届く声





スタンドを見上げる。サポーターを眺めてみたが、やっぱりいないようだった...


俺が高校の頃には引っ越してきた。

何の共通点があったのか、ウチの母親とあいつの母親の気が合ったらしく良く道端で立ち話をしていた。

そして、当時小学生だったはいつも所在無さげに母親の隣に立っていた。

「おかえり、良則くん」との母親に声をかけられ「ども」と返事をすると大抵は慌てて「お帰りなさい」と声をかけてきていた。

家を出てからも偶に実家に帰ると母親からの話を聞いた。

いつだったか、あいつも家を出たと聞いてもうそんな年になったんだっけ?と思った。

その年だったか、詳しく覚えているわけじゃないけどスタジアムでの姿を見つけた。

小さく控えめに手を振られて返していいものか悩んだ挙句、軽く手を上げて応えた。

その試合以来、ホームでの試合にははスタジアムに来ているようだった。

しかし、ここ最近は見ない。

ここ最近と言っても3試合程度だが、たとえアウェイでも関東圏なら来ていたし、ホームでは皆勤賞だった。

それが3試合もホームの試合に来ないとやっぱり気になるのは仕方のないことだ。

もしかしたら体調を崩してるのかもしれないし...


何かに言い訳するような気持ちで、オフの日に、以前実家で聞いたの勤め先に向かった。

さすがに出口のまん前で待ち伏せはまずいだろうと思い、駅までの道のりの途中で少し待ってみることにした。

少しはなれたところから「お疲れさまー」というの声が聞こえた。

どんなに多くの声援を向けられてもの声だけは俺の耳に届く。聞きなれた声だからだろう。

「おい、

俺に気付かずに目の前を通り過ぎようとしたに声をかけると、彼女は振り返って目を丸くした。

「お久しぶりです」

挨拶をした後に首を傾げる。

まあ、俺がこんなところにいるのは確かに不自然だな。

とりあえず近くまで車で来ているし、立ち話をするのも悪目立ちだ。

「時間、大丈夫か?」

「はい」

「じゃあ、付き合え」

裏路地に抜ける少し細い道を歩く。後ろはちゃんと付いてきているようだ。

ロックを解除してに乗るように促した。

彼女は素直に車に乗り込む。

...それもちょっとどうかと思う。

気を取り直して車を出した。

少し走らせて「最近、スタジアムに来てないだろう」と言ってみた。

不思議そうな声で「えーと。はい」とが頷く。

「忙しいのか?」と問えば「いいえ」と返事があった。

「そうかよ」

じゃあ、何でスタジアムに来なくなったんだろう。

「何で知ってるんですか」と心から不思議そうにが言う。

「知ってるも何も。スタジアムに姿がなけりゃ、来てないって事だろう」

「見えるものなんですか?!」

「うちのサポーターはそこまで大規模じゃないしな。知った顔ならそれなりに見つけられる。特に、は場所、大抵同じだろう?」

毎回チェックしていると思われるのもちょっと抵抗はあったものの、常連だしそういうことだってある。

「もう、来ないのか?」

来たくないならそれで良いが、それ以外に理由があるのなら聞いてみたい。

すると、は思いもよらない言葉を口にした。

「あたしは、本当に選手の力になっていますか?」

そうやって切り出したの言葉に驚いた。

何だって、そんな婉曲した事を考えてるんだ??

「あのなぁ...

スタジアムでもの声はきっちり届いてる。それに、スポーツ選手は応援あってこそだぞ。いくらでも『頑張って』って言われ慣れてる。

第一、プロのアスリートが声援をもらえない方が問題だ。言われてナンボの『頑張って』だぞ?!」

応援されない選手は結構寂しいもんだぞ?そりゃ、応援されない理由はたくさんあるだろう。

応援がなきゃ頑張れないってわけでもない。

けど、応援はあったほうが断然良い。

「俺にとって、の『頑張って』は相当力になる。だから、またスタジアムに来いよ」

運転しながらの話だからの目を見て話せないが、表情が気になってチラと見ると視線がぶつかる。

「そんな気になるんだったら、俺だけ応援しとけ。そうしろ、そうしろ。他の奴らを応援するな」

「あの、チームメイト...」

他のやつの応援しての負担になるならしない方がマシだ。

「良いから。だから、次の試合はスタジアムに来いよ。俺は若手の奴らに比べて勝負強さも瞬発力もないけどな。まだまだ全然諦めてないんだ。お前の声が届くなら、もっと頑張れる」

「あたしの応援が、堺さんの力になるの?」

「だから、そう言ってるだろう」

言葉が通じないと言うのは中々に辛いものだな。

「わかりました。うん、またスタジアムに行く。そして、堺さんがゴールした暁には投げキッスしてもらう。練習しといてください」

「!?ばか!!」

何言ってるんだ?俺のキャラじゃないぞ?!

信号が赤になり、ブレーキを踏んでサイドブレーキを引き、シートに体を預けた。

「だめですか?」

の声が笑っている。

ったく...

「してやるよ、そんくらい。だから、ホームの試合は全部来て俺を応援しろよ」

お前の声がまた届くんだったら、投げキッスだろうと何だろうとしてやるよ。

俺の言葉には少し驚いた様子を見せたが、満足したのか目を細めて微笑んだ。






と、いうわけで堺さん視点です。
まあ、あやふやな感じの関係の2人でありますが、さらにこの先の進展も微妙な気もしますけど...
堺さんの投げキッス。凄く貴重だと思います。
わたしもしてもらいたい...

ひとまずこの作品で『CHEER!』第一部終了とさせていただきます。
通常営業の方、ちょっと整理してまた戻ってきます。
ありがとうございました!


桜風
11.04.02


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