月下に咲く花 9





イザークと入れ替わりでバスルームに入ったは唖然とした。

自分の体のいたるところに赤い星が散っている。

「イザーク...」

低く唸るようにその犯人の名前を口にする。

は体質なのか、痕がつくと中々消えない。しかも、昨日購入した服だといくつかこの赤いものが見えてしまうのではないか?

シャワーを済ませてバスローブを身に纏い、派手にドアを開ける。

「イザーク!」

「ああ、どうした?」

イザークの前にはルームサービスで頼んだ朝食が並んでいる。

「どうした?じゃなくて!アレだけなるべく痕は付けないでねってお願いしてるのに。さっき鏡見てビックリしちゃったじゃない!」

ああ、そのことかとイザークは納得し、コーヒーを一口飲む。

「仕方ないだろう。これでも遠慮しているんだぞ」

そんなことを言う。

どれだけ自分の体を真っ赤に染めたいのだろう?

はそう思いつつ、

「しかも、昨日買った服着れないじゃない」

続けて抗議した。

「そうなったら、ショールでも羽織ってみたらどうだ?今の時期の夜ならおかしくないだろう?」

あまり感心無さそうに言う。

「もう!」

は頬を膨らませてそっぽを向いた。


そんなの様子を見てイザークはそっと溜息を吐く。

仕方ないじゃないか。四六時中一緒に居られるわけではないのだし、何より自分の艦にはを狙っている虫が多いらしいのだ。

見る目が有ると褒めたい反面、凄く煩わしい。

だから、自分が所有している印を付けたいと思うのは極当たり前の衝動だろう?

さっきもに言ったが、これでも抑えているのだ。

隊長で居るときの自分にはどうも時間が足りない。

のいる医務室に顔を覗かせている数十分。それが今のところ、軍服を着ている自分がと自分のために取れる時間の限界だ。

イザークは全ての書類に目を通している。

ディアッカが言うには、別に隊長自ら目を通す必要のないものにまでチェックを入れているのだ。

「たまには、自分が楽すること考えたら?」

溜息混じりに言われた。

しかし、意外と生真面目な性格がそれを許さない。

自分でも困った性格だと自覚している。


「あ、クロワッサン」

の声で顔を上げる。

さっきまで拗ねていたのだが、いつの間にか目の前に座ってコーヒーを淹れていた。

「ああ、好きだろう?」

そう言ってイザークはの前にクロワッサンの乗っている皿を移動させる。

はあっさりしている性格で非常に助かる。

案外口に出せないで居る事とかあるのかもしれないが、今イザークに見えている彼女はイヤなことがあっても仕方がない、といい意味で諦められるのだ。

上機嫌には食事を摂ってデザートのフルーツに手を伸ばしている。

「ところで、

イザークが声を掛ける。

「んー?」

フルーツにフォークを刺しながら返事をする

「今何時か分かっているか?」

聞かれて部屋の中の時計を探す。

「は、8時前...」

そう応えて項垂れた。

「ああ、もっと寝れた。あと2時間は寝られた...」

惜しむようには呟く。

「実に軍人の鑑だな」

イザークは数時間前と同じ言葉でからかった。



しかし、恋人と過ごす数時間なんていうのはあっという間で、そろそろ目的の店もオープンする時間ともなり、ホテルを後にする。

今朝のの提案どおりにお揃いのブランドのリングを購入すべく、そのコロニーにある支店へと向かった。

店内で煌いているアクセサリーに目を奪われ、はショーケースの中を目を輝かせながら覗く。

そんなの様子をイザークは肩を竦めながら眺めていた。

「彼女へのプレゼントですか?」

品のある店員に声を掛けられ、

「いえ。彼女にプレゼントを贈ったのですが、お揃いが良いと言って...でも、今はその目的をすっかり忘れてますね、あの様子だと」

とイザークは苦笑しながら応えた。

「ねえ、イザーク!イザーク!!」

が手招きをする。

「はいはい」と言いながらイザークは彼女のそばに行く。

「これ、凄く可愛くない?!」

確かに可愛い。可愛いが、

「俺にか?」

と聞いてみた。

そこでやっとはこの店に来た目的を思い出す。

「え、えーと。これとお揃いってどれかなー」

とわざとらしく首を巡らせる。

それに気付いた店員が声を掛けてきての話を聞き、応対を始める。

イザークはされるがまま、大人しくの思うとおりに従った。


支払い時にが出そうとしていたらイザークに阻まれ、お互いにらみ合いが続く。

イザークは自分にくれたのだから、イザークの身に着けるものは自分が払うと主張する

それとこれは話が別だと諭そうとするイザーク。

困り果てた店員は取り敢えず遠い目をしながら、目の前の仲の良い恋人たちの結論を待った。










桜風
07.10.27


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