| 先ほどまで元気に泣いていたわが子の安らかな寝顔に頬を緩める。 泣くのが仕事、と良く聞くがこれほど泣いてこの子は大丈夫なのだろうか... 絳攸はいつも心配になる。 しかし、妻のは何て事のない様子で子をあやす。 一度、彼女に頼んであやすのを代わってもらったが手も足も出なかった。 母親の偉大さを思い知った出来事である。 今回も、絳攸が抱いて居たら盛大に泣き始め、つられて泣きそうだった絳攸から娘をひょいと引き受けてこうしてあやして眠らせたのだ。 「さすがだな、」 心から感心して絳攸が呟く。 は振り返り、ニコリと微笑んだ。 「少しくらいは、絳攸様よりも得意なものがありませんと」 彼女の言葉に苦笑した。 曰く、「目指せ、百合様」だそうで。 あの黎深を前にして動じない彼女は、にとって見れば、理想の妻の姿だそうだ。 絳攸は夫婦という姿をそう多く目にしたことはない。 叔父の玖狼のところは夫婦の仲睦まじく、おそらく理想とするならあそこの方だろうとは思うのだが、どうしたことかは自分を育ててくれた黎深と百合夫婦こそがわが理想だと以前口にしていた。 まあ、あの2人の育てられた絳攸はそういわれて嫌な気はしないが、不思議には思っている。 自分はそこそこ大きくなって黎深に有無を言わせずに拾われたので、あの2人の子育ては全く想像がつかないが、こうやって赤子が居たらどうしていたのだろうか。 此処まで小さいと苦手なのではないかと思う。 何より、あの黎深が意思疎通の出来ない者とムリに意思を疎通させようと努力をしている姿が全く想像できない。 コトリ、と目の前に湯気の立つお茶が置かれた。 「ありがとう」と言う絳攸に「どうぞ」とは微笑んだ。 絳攸は彼女の淹れる茶が好きだ。 特に高級な葉を使っているわけではないと彼女は笑ったが、葉が高級だとかそう言うのは関係ないのだ。 きっと彼女が淹れてくれるから美味いのだ。 そう思ってはいるが、照れくさくてあまりそういうことは言わない。 彼女もそれを求めないのでそれでいい。 親友の常春頭は「そうやって余裕ぶってると痛い目に遭うかもしれないよ」と言うが、いつも軽い、口先だけの賞賛を振りまいているために痛い目を見ている彼に言われても全く説得力がない。 「絳攸様?」 何か感慨に耽っている様子の絳攸にが首を傾げて不思議そうに声を掛けてくる。 「ああ、すまない」 「いいえ。何か楽しいことでもあったのですか?」 彼女の言葉に驚き、「楽しいこと?」と聞き返す。 「ええ、少し楽しそうにされていましたので」とが頷く。 絳攸は微笑み「幸せだと思っていただけだ」と答えた。 意外だったその言葉には一瞬言葉を失ったが、「私も幸せですよ」と返した。 絳攸は彼女の手を取り、口づけようとして固まった。 その様子に首を傾げ、絳攸の視線を辿るかのようにが振り返る。 いつの間にか戸口に黎深が立っていた。はらりと扇を開いて口元に当てている。 「ああ、こちらは気にせず続けて良いぞ」と冷ややかに言って黎深は寝ている赤子の元へと足を向ける。 その表情は、さきほど絳攸に声を掛けたときとは真逆で、目じりがさがり、締まりのない顔だ。口元だって緩んでいる。 「えーと、もうちょっと待つように言ってみたんだけどね」 続いて百合が入ってくる。 と、いうことは少し前から室の前にいたと言うことか?! 絳攸は頭を抱えて卓に突っ伏した。 「ごめんなさいね、」と百合が耳元で謝罪する。 今、絳攸に声を掛けると更なる追い討ちになりそうな気がしたのだ。 しかし、は悪戯っぽく笑い、「私、百合様たちがいらっしゃってるの気付いていましたから」と返した。 その言葉に百合は驚き、そして絳攸を振り返り、再びを見た。 にこりと微笑むに百合は苦笑した。 「こら、黎深。泣かせてどうするの」と夫の元へと足を向ける。 せっかく寝ていた姫を起こしたのだ。 起こす気はなかったが、全力で可愛がっていたので姫が起きてしまった。烈火の如く泣いている姫に黎深が珍しくうろたえている。 そんな義父母の様子を見ては未だ卓に突っ伏している絳攸に「絳攸様」と声を掛ける。 ちらと顔を動かして視線を向けてきた絳攸の耳元に「さっきの続き、楽しみにしてますね」と囁き、とりあえず来客があったことを家の者に告げるため、は室を後にした。 黎深のことなのでそういったことは色々と抜きにしてやってきているのだろう。 百合はその黎深を止めながら来ているはずだから、もしかしたら、家の者は気付いていないかもしれない。 「絳攸、君も中々凄い奥さんもらったね」 が出て行った後、振り返った百合は小さく口の中でそっと呟き再び苦笑を漏らした。 |
彩雲国にしては珍しくラブラブな感じ?ですか??
絳攸は思い至っていないようですが、黎深は秀麗をものっそい可愛がった経験があるので
猫かわいがりは得意だと思います。
まあ、その可愛がり方は全力なので赤ちゃんには向かない気もしますけど...
桜風
11.03.20
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