| 「あたしの座右の銘、知りたい?」 彼女は突然そういった。 試合中に何を思い出しているんだ... 危うく切れそうになった集中を保つべく、一度首を左右に振って神は走り出した。 『膝は折っても心は折るな』 以前、彼女がそう言って胸を張っていた。 2つ上の先輩、バスケ部のマネージャーだったの座右の銘らしい。 中学時代バスケでセンターのポジションだった神は、周囲からの評価もそれなりに高かった。 そして、彼は神奈川の王者海南大附属高校に入学し、勿論バスケ部に入部した。 しかし、世界が違った。 彼の体格ではセンターは到底務まらなかった。 監督は早めにその事実を彼に告げた。 その言葉を受けた彼は、監督の肩ごしに見えるリングをじっと見つめていた。 その日の練習後、神は残って一人シュート練習に励んだ。 ガン、とリングに当たってボールが零れる。コロコロと転がったボールはピタリと止まった。 「遅くまでまあ...」 神は振り返って「お疲れ様です」と頭を下げた。 2つ上の先輩で今とてもお世話になっているマネージャーがそこに呆れた顔をして立っているのだ。 「まだ帰らないの?」 そう言って彼女はでたらめにボールを投げた。リングの中に吸い込まれていく。 「あらま、奇跡」 彼女はそう呟く。 神はぽかんとそのリングを眺めていたが、シュート練習を再開した。 外れたシュートは変に跳ねて反対コートに転がっていく。 は帰らずに淡々とそのボールを拾い集めて神の傍においていく。 暫くして腕が上がらなくなった。 「もうお終い?」 特に他意はないのだろうが、神はちょっとムキになって「休憩です」と答えた。 「あら、そ」と彼女はそのまま淡々とボールを拾って集めた。 「あの、先輩は何で手伝ってくれるんですか?」 こうやってがボールを拾ってくれるのは非常に助かる。 「んー?」と彼女はとぼけた。 答えを待っている神の視線に降参したように軽く肩を竦め、「泣いて帰るんだと思ったのよね」と言う。 「誰が?」 「神くん」 「俺ですか?!」 驚いた。というか、いつの話だ?? 「監督に、センターはムリだってはっきり言われたでしょう?センターで、しかもウチに入ったからにはそれなりに矜持なるものを持っていると思ってたの。それをばっさりと切られたでしょう? 目の前でべそをかかなくても、影でこっそりと泣いて、そのまま悲劇のヒーローぶって辞めるんだろうなって思ってた」 遠慮ない指摘に神は面くらい、暫く言葉を失ったが「失礼ですね」とやっと返した。 その反応にはケラケラと笑う。 「うん、そうみたいね」 「第一、何で泣いて帰るなんて思ったんですか?」 「だって、神くんは背は高いけど可愛い顔してるし、ひょろっこいし」 「物凄く失礼ですよね、先輩って」 心からの抗議には「あはは、ごめんねー」と軽く返した。 「可愛いとか。俺、男ですよ?」 「そのつぶらな瞳を羨ましいと言うおなごは少なくないと思うな」 またしてもからかい口調だ。 「先輩よりも力のある男です」 「ま、認めるけどね」とは肩を竦める。 「けど、だから気に入っちゃった」 にこりと彼女が笑う。 神は首を傾げた。 「だから、神くんには取って置きを教えてあげるよ。あたしの座右の銘、知りたい?」 何だろう...でも、碌な事じゃない気がする。というか、別に知りたいとまでは思わない。 そう思っていると顔に出たのか彼女は片目を眇めた。 しかし、すぐに気を取り直したように溜息をついて、彼女は口を開く。 「膝は折っても心は折るな!」 「...は?」 ぽかんと口を開けた神は結構間抜けな表情をしている。 「これ、あたしの座右の銘。 挫けてもいいのよ。挫けない人がいたらそれはまずいと思うわ。だから、いくらでも挫けても良いの。けど、最後の一線。心だけは折っちゃダメ。何も出来なくなっちゃう。泣いても良い、挫けても良い。心はしっかり保つの」 ぱちんとウィンクをして彼女は笑った。 彼女が卒業してからも、時々その言葉が神の頭の中でリフレインする。 スリーポイントラインの外からシュートする。綺麗な放物線を描いてそれはリングの中に吸い込まれていった。 「ナイシュッ!」 スタンドから声が聞こえた。 振り返ると久しぶりのの姿が目に入る。彼女は片手を上げて親指を立てていた。変わらない笑顔に思わず苦笑が漏れた。 |
挫けるって心が折れることなのかしら、と思いつつ、それとこれとは別物と思ってください。
特にこの話では。
挫けるって誰にでもあることだと思うんですよね。
挫けたことがない人っていない気がする。
だから、挫けても良いのです。その後、また立ち上がれば何とかなりそうな気がします。
挫けたときはつかの間の休息って事で。
桜風
11.03.23
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