| 冷徹だとか、血が凍っているとか。 そんなことを言われている大妖怪、妖狐蔵馬。 彼は最近命を狙われている。 まあ、大抵命は狙われているのだが、今回の暗殺者は色々と違う。 「蔵馬、かっくごー!」 暗殺したいなら静かに来い... ひらりとかわしすと彼女はベシャッと潰れる。 そんな無様な姿を冷ややかに見下ろす蔵馬に「中々やるわね」と彼女は捨て台詞を残して消えていく。 逃げ足が非常に速いのだ。 だから、あの程度で生きているのだろうな... 彼女は最初、宣言をした。 「妖狐蔵馬。貴方の命を頂戴するのはだ!」 そう言ってそのときはすたこらと逃げていったのだ。 何だか嵐のようだった。 突然やってきて、これまた突然居なくなる。 最初『』というのが何かが分からず、後で「ああ、アイツの名前か...」とその場に居た皆は納得した。 それからと言うもの、3日と空けずに彼女は蔵馬の命を狙いにやってくる。 しかし、どれだけ本気なのか甚だ疑問で、蔵馬も特に相手にしていない様子だ。 手下の中の血気盛んな者たちは「我々があいつを始末する!」と進言してきていたが蔵馬は決まって「放っておけ」と答えていた。 「甚く気に入ったようだな」 黒鵺が声を掛けてきた。 蔵馬はチラと彼を見て「何がだ」とおおよそ見当はついていたが、聞いてみた。 「あのとか言う娘のことだ」 「弱すぎる。手を下すのも面倒だ...」 「お前がやらなくて良いだろう。血の気の多い奴らが志願している。黄泉もやる気だ」 黒鵺の進言に、蔵馬は肩を竦めた。 「こちらがまともに相手をしたと言う話になるのはどうかと思うが?」 蔵馬の言葉に今度は黒鵺が肩を竦める。 だから『ご執心』と言っているのだ。 しかし、これ以上指摘をしても特に建設的な話にならないと言うことが分かっている黒鵺は何も返さずにその場を去った。 蔵馬も彼がまだ何かを言いたいのは分かっているので特に引き止めることはしない。 蔵馬にとっても自分の行動は不思議だった。 これまで本当に弱っちい暗殺者も簡単に屠ってきていたのに彼女を前にするとそうする気が起きないのだ。 だからこその『ご執心』なのだろう。 先ほどの黒鵺の表情を思い出して蔵馬は溜息を吐いた。 しかし、何故だろう... 確かに、これまでに無いタイプの暗殺者だ。 というか、彼女を暗殺者と呼ぶには些か抵抗がある。 暗殺じゃなくて、決闘を申し込んできていると表現する方が近いが、特に決闘も申し込まれていない。 だが、まあ。方向は物凄く間違っているが、彼女が何かしらに一生懸命なのは良く分かる。 おそらく、自分に向ける殺意にもならない何かしらの意思がこちらの殺気をそいでいるのだろう... そう結論付けた蔵馬はひとつ頷いた。 「蔵馬、覚悟ー」 猪突猛進。 彼女に贈りたい言葉ナンバーワンだ。 蔵馬はひょいと避けた。そして、いつもと違うのは彼女の腕を掴んで逃がさなかったことだ。 とうとう始末する気になったか、と周囲は安堵の息を漏らす。 「、とかいったな。何故俺を狙う?」 あれ、何かちょっと違うぞ? 手下達は一様に首を傾げた。 「え?」とも面食らっている。 「俺に対する殺気が全く無いのに命を狙うと言う。どういうことだ」 蔵馬の問いに彼女は視線を泳がせて口笛も吹いてみた。 ある意味、勇者だ。 皆は蔵馬の次の行動を、固唾を呑んで見守る。 ぺしんと彼女の頭をはたく。 「耳障りな下手な口笛を吹くな」 え、そこですか?! 声に出さないが、皆は同じことに突っ込みを入れる。 「えーと、ですね。正直に白状しますと。あたし、貴方の気まぐれに助けてもらったことがあるんです」 「偶にあるな、お前の気まぐれ」 黒鵺が茶々を入れる。 それを一瞥して蔵馬はに話の続きを促した。 「それで、恩返しをしようと思って」 「恩返し?」 蔵馬の眉間に皺が寄る。 「たくさん命を狙われた方が名声が上がるんでしょう?だから、暗殺者になってみたんです」 蔵馬はおでこを押さえて俯き、深い溜息を吐いた。 「あれで『暗殺』か?」 「はい!」 満面の笑み。 彼女は恩人の命を狙いながら恩返しをしていたと言う。 「掘り出し物だな」 またしても黒鵺が茶々を入れる。 「黙ってろ」と蔵馬が返してを見る。 「俺に殺されると思わなかったのか?」 蔵馬の問いにはきょとんとして 「まあ、もとを糺せば貴方にもらった命なので」 とさらりと返した。 肩を竦めた蔵馬はまた溜息をつき 「お前みたいな素人に狙われている方が迷惑だ」 と返す。 何と自分が良かれと思ってやっていたことが蔵馬にとって迷惑だったのか... はしゅんとした。 「だから、暗殺の仕方を俺が教えてやる」 蔵馬の言葉に皆が皆、驚きの声を上げた。 「あの、えっと...一体どういう...?」 勿論、一番驚いているのはである。彼女の頭の上には『?』がたくさん並んでいる。 しかし、気を取り直したように頷き 「分かりました!精一杯、蔵馬さんから暗殺術を学び、見事な暗殺者になって命を狙ってみせます!」 の高らかな宣言も「何だそれ」と皆は首を傾げる。 しかし、蔵馬だけクツクツと笑い「せいぜい頑張れ」と返していた。 かくして、奇妙な師弟関係が魔界の隅っこで出来上がる。 「なるほどな...」 ぽつりと黒鵺が呟いた。 蔵馬が気に入るのも無理はない。 彼の周囲は彼に対する畏敬の念で距離を縮められないが、突然やってきてえいやと懐に飛び込んできたは貴重な存在だったのだ。 彼自身が分析して思ったわけではないだろう。何となく、感覚でそう感じていたのかもしれない。 何より、あの物怖じしない一生懸命さはこの魔界では貴重すぎる逸材だ。 ある意味、掘り出し物のはずだ。 「盗賊の本能ってやつか...」 掘り出し物を見つけたらとりあえず手に入れたくなるというものだ。 一頻り分析して納得した黒鵺は、とりあえず、蔵馬に対する不満が手下から出てくるのが分かっているのでそちらの対処に回ってやることにした。 |
幽白は蔵馬夢。
というか、自分でも思う。
なに、これ...
一生懸命なところに惹かれる蔵馬、というコンセプトだったけど、
そもそも一生懸命が斜め上を行っているのだから..そりゃ「なに、これ...」だわな。
桜風
11.03.19
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