| 放課後、牧が教室に戻ると初めて聞く曲が耳に入った。 誰かが歌でも歌っているのだろうか。歌詞はないが、メロディだけを口ずさんでいるようだ。 何だろう、と思いながらドアを開けるとクラスメイトのが驚いたように振り返り、先ほどの曲も消えた。 「ビックリした」 「何だ、だったのか」 何かに納得したような表情をする牧には首を傾げる。 「さっき何かを歌ってなかったか?」 「え...」 まずいところを見られた、とその顔に書いてある。 「隠すような事か?聞いたことない曲だったが、流行っているのか?」 そういうのに疎いんだ、と付け加える牧には苦笑した。 「何処にも発表されていない曲」 「どういうことだ?」 「さあ?」 とぼけるに少し興味を持ち、考えてみた。 「もしかして、が作ったのか?」 「...さあ?」 間が空いた。おそらくそうなのだろう。結構正直者だな、と牧は苦笑した。 「何で隠すんだ?」 「乗り越えるには物凄く厚くて高い壁の先に暗くて深い溝があるから」 肩を竦めて言う。 芸術系に進もうとすれば親の協力はおそらく必要なのだろう。 そして、の親はそれに積極的に協力してくれるタイプではないようだ。 自分もおそらく親の理解が必要なのだろう、普通は。幸いなことに親が理解してくれているからこうして続けることが出来る。 「そうか」 「うん」 「俺は好きだな」 牧の言葉に驚いたようにが彼を見つめる。 「音楽とかそういう芸術方面は全く才能はないオレが言っても何の足しにもならないかもしれないが。さっきのが口ずさんでた曲、俺は好きだよ」 が泣きそうな顔をして笑う。 ちょっと焦ったが「具体的に何か手を貸せないが、応援はする。ちょっと無責任かもしれないがな」と素直に言うと「ありがと」と少し震えた声で返してが天井を見つめた。 俯くかと思ったが彼女は顔を上げた。 おそらく前向きな方向に気持ちを固めたのだろう。 卒業式の日、は牧に声をかけてきた。 「家出、することにした」 「は?」 「親との話し合いは決裂。どうしてもやりたいなら親に甘えるなって言われて。確かに一理あると思ったの」 笑って言うはすっきりした表情をしている。 「...大丈夫か?」 「わかんない。かっこ悪く出戻って親に泣きつくかもしれない。『ほれみたことか』って斜め上から親に言われるかもしれない。けど、今はスゴスゴ引き下がる気になれなかった。だから、やってみる」 責任は取れないのに背中を押すようなことを言ってしまった。まずかっただろうか... 少し弱気になっている牧だったが、は彼の胸をドンと拳で軽く叩いた。 「牧くんのお陰。あの言葉はあたしに勇気をくれたよ。この先、どう転んでも後悔だけはしない自信はある」 胸を張って言うに牧は少し言葉を失い、「俺は、を応援する」といつかの言葉を繰り返した。 「ありがとう。あたしも牧くん応援してるから。ガンガン上に向かって突っ走ってよ。いつか『上』で会えたら素敵じゃない?」 「そうだな」 頷く牧に手を差し出す。 牧はその手をとって握手に応じた。 「いつ咲くかわかんない花だけど」 やはり少し不安なのかが言うと、 「いつ咲こうが花は花だ」 と牧が自信に満ちた表情で言う。 「ありがと」 笑って言うの表情にもう迷いはなかった。 |
最初『遅咲きの』という感じで書いていたのですが。
いつ咲くかわかんなくなってしまいました...
けど、いつでも咲けば『花』ですからね。
桜風
11.03.27
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