| 鴨川ジム。 世界チャンピオンを1人、日本チャンピオンを1人抱えているボクシングジムだ。 勿論、それ以外のプロボクサーも抱えている。 その界隈では結構注目されているジムである。 ジムの貼り紙を見て首を傾げて「ちわーす」と木村はドアを開けた。 『練習生募集中』 いつも見る貼り紙であるが、その横に『女性も大歓迎』と書いてある。 このジムに女性と言うのはまずいのではないだろうか... 理由は鴨川ジムに所属するものなら皆言わずもがなで頷くだろう。自分も敢えて口にしようとは思わない。 着替えてアップを始める。 「あ、八木さん」 おそらくあの貼り紙をしたのはこの人だ、と思って声をかけてみた。 彼は足を止めて「何だい?」と温和な声で応じる。 「表の貼り紙。女性も大歓迎って...」 「最近ボクササイズっていうんだっけ?ボクシングでダイエットというのが流行ってるみたいだからね。ウチもそれを取り入れてみようかと思って。どうかな?」 『ボクササイズ』は知っている。知っているが、それってインストラクターが要るんじゃないのか?? 木村が問うと、「僕がするよ」と意外な答えが。 「え、八木さん。インストラクター出来るんですか?」 「元ボクサーだし、メニューを組むことくらい出来るよ。君たちみたいに『強くなる』ことが目的じゃないしね」 まあ、そうだろう。 実際、このジムに来ている練習生もプロを目指しているのではなくて体を鍛えるとかそういうのが目的の人だっている。 「けど、ウチに女性って拙くないですか?」 こちらとしては大歓迎だが、下手すれば色々と問題が出てきそうな気がするぞ... 木村の言わんとしていることが分からないらしい八木は「拙い?」と首を傾げている。 まさか、本気か?! 木村は呆然とした。 そんな中、そっとドアを開けて「こんにちはー」と声を掛けてくる人が居た。 女性の声で、まさか、と木村は振り返った。 小さい。かわいいと言う単語に負けない容姿だ。 「あの、貼り紙の...」 「え、やめた方が良いよ」 木村が反射で思わず言ってしまって「木村くん!」と八木に窘められてしまった。 もちろん、勇気を振り絞ってヤローしかいない建物のドアを開けた彼女、も腰が引ける。 「ウチは鷹村さんがいるんですよ?」 こそっと八木に言うと 「大丈夫だよ。鷹村くんの好みは年上だ」 とキッパリ返されて木村は唖然とした。 え、分かっててあの『女性も大歓迎』を追加したの?! 八木の人当たりのよさは木村も知っている。自分と並ぶか経験の差で八木の方が上だろう。 だが、鷹村の好みどうこうもあるが... 木村は溜息を吐いた。 翌日からはジムに通うようになった。 しかし、木村から距離をとる。理由は分かる。「やめた方が良いよ」と初対面で口走っていたせいだろう。 まあ、自業自得か... 納得して淡々と練習を続けていく。 ま、ひと月続けば良いほうかと思っていたもまだ通ってきている。 鷹村のセクハラに耐え、周囲のデリカシーの無いヤローどもの雑談にも応じ、 馴染んできていたある日、ジムの練習道具の片づけをしているに練習生が声を掛けていた。 はなにやら断っているようだったが、彼は善意で彼女の手伝いを始めたようだ。 しかし、はその善意を善意と受け取れなかったようだ。 の表情を見て彼が言う。 「無理しなくて良いよ」 その言葉には俯いた。 自分はダメだといわれた気がしたのだろう。 そんなを見て木村は苦笑した。 ゆっくりと彼女に足を向けてその頭にぽんと手を置く。 「ゆっくりで良いんだよ、ちゃん。頑張ろう」 と木村はニコリと微笑んだ。 はビックリしたように顔を上げて木村を見上げた。 「あと、押し付けがましい親切にはガツンと言わなきゃ。わかんない男は多いんだよ」 は目を丸くしてやがてはにかむ。 「はい!」 「良いお返事だね」 「わたし、木村さんって意地悪な人だと思っていました」 「...うん、薄々そう思われているんじゃないかと思ってたよ」 苦笑で返す木村に「ごめんなさい」と深く頭を下げては謝罪し、「ありがとうございました!」と礼を言った。 |
一歩界の(わたしの脳内)癒しの代表、キム兄さん。
ということで、書いたんですけどね。
相変わらずの淡々とした感じのお話です。
もうちょっとぽわぽわした何かが浮かぶお話だったのにな...
桜風
11.03.16
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