月下に咲く花 1





ブリーフィングが終わり、疲れを表す溜息を吐きながらイザークは廊下を行く。

あるドアの前に立ち、その部屋の中に入った。

「あら、隊長。どうされました?」

「気持ち悪い...」

「船酔い!?ねえ、船酔い!!??」

楽しそうに笑いながら部屋の主は聞いてみる。

「そう言う意味の『気持ち悪い』じゃない!が俺のことを『隊長』なんて呼ぶからだ。ついでに敬語!」

最近は丸くなったと思ったのだが、この短気さはもう生来の性格としか言いようが無いのだろう。

イザークは部屋の主ことに向かって怒鳴る。

と、言ってもやっぱり昔よりは声のボリュームや言葉の刺々しさはかなり緩和されている。

「冗談よ。何飲む?ジュール隊長はお疲れのようですので、ハーブティなんて如何ですか?ストレス満タンのようですから、ジャスミンティですね」

「ああ、頼む。というか、それが気持ち悪い原因だと言ったよな?」

厭味が少し含まれた響のあるイザークの言葉に、彼女はイタズラっぽく笑って見せて「ゴメンって」と言いながらジャスミンティを淹れる。


暫くすると部屋の中にジャスミンの爽やかな香りが漂う。

「はい、どうぞ」と言いながらイザークの前にカップを置き、その向かいに彼女は座った。

「最近、訓練で怪我をするパイロットがやたらと多いわよ。大丈夫なのかしらね、ジュール隊は」

彼女に言われてイザークは溜息を吐く。

「わざとじゃないのか?」

「わざと?何でまたそんな痛い思いをすることを...」

眉間に皺を寄せながら彼女が呟き、淹れたてのジャスミンティに口をつける。

に会いたいからじゃないのか?」

少しだけ不機嫌にイザークが呟きながら目の前のカップに手を伸ばす。

「ええ〜?そっかな?」

「らしいぞ。ディアッカに『って結構新兵に人気あるみたいだぜ。恋の相談されちゃったからな、俺。けど、お前との関係は言ってないからな。士気が下がるとマズイっしょ?』って少し前に言われたな」

は驚き、そして笑う。

「だからイザークは最近マメに此処に来てくれてたんだ?へぇー。今度本国に帰ったらディアッカに何か奢ってあげようっと!」

「な!?べ、別にそれが原因というわけじゃない!!」

慌てたように否定するが

「だって、イザークってば下手したら同じ船に乗っているのに私の存在をすっかり忘れてしまっていそうなのよね。まあ、それは1回実証済みだしねー」

ちょっと恨みがましくが言うとイザークは言葉に詰まる。


先の戦争でもガモフで一緒に戦っていた。

が、彼女は本国に戻ることになったため途中で船を降りた。

そして、イザークがそのことに気がついたのは彼女がガモフを降りて4日経ってからだった。

「正直、あの通信には度肝を抜かれたわ。『何で俺に話さない!』って。話しましたー!」

あの通信でのイザークの物まねをしてそのまま突っ込みを入れるにもうイザークは言葉がない。

あの通信のとき「私ちゃんとイザークに言ったからね」と言われてやっと思い出した。確かに、聞いたような気がする。

けど、それは頭には入っていなかった。アスランにいかにして勝つかを考えている最中であったため、イザークの脳は愛しい彼女であるはずのの言葉を理解していなかったのだ。

「悪かった!」

「ほんとにそう思ってる」

「ああ、反省している」

「じゃあ、今度本国に帰ったときに一緒にパフェ食べてくれる?」

イザークの顔を覗きこむようにが言う。の言う『一緒に』というのは勿論イザークもパフェを食べるというコトだ。彼女は『彼氏と自分の大好きなパフェを一緒に食べる』というのに憧れているらしい。

顔がどんなに綺麗でも性格は結構男前のイザークとしては、人前であんな甘ったるい可愛らしいものを食べるというのは酷く抵抗感があるらしい。は誘う度に今まで何度も断られてきたのだ。

因みに、ジュール邸ではその願いを何度も叶えてあげている。

「...わかった」

観念したのかイザークが唸るように了承する。


そのイザークの苦渋に満ちた表情を見てはイザークに気付かれないように笑う。

意外と、可愛い...

「冗談よ。私、全然怒ってないよ。イザークが会いに来てくれるのは勿論凄く嬉しいから。生きてるってちゃんと確認できるもの」

が微笑みながらそう言う。

その表情を見たイザークは困ったように笑った。










桜風
07.8.11


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