た。

「あ、ごめんね。足を止めてくれて」

用事があったのに声を掛けてくれたのかもしれない。

「ううん、声を掛けたのは俺だし。またちゃんに会えて嬉しかったよ」

そう言って笑う大ちゃんの笑顔は意外と変わらない。

回れ右をした大ちゃんに思わず「あの、」と声をかけた。

「ん?」

「そろそろ雪が溶けるね」

先ほどの会話から何の脈絡もないその言葉に大ちゃんは笑って「うん。次は春だね」と言った。

軽く手を上げて大ちゃんは人ごみの中に消えていった。


雪が溶けたら春が来る。

花がたくさん咲く季節がやってくる。






あれ、初・椿夢ですか??
あれ?じゃあ、何で椿のヒロイン名決めてたんだろう...
雪が溶けたら〜というのは、わたしの中でフルバがお初でしたね。
結構ある話(?)みたいですけど。
雪が溶けたら春が来る。素敵な考え方だなって思いました。
純朴な(?)椿だからのネタです。(コッシーと悩んだけどな/笑)


桜風
11.03.18


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