| は距離を取っていたつもりだったが、それはあまり意味の無いものだったらしく『A』は素早く間合いを詰めて、そしての肩を掴んでそのまま壁に押し付けた。 「逃げられませんよ」 ...イザーク! 男の顔が近付いて来る中、は心の中で恋人の名を呼んだ。 その途端、突然医務室のドアが開いた。 「な!?」 男は驚いて振り返る。 ロックをかけたはずだ。簡単に開くはずがない。 そして、男は更に驚く。銀髪のいつも冷静で居る隊長が惜しむことなく自分に向かって殺気を放っている。 「キサマ、何をしている。アレックス・ウォン」 アレックスか... イザークの声が聞こえた途端の心にも余裕が生まれ、『A』の本名を思い出した。 「何をしている、と聞いている。応えろ、アレックス・ウォン」 カツ、カツと靴音が部屋に響く。その音が更にアレックスを硬直させる。 の肩に掛けているアレックスの手を解き 「大丈夫か?」 とイザークはに声を掛けた。 「ええ、ありがとう」 は肩を擦りながら頷く。 「応えはまだか、アレックス・ウォン」 を背に庇うようにイザークが立って間近で声を掛ける。 「あ、あの。これは...冗談!そう、冗談だったんですよ。ね、Dr.?」 「そうは見えなかったけど?犯されるかと思ったもん」 は真っ青になっているアレックスを前に、平然と事実を口にする。 「ほう?」 イザークは目を眇めてアレックスを見た。気のせいか、先程よりも殺気が鋭くなってきているような... 「いえ、あの。これは本当に...」 しどろもどろに言い訳じみた単語を口にしていると 「あーあーあー...ウォン、イザーク怒らせちゃったの?馬鹿だなー」 ドアの外から非常に呆れた声が聞こえる。 「様子を見に来たらこれだもんな。ま、大人しく左遷されろよ。この船に居るよりもマシなはずだぜ」 そう言いながらディアッカは部屋の中に入り、アレックス・ウォンの肩をポン、と叩いてそのまま部屋の外に連れ出した。 ドアが閉まるのを確認してイザークは振り返りの様子を見る。 衣服の乱れもない。 「何もされなかったか?」 「はは、唇を奪われそうになりましたけどイザークのお陰で未遂。本当ありがとう」 「さっき、その。犯されかけた、と言わなかったか?」 「ああ、うん。ベッドに投げ出されたんだけど、そこからは脱出しましたよ。流石に組み敷かれてからだと勝算はないから」 言われてベッドを振り返ると確かに少し乱れている。 イザークは安心して息を吐いた。 本当に何も無かったらしい。 「しかし、どうにかしないとな。あんな馬鹿、まだ居るだろうし」 「スタンガンの所持の許可をいただければ...逃げる時間くらい稼げると思うし」 の提案に間を置くことなく 「許可する」 と即答した。 はその返答の速さが可笑しくて笑う。 「笑うな!」 「ごめんなさい」 謝りながらもの笑いはおさまらない。 不機嫌になったイザークは右手での顔を上に向かせる。 唇に触れる寸前 「消毒だ」 と呟き、口付ける。 いつもより少し乱暴で深いキスには少し驚き、そして、応える。 暫く水音が部屋の中に響いていたが、酸素を求めて一度唇を離し、再び唇を合わせようとしたところで艦内放送が掛かりイザークが艦長に呼び出された。 チッとイザークは舌打ちをする。 目の前の熟れた果実のようなその唇に軽くキスをして、 「また後で来る」 と一言言い残して背を向けた。 残されたは呼吸を整えながら 「何の消毒だったんだろう?」 と呟く。 後で来るそうだから聞いてみよう。 眉を顰めて嫌そうな顔をするイザークの表情を思い浮かべて、思わず噴出した。 |
桜風
07.9.22
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